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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

泣き寝入りで諦める必要なし ネットへの書き込みは本当に「自由」なのか

それでも情報開示を求めた裁判の例

 そうは言っても、いわれのない誹謗中傷によって、個人の心が傷ついたり、店舗や企業の業績が落ち込むようなことがあるなら、これを座視するわけにはいきません。ぜひともプロバイダに書き込んだ人間の情報を開示してもらい、しかるべき法的な手段をとりたいところです。

 今回取り上げるのはそんな事件です。ネットの書き込みによって営業上の不利益を被った企業が書き込んだ者を訴える為にサイトを運営するプロバイダに対して情報開示を求めた例です。こうした場合において、プロバイダには情報を開示する義務があるのか、そして、その条件は何か。そんなことを考えてみたいと思います。

 (東京地方裁判所 令和元年12月11日判決より)

 インターネット上のマンション投資の話題を取り扱う掲示板サイトに「不動産投資会社Aってどうよ?」というタイトルの書き込みがなされたが、その投稿の中には 「クリスマス会、やるとおもってるんですか。社員もお金ないんですよ。やる余裕なんてありません。(笑)」との書き込みがあった。

 これについて不動産投資会社Aは、「こうした事実に反する書き込みは、顧客の不安をあおり、継続的な取引や新規顧客の獲得に影響を及ぼす名誉権侵害にあたる。「また、やはり書き込みの中に『そのくせトップ二人はぶくぶく太っているんでしょうね。』との書き込みもあるが、これは揶揄された役員に対する侮蔑、人身攻撃であり、名誉感情侵害にあたる。」として、書き込み者に対する法的措置の為、プロバイダに書き込み者についての情報開示(氏名または名称、住所、電子メールアドレス) を求めた。

 これに対してプロバイダは、書き込みの内容は個人の感想であり、名誉権侵害、名誉感情侵害にあたるとは言えない。として情報開示を拒み裁判となった。

ネットへの自由な書き込みは権利侵害となるのか

 くどいようですが、この裁判は原告である不動産投資会社がプロバイダに対して書き込んだ人間の情報を開示することを求めて起こしたものであり、プロバイダ自身に名誉棄損があったかを問うものではありません。

 ただ判決文の要約にあるとおり、不動産投資会社の真の目的は書き込みを行った人間に対して法的手段をとることです。つまりこの裁判は、情報開示を求めるものではありますが、その結果は、そもそもネットへの自由な書き込みが、権利侵害で訴えられることがあるのか、そうした点を問うてます。

 SNSや掲示板への投稿が、個人的な感想に留まるのか権利侵害になるのか、プロバイダは情報開示を命じられるのかどうか、その基準を考える上で、とても有効な示唆を与える裁判と言えるのではないでしょうか。

 こうした基準について、読者の皆さんはどのようにお考えでしょうか。上述したような書き込みが事実に基づかないものであるとするなら、確かに迷惑な投稿ですし、大いに失礼とも言えます。個人的には、法的に責任があるかどうかは置いておいたとしても、書き込んだ人間の品性については、大いに疑う面があると感じます。

 ただ一方で、この程度の書き込みであれば、巷に溢れているため、目くじらを立てるほどのものでもないと感じる方もいることでしょう。実際こうした書き込みは、掲示板やTwitterはもちろん、転職サイトに掲載される会社の評判にも、書き方や言葉遣いに差はあれ数多く見ることができます。“あの会社は危ない。”“ブラックだ。”“あそこに就職した知人が3日で退職した。上司がひどい人だったらしい。” そんな言葉が溢れる中、懸命な読者は、その中から真実を見つけ出します。それがネットというものだと言う人もいることでしょう。

 法的責任を負うべき書き込みと、単なる感想その線引きは、どこでするのでしょうか。

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情報開示を求められる基準

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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