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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

顧客データをなくしても責任はない?クラウドの約款に見え隠れする落とし穴

ベンダが約款に基づく免責を主張した事件

(東京地方裁判所 平成13年9月28日判決)

 あるログハウスの建築業者がインターネットプロバイダとレンタルサーバ契約を締結した。建築業者はレンタルしたサーバ上に宣伝用のWebサイトを開設し稼働していたが、プロバイダはサーバを貸しているだけで、Webサイト自体の運用については請け負っていなかった。

 ある時、プロバイダの作業員が運用上の都合からWebサイトのデータファイルを別のディレクトリに移し替える作業を行った際、誤ってデータを滅失してしまった。このプロバイダと建築業者が自己のPC上で作成し、サーバに転送したものであったが、この時点ではPC上にデータが残っておらず、また、建築業者、プロバイダ共にファイルのバックアップを取っていなかったため、Webサイトは建築業者が再構築する他なかった。

 Webサイトはサイトのデータを再作成したのち再開されたが、建築業者はプロバイダに対して、その再作成費用と公開中断による逸失利益の損害賠償 約1億円を求めて訴訟を提起した。

 建築業者の立場からすれば、自分達にはなんの非もないのに、多額の損失を被ったわけですから、プロバイダにその額を請求したくもなるでしょう。常識的に考えても、こうした場合には、ミスを犯したプロバイダが謝罪して、なんらかの補償をしてもよさそうなものです。建築業者は、当然それを求めて裁判を起こしたわけですが、このプロバイダはそれに応じません。彼らがその理由としたのは、サービス約款にある以下の条項です。

(約款34条)

 当社は、契約者がインターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも、第30条(利用不能の場合における料金の精算)の規定によるほか、何ら責任を負いません。

(約款30条)

 当社は、インターネットサービスを提供すべき場合において、当社の責に帰すべき事由により、その利用が全く出来ない状態が生じ,かつそのことを当社が知った時刻から起算して、連続して12時間以上インターネットサービスが利用できなかったときは、契約者の請求に基づき,当社は,その利用が全く出来ない状態を当社が知った時刻から、インターネットサービスの利用が再び可能になったことを当社が確認した時刻までの時間数を12で除した数に基本料の月額の60分の1を乗じて得た額を基本料月額から差引ます(後略)。

 少しややこしいですね。簡単に申し上げると、このプロバイダは、「自社の責任となるような事象が原因で、顧客が作ったWebページを12時間以上公開できなかったようなときには、その間の基本料を差し引きますが(30条)、それ以外は何ら責任を負いません」と言っています。

 この事件についてもこの条項が当てはまるので、自分達にはお金を払う責任は生じないというのが、プロバイダ側の主張です。この建設業者の利用していたサービスの料金は6か月で18,000円ですから、この約款を適用するとプロバイダの責任は、ほとんど無いに等しいと言っても良いくらいでしょう。

(もっとも、この裁判においては、プロバイダ側も、一定の責任を認め、建設業者がホームページを再作成するのに必要な費用を「399万円を超えない」と主張の中で述べています。裁判の成り行きによって、その程度の金額を支払う覚悟はあったのかもしれませんが、その数字も、建設業者が請求している数千万円からは大きくかけ離れています)

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いかに常識外れでも“契約は契約”?

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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