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なぜ企業のビックデータ活用はうまくいかないのか?―あらためて「本当に欲しいデータ」について考える

「フェイルファスト」安く、早く失敗して迅速に改善するサイクルを確立すべき

「投資額に合わせて壮大なリターンを描くから、身動きがとれなくなる」(網野)
「投資額に合わせて壮大なリターンを描くから、身動きがとれなくなる」(網野)

網野:本来ビジネスで「やりたいこと」と、「テクノロジー」の順番を間違えると大変なことになります。「分析システムに投資するには見合ったリターンがないと」から始まると、架空のリターンを机上で描くことになります。一昔前のバカ高い情報系の投資金額から架空のリターンを作ると、リターンを得るために余計な機能が増え、全部署で共通で使うとか言い出し、それで開発コストが増え……という悪循環に陥ります。

岡:フェイルファスト。安く、早く失敗できることがすごく重要です。かつては古くて高いシステムを購入して、「ご本尊」のようにお守りして。高い投資のリターンをとらないといけなかった。だから、時間をかけて架空の「何か」を作り上げてしまう。しかも、失敗できないから身動きがとれないという悪循環が生まれていました。

 クラウド時代が到来することにより、いまやっと、この悪循環を断ち切れる時代になりました。

網野:昔のBIツールって画面を作るのが大変でした。少し画面を変えるだけで数千万円追加コストがかかってしまうことだってあります。でも、世間からは「たかが項目を一つ二つふやしただけではないか」、ぼったくってると思われがちですが、本当に工数をかけたグローバル企業なら億単位の投資は珍しくはありません。

 まず、どんな情報が見たいかをまず経営者にお伺いをたてると、みなさんそれなりに「こういうのがほしい」と答えてくれます。億単位の投資だと失敗できないので、何十人ものコンサルタントが各部署各担当にインタビューして入念に仕様を決めて、時間をかけて開発して、1年半後にできあがったものを見せたら「えっ、こんなの欲しいって言ったっけ?」と言われてしまう。ビジネスサイドから見ると簡単な変更でも、データの持ち方、グラフの表現の仕方など場合によってはゼロからやり直し。そして現場では徹夜が続いてエンジニアが倒れていくんです。

横井:リアルだ……。

網野:こうしたアプローチが変えられる時代になった。今なら全件データを先に預かり、実際に分析して「社長のリクエストはこういうことなんですけど。これが本当に役に立ちますか?」と見せれば「いや、ここはこうしてほしい」と修正がききます。分析の頻度も同じです。例えばクライアントは気軽に「リアルタイムで分析がしたい」と言いますが、それを信じて愚直にリアルタイムを実現するとシステムコストが何倍にも跳ね上がってしまいます。実務的には1時間でも1日でも十分かもしれません。プロトタイプがあれば、実務で使いながら本当に必要な仕様を決めることができます。これはマイクロソフトさんはじめ、クラウドなどの今の技術の進化で得られた恩恵です。ビジネスでもシステムでも失敗できることは重要です。岡さんが言うとおり、フェイルコストが限りなく安くなりフェイルファストが可能になることがクラウドのメリットですよね。

岡:「とりまわしを軽くしましょう」とよく言っています。これはシステムもデータもプロジェクトもです。かつて失敗は厳禁でしたが、「これってだめなんだ。よく見つけてくれたね。ありがとう」といえるようになりつつあります。

横井:PDCAのPに何年もかけたら、Dが「なぜこうなった?」。いつの間にか目的を見失った感がシュールでカフカみたい。でもよくあるし、自分も昔経験あります…

高木:時間がかかると元の担当者がいなくなったりします。

岡:規模が大きくなると組織も大きくなります。

横井:サグラダ・ファミリアのような……。

岡:「かつて1年でやろうとしていたことを2週間でやろうよ」が今なんです。クラウドになり、今は並列処理できるので性能もかけ算で増やすことができます。「失敗しちゃいけないから、新しい技術なんてもってのほか。みんなが知っている技術でないと」だとテクノロジーの進化や恩恵が受けられなくなります。

その「ご本尊」と固定費、本当に必要ですか? 最新技術なら2桁下げられるかも……

横井:SQL Serverでもサポートが切れる直前の「枯れたもの」が好まれたりします。しかし今のSQL ServerはPaaS の Azure SQL Databaseであらかじめプレビュー、その後 GA (General Availability、一般公開を指す)後じっくり運用を経験したバージョンのソースをバックポートしているので、実はすでにリリース時点で十分枯れているのです。昔は「使うならSP3からだよね」と言われていましたが、今は違うんです。

おそらく他社さんでもそういうイメージなのでしょうね。高くて大きなハードウェアを購入して……。

岡:よく「ご本尊」とか言いますね(笑)。

網野:昔は大変でしたよ。約10年前、コンサルティングで入った案件でありました。まだクラウドのデータウェアハウスサービスもなく、ぼく自身はまったく技術に詳しくなくて。試しに分析したいけどマシンがないのでベンダーに「箱を貸してください。うまくいったら売れますから」と交渉して借りることができました。後から「船便で出荷されたので後2ヶ月で届きます」と言われてびっくり。

岡:すごいレイテンシーだ。

網野:当初は箱が届いたらオフィスに置くつもりでした。しかし電源は240V、空冷が必要と分かり、置く場所がないので再びベンダーに行って「置く場所を貸してください」と頭を下げて。さらにその箱を扱える人がいないと気づき、人もつけてもらうことになり。ほんの実験のつもりだったのに2億円規模の話に膨らんでしまって。

横井:ちょっと実験するつもりが2億円!

網野:今は同じことが3~5万でできてしまいます。電源工事も空冷も土下座も2億円も要りません。

(一同笑)

網野:うちのビジネスも昔なら大量の投資が必要でしたが、クラウドのおかげで大規模投資の必要がなくなりました。

横井:企業なら、クラウド サービスに移行すれば、その分固定資産が減りますから、企業価値が高まりますよね。こういうことを経営者はもっと知るべきでは。日本は固定費が多すぎるという指摘があります。実際公開された財務諸表を見ると、その指摘はあながち誤解でもないな、と思ってしまいます。

「テクノロジーは最新が最善」(岡)
「テクノロジーは最新が最善」(岡)

岡:競争力を削いでますよね。日本は固定費をかけすぎです。ある事例では1つのWebシステムあたり、ハードウェアから人件費まで、年間で2億円の運用費がかかっています。今のテクノロジーなら2桁は下げられます。その分、戦略的な投資に回せます。ほかも月に数千万円のコストをかけて「うちは規模が大きいからできる」というのですが、そういう問題じゃなくて。

横井:もったいない。上場企業だとIRで見られますよね。固定費の使い方次第では評価を下げて競争力を削ぐことになるのでは。

岡:それで話が元に戻るのですが、目的を絞るのが重要になります。テクノロジーは最新が最善。数億円規模の投資でも、最新技術なら数桁下げられるかもしれません。なのになぜか大事なところは「えいやっ」と決めてしまうんですよね。

横井:大事なところほど定量的ではなく、定性的。悪く言えば「ふんわり」「何となく」感が付きまといがちです。これはなぜなんでしょうね。

岡:「失敗しちゃいけない」が前提だからじゃないですかね。ワンチャンスしかないから、データもテーブルも膨らんでいく。

高木:ステークホルダーが増えると、調整が進まなくなりますし。

横井:網野さんがおっしゃるように、プロトタイプでコンセンサスとるのはいいと思います。今なら実データが使えて、すごい説得力がありますから。

岡:そうなんですよ。紙の絵では響かないんです。

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ご本尊は不要。必要な時だけ分析結果を出せればいい

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この記事の著者

加山 恵美(カヤマ エミ)

EnterpriseZine/Security Online キュレーターフリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。Webサイト:https://emiekayama.net

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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