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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

「契約の目的」をクリアにしないことで陥る落とし穴


「開発目標」の弱点1:契約書に書かれていない

 繰り返しますが、ソフトウェア開発において「契約の目的」はとても大切です。

 要件は多少の変更や未対応があっても、ベンダの仕事の完成が認められ、ユーザ企業に対して費用支払いが命じられる場合が多いのですが、契約の目的に資さないとなれば、別の判決が出る場合が多いものです。この事件でも、開発目標に記された事柄は確かに、ユーザ企業の業務改善に必要なものですので、ソフトウェアが、まったくその役に立たないのであれば、費用の支払いを拒むことができそうです。

 ただ、この「開発目標」にはいくつかの弱点があるようにも見えます。まず開発目標が契約書には記載されておらず、会議のレジュメに記載があるのみという点です。この会議において、開発目標が双方で合意されたことは、裁判所も他の証拠を見て認めてはいるのですが、やはり正式な契約書に記載がないというのはどうでしょうか。

「開発目標」の弱点2:この契約でやること、やらないことが判別しづらい

 また、示された目標に“スキャナー使用”、“福岡・沖縄間のオンライン化”など、ベンダの作業には直接関係しないものも含まれています。ここは少し注意が必要な部分です。

 通常、ソフトウェアの開発契約では、必ずしもそのソフトウェアで実現することだけを書くわけではありません。たとえば顧客の管理を一元的に行いたいという目標があったとき、それは管理データベースを作る上での目標ではありますが、そのためのネットワーク構築を行うとか、顧客管理のための組織・体制を構築するなど、必ずしもデータベース開発とは関係のない項目が出てくるものです。

 それらは、確かに大きな意味での目標を達成するためのものであり、契約書に書かれることもあります。そうでなければ、データベースの構築だけで、顧客の一元管理という目標をすべて達成しなければならないからです。今回の件に関しても、ベンダの作るソフトウェアと合わせて、スキャナ使用や福岡・沖縄間のオンライン化等があって、初めて契約の目的が達成されるわけですから、やはり、この記述は必要でしょう。

 しかし大切なことは、こうした目標のうち、どの部分がこの契約の対象であるのかをハッキリさせることです。この契約はソフトウェアの開発が債務であり、スキャナーやオンライン化は、対象外であるということを書いておかなければ、せっかく書いた開発目標も債務、つまりベンダの仕事かどうかわからなくなってしまうということです。

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結果的に、裁判所はどう判断したのか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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