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グローバル化を進めるタケダのIT戦略と6つの重要な教訓――武田薬品工業CIOオリビエ・グアン氏


 国内トップの製薬メーカーであり、積極的なグローバル化を進める「タケダ(武田薬品工業)」。そのIT戦略のキーパーソンとして、2014年1月にCIOに就任したオリビエ・グアン氏だ。「Gartner Symposium/ITxpo 2015」のゲスト基調講演に登壇したグアン氏の講演録をお届けする。グアン氏は就任直前2013年当時の同社の課題から、課題解決のために行われたシステムや組織の統合、そしてデジタル活用への取り組みの成果について紹介。ビジネスのグローバル化に向けた変革を成功させるために、今日本企業が何をすべきか、多くの示唆を与えるものとなった。

経営統合によるシナジー効果に期待

 1781年創業を起点とし、企業として様々な改革を経てきた武田薬品工業。2008年にボストンのミレニアム社を、2011年にスイスのナイコメッド社の買収を実施するなど、積極的にグローバル化を進めてきた。そして、2013年より長谷川閑史社長(現会長)の下、「グローバル経営」を宣言し、財務や調達などの各分野でグローバル経営を熟知する人材が世界中から集められた。IT戦略のエキスパートとして招かれたグアン氏もその一人だ。

 グアン氏は、2014年に代表取締役社長に就任したクリストフ・ウェバー氏の「常に患者を中心に考え、機動的かつBest-in-class(世界最高水準)の製薬会社を目指す」との宣言を紹介。タケダのミッションである「世界中の疾患に対して解決策を提示すること」を実現するためには、「グループの3万人、70カ国、そして5つの治療領域(消化器系疾患、オンコロジー(がん)、中枢神経系疾患、代謝性・循環器系疾患、ワクチン)において、“患者を中心に考え、動くこと”が重要」と強調する。

武田薬品工業 CIO オリビエ・グアン氏

 現在、タケダの売上げは日本が43%、米国22%、欧州22%と分散しており、研究開発はアジア、米国を中心に地域性に考慮して行われている。さらに製造拠点は25カ所に上り、着実なグローバル化の途上にあると言えるだろう。

 その一方で、厳しい医療・経済環境に加え、特許切れやジェネリック医薬品の拡大などの影響も少なくない。常に先進的で優れた効能を持つ医薬品の開発を継続して行うこと、それがタケダの存続・成長に不可欠とすれば、そのために患者や地域の情報をすくいあげ、共有し、組織のシナジー効果を高めることが求められるというわけだ。

タケダが着手した、グローバル化のための統合アプローチ

 グローバル経営を推進する上でのIT課題として、グアン氏は「組織の分断」を挙げる。日本、米国2カ所、欧州という4拠点が、それぞれ地域に根付いたソリューションを用いており、アウトソーシングの割合も拠点ごとに異なれば、シャドーITも常態化するなど、説明責任やポリシーに一貫性が欠けていた。

 そこで、IS/ITチームに与えられたミッションは、タケダの事業戦略にIS/ITを連携させながら全体統合を図るというもの。すなわち「グローバルなITソリューションの構築により、組織の統合を成功させ、効率・有効性の向上に役立つ新たな技術を取り入れることで、事業革新を加速させる」というわけだ。その意図のもと、「IS/IT組織統合」「プロセス統合」「ビジネスシステム統合」「共通のITインフラ」の4点についての施策に着手した。

(1)IS/IT組織統合

 4つの拠点を統合するために、まずはファンクション(機能)別に「研究開発」「コマーシャル・セールス・財務」「製造・サプライチェーン」と整理し、各拠点のローカル特有の課題解決にきめ細やかに対応できるようIS/ITのビジネスパートナーを配置した。

 「グローバル化を進めるにあたり、ERPやITインフラなど組織横断的に共有できるものはそのまま統合すればいい。しかし、業務においては拠点ごとに異なる問題や調整が必要になる。そこでIS/ITの各ファンクションリーダーがビジネスリーダーと緊密に連携できるような組織にした」(グアン氏)というわけだ。

 さらにCIO直下の3人のマネージャが、専任の各ビジネスパートナーと連携しながら、各ビジネスエリアの地域別事業および専門事業をサポート。同時にそのエリアのCIOを担う。単に開発を担当するだけでなく、ビジネスの課題や危機感、ニーズなどをダイレクトに感じられることが目的だという。

 なおその際、グアン氏は「いいガバナンスがなければ上手く機能しない」と語る。そのために設置されたのが四半期ごとの「運営委員会」だ。 まず財務・製造・調達など7つのファンクションで経営幹部のファシリテートのもと、ビジネス&IT連携などが協議される「ファンクション別運営委員会」を設置。加えて、コマーシャルやマーケティングについては、オンコロジー(がん)やワクチンなどをテーマに「リージョン別運営委員会」が設置され、地域別の戦略やITが議論される。

 さらに、経営幹部と各委員会の代表が「IS/IT運営委員会」に集い、ITとビジネスの整合性をとりながらガバナンスをきかせている。そこでまとめるべきが「ファンクショナルロードマップ」だという。トップダウンでのファンクション別、ボトムアップでの地域別で「どういう視野を持っているのか」「何をやろうとしているのか」を整理していく必要があるというわけだ。

 グアン氏は「こうしたロードマップがなければ、単に根拠のないプロジェクトが乱立し、優先順位もつけられないまま、リソースも分散する。ビジネス・ビジョンと優先順位を見極め、ITへと落とし込んでいく。このロードマップを提示することが重要であり、かつ各ファンクションがソリューション・ロードマップの責任を持つことが重要」と語った。

(2)プロセス統合と(3)ビジネスシステム統合

 プロセスとビジネスシステムの統合について、グアン氏は「消費材メーカーではほぼ完了しているが、製薬メーカーはこれから」と業界ごとに進捗が異なることを指摘。しかし、今取り組むことで競合他社に差を付ける好機と認識しているという。タケダでは欧州42カ国で使われていたERPテンプレートを、2016年にアップグレードし、米国や日本へと共通化し、2018年には全社化することを計画中だ。

 ここでグアン氏はビジネスプロセス統合について、「ITチームだけで進めようと思っても難しい。業務側だけでなく、経営陣の強力なリーダーシップとサポートが不可欠。当然、各ファンクションのビジネスプロセスオーナーがプロジェクトを主導することが大切」と説明する。そして、ビジネスプロセスを標準化・調和し、ベストプラクティスを調べることも必要という。というのも「ベスト・イン・クラス」にいきなり到達することは難しい。そこで、まずは1つの共通プラットフォームを用意し、それを少しずつアップグレードしていく方が得策というわけだ。

 また、当然ながらデータを企業の資産として活用することも大切だ。このとき、しっかりとマスターデータを調和させておかないと、後々の問題へとつながる。当然、IT組織のグローバル化も必要だ。

(4)共通のITインフラ

 2013年当時は4つの拠点がそれぞれ相談して事業を進め、その中の組織が各自で自律的に動くなど、独立独歩の状態が続いていた。それはITインフラも同様であり、PCからは様々な方法で様々なサーバにアクセスする必要があるなど、煩雑さを極めていた。3万800人の従業員、4万3000のメールボックス、5万7200人のSharePointユーザなど極めて多量であり、もとは別々の会社であったことからレガシーシステムにそれぞれ重複して登録され、9カ所のデータセンタの4250台のサーバで1245のアプリケーションが稼働していた。それらを全て、2014年2月にグローバルなインフラへと統合することを決定。100年で蓄積したデータやシステムをわずか2年ほどの期間で統合しようというわけだ。

 グアン氏は「確かに重複&複雑であることは間違いないが、それらをしっかりと管理して、これをドライバとしてグローバル化を進める必要がある」と意欲を見せた。

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統合されつつ多様化を重視した”組織づくり”

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

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