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IT産業を革新するサービスサイエンス入門

IT産業の顧客満足向上と生産性向上の調和を目指すには?

第1回


 なぜ、巷には使えないシステムが溢れているのか? この問題は、根が深く即効性のある解決策がないとも言えるが、筆者は、「サービスサイエンス」が緩和策の一つとして大きな価値を発揮するのでないかと考えている。  この連載では、この「サービスサイエンス」の具体的な活用法を、まだこの分野に関する知識が浅い読者にもわかりやすいように解説して行きたい。

IT産業の現状

 わが国のIT産業は、仕事量は増えているが、業務単価が劇的に低下しているため、売上は低下傾向にあり、利益にいたっては、極めて厳しい状況にある。これは、日本のIT産業が中国やインド、ベトナムなどとプライス競争を強いられているためである。また、大学の情報処理学科の人気もどんどん下っており、東京大学が定員割れし、慶応大学は、最下位に近い倍率になっている。これは、学生がIT産業をブルーカラー産業と見ているためである。先輩から「徹夜はあたり前、休めない、責任は重く、ストレスは高い」と聞かされているからである。情報処理学科のかつての高い人気は、見る影もなくなっている。

 また、気付いてない方も多いと思うが、2007年問題がIT産業を直撃している。まず、ソフトウェアハウスの生い立ちを思い返してみよう。私は、情報システムを仕事にした第一世代である。当時、ユーザーは、すべてのプログラムを自分で書いていた。しかし、しばらくすると開発すべきプログラム量が膨らみ、私と数名の部下では対応できなくなり、人材派遣会社から資質の高そうなメンバーを派遣してもらい、プログラムを一から教えて、コーディングとテストを担当してもらった。ところが、気が付くと私の部門の派遣社員は、20名以上になり、労務問題やスペース問題が浮上してきた。しかたなく、派遣社員に自社に戻ってもらい、コーディングとテストを続けてもらった。こうしてソフトウェアハウスが誕生した。つまり、ソフトウェアハウスは、生い立ちからして業務を分析し、システム仕様をまとめる仕事をしたことがないのだ。

 また、第一世代の情報システム部は、ライン業務を知り尽くしたメンバーで構成された。このメンバーの活躍により多くのアプリケーションが開発され、企業の情報化が進展し、情報システムは、どんどん大規模化し、複雑化していった。一方、十数年後に情報システム部に入社したメンバーは、大規模システムの運用と保守を担当し、小さなサブシステムを開発することはあっても、大規模システムの再構築を担当することはなかった。その後、第一世代の情報システム部メンバーが2007年問題で抜けていくと、ラインから信頼されない素人集団の情報システム部が誕生した。

 そして、素人集団の情報システム部が要求仕様を作成して、業務をまったくしらないソフトウェアハウスが不完全な要求仕様書に沿ってアプリケーションソフトウェアを開発し、使えないシステムが構築され、とんでもないトラブルを発生し、大きなリスクを内在したシステムが巷に溢れているというわけである。

 この問題は、根が深く即効性のある解決策がない。したがって、問題を緩和する策を具体化するしかない。筆者は、「サービスサイエンス(Services Sciences, Management and Engineering )」が緩和策の一つとして大きな価値を発揮すると考えている。この連載では、この「サービスサイエンス」の具体的な活用法を、まだこの分野に関する知識が浅い読者にもわかりやすいように解説して行きたい。

産業の情報化

 先進国のサービス産業は、経済の70%を占めるまでになっており、産業の「サービス化」が話題になっている。例えば、製造業も製品を販売するだけでなく、アフターサービスが重要な要素になってきている。この「サービス化」を掘り下げるため、「サービス化」の前に起った産業の「情報化」の流れを振り返ってみたいと思う。

 かつて、日本産業の中心は製造業であった。多くの製品が製造され、国内や海外で販売されてきた。例えば、新潟県燕市では銀食器が生産され、主に海外に輸出された。また、群馬県桐生市の絹織物なども同様であった。

 その後、日本の工業化はさらに進み、エレクトロニクス製品が大量に生産される様になった。この頃から産業界で「情報化」が話題になった。この「情報化」には、下記の意味合いがあった。

  1. 先進的な企業が自社の情報システムを強化して、開発の効率化、生産の効率化、経営判断の迅速化を図った。
  2. 製品の価値の源泉が組み込まれたマイクロコンピュータシステムに依存する割合が大きくなった。
  3. パソコンやゲームマシンのように製品を販売するだけでなく、その後にアプリケーションソフトウェアやゲームコンテンツなどの情報を追加販売していくビジネスモデルが現れた。

 情報産業の代表的な製品である大型コンピュータで使われるソフトウェアは、当時「ハードウェアのおまけ」として扱われており、情報に費用を払う風土はなかった。しかし、情報処理が大学で研究され、社会で価値ある成果を出し続けるようになると、ソフトウェアや情報コンテンツの重要性が認識されはじめた。やがては、ソフトウェアや情報コンテンツに妥当な費用を支払うことが当たり前になったのである。そして、ソフトウェアの専業企業であるマイクロソフトやオラクルは、大きな利益を出し、現在ユーザーに有用な情報コンテンツを提供しているGoogleは、巨大な企業に成長している。

産業のサービス化

 この産業の「情報化」の次に起ってきたのが、産業の「サービス化」である。これには、サービス産業自身の成長と製造業のサービス化が含まれている。個人所得の増加により自分で行っていた日常的な仕事をお金を払って人に頼むようになったこと、共働き夫婦の増加や高齢化により、生活を支援する新たな仕事がビジネスとして出現したことなどにより、サービス産業自身が大きく成長した。サービス産業の成長と同時に進展した製造業のサービス化には、下記の要素が含まれている。

  1. 製品を顧客に提供する際に製品販売だけで収益を得るのではなく、アフターサービスのように継続的に利便性を提供し、継続的に収益を得るビジネスモデルに移行する。
  2. 製品そのものを売るだけではなく、レンタカーのように必要なときにだけサービスを利用してもらうビジネスモデルを立ち上げる。

 これらのサービスの成長により、先進国ではサービス業が経済の70%を占めるまでになっている。しかし、サービス業は、なかなかよくならないサービス品質や合理的な根拠のない価格設定などに悩まされている。また、情報化の初期と同じように、サービスは「おまけ」として扱われている業界もあり、サービス産業は、まだまだ成熟した事業にはなっていない。

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サービスサイエンスの登場

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この記事の著者

諏訪 良武(スワ ヨシタケ)

1971年 オムロン入社。85年通産省の∑プロジェクトに参加。 95年情報化推進センター長。97年オムロンフィールドエンジニアリングの常務取締役として、企業変革を実践。 04年OA協会か...

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