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韓国はなぜ国連の電子政府ランキング一桁順位を維持できるのか?

GLOCOM 「デジタルガバメント」セミナーレポート

 国連が加盟国を対象に2年ごとに実施している調査によれば、2020年における世界の電子政府ランキングにおける日本の順位は14位であった。これに対して、世界で最も政府の電子化が進んでいる国が隣の韓国である。12月2日に国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)が主催したオンラインセミナー「デジタルガバメント」シリーズの模様から、韓国の現状を組織体制の観点からITコンサルタントの識者の解説をお届けする。

デジタル司令塔を務める知能情報社会振興院(NIA)

イーコーポレーションドットジェーピー株式会社 代表取締役 廉宗淳(ヨム ジョンスン)氏
イーコーポレーションドットジェーピー株式会社 代表取締役 廉宗淳(ヨム ジョンスン)氏

 1997年12月、韓国はアジア通貨危機に端を発する国家の破綻に直面し、IMFから資金援助を受ける代わりに、国民は大きな犠牲を伴う改革を強いられた。翌1998年に大統領に就任した金大中氏は、国家情報化推進を公共分野のニューディール政策の一環として進めた。その後の政権でもこの路線は基本的に引き継がれ、現在の文在寅政権は、2020年7月にデジタルとグリーンの2つを軸とする「韓国版ニューディール」構想を発表している。

 20年来の経験を踏まえ、「皆様、『電子政府』という言葉で『国家情報化』を矮小化しないで下さい」とヨム氏は訴える。国家が情報化すれば、市民生活だけでなく、企業活動にも良い影響が及ぶ。「国家情報化とは国家全体を情報化することであり、単なる行政分野の情報化ではありません」とヨム氏は強調した。

 その国家情報化の司令塔に相当する組織が、行政安全省(日本の総務省に相当)と科学技術情報通信省の共同傘下にある「知能情報社会振興院(NIA:National Information Society Agency)」である(図1)。このNIAが日本で2021年9月に発足したデジタル庁に該当する。

図1:韓国の国家情報化に関連する組織体制 出典:イーコーポレーションドットジェーピー[クリックして拡大]

 NIAは国家情報化の全体戦略に相当する「国家情報化マスタープラン」を策定し、PMO(Project Management Office)として、全プロジェクトの進捗と成果を包括的に管理する役割を担う組織である。約500名の職員のほとんどが博士号を持つ人材で、IT分野だけではなく、法律、医療、教育、建設土木など様々な分野の博士たちが集まっている。公務員だけにすると、報酬の問題で優秀な専門家を雇えないこと、政策実行の連続性を保証できないので、民間の人材を登用することになったという。委員長は民間公募だが次官扱いとなる。ヨム氏が日本語訳した組織図は図2の通りで、「経営企画室」の他、8つの本部から成る組織となっている。

図2:NIAの組織体制 出典:イーコーポレーションドットジェーピー[クリックして拡大]

 現在、NIAが進めている政策の柱は「DNA+基盤」。それぞれ、Dは「国家データ基盤の構築」、Nは「ネットワークインフラの構築」、Aは「AI」、+が「包摂性」、基盤は「経営革新と社会的価値の実現」を表すのだという。

自治体はシステムの共同利用を実現、政府はIT部門を集約

 行政安全省の直轄組織として、地域情報開発院(KLID:Korea Local Information Research & Development Institute)と国家情報資源管理院(NIRS:National Information Resources Service)の2つの組織も、国家情報化における重要な役割を果たしている。

 まず、KLIDは韓国の全ての基礎自治体と広域自治体の基幹行政システムを開発し、利用できるようにしている組織であり、地方行政専門の公務員200名と業務委託で仕事をする民間のエンジニア200名から成る。院長はNIAと同様に次官扱いで、民間公募で任命される。法改正への対応だけでなく、ユーザーである自治体へのコンサルティングの提供と、職員の教育を担当する。

 全自治体がシステムを共同利用できるようになれば、開発費用とエンジニアの負担を減らすことにつながる。そのためにKLIDが利用しているのが、再利用可能な共通機能モジュール、開発環境、実行環境から成る電子政府フレームワーク(eGovFrame)である。自治体の基幹産業が農業のところ、漁業が中心のところ、観光を重視しているところなど、それぞれ違って当然だ。しかし、ここで個別開発を許してしまうと、永遠に共同利用は実現しない。そこで、自分たちの自治体に合わせたシステムの構築ができるよう、eGovFrameは必要な機能モジュールを用意している。

 一方、システムが使うデータに関しては、KLIDではなく、行政情報共同利用センター(PISC:Public Information Sharing Center)の管轄になる。PISCは韓国電子政府法に依拠して作られた組織であり、2020年時点で官公庁や自治体を含む約700の団体がデータを共有している。情報漏洩が気になるところだが、PISCがデータを持っているわけではなく、組織ごとに分散しているデータを仲介するハブの役割に徹している。こうすることで、公的機関ではない金融機関、電気や水道のような公益インフラの企業などがPISC経由で住民データにアクセスできる。

 もう1つのNIRSは、500人の公務員と1,000人のIT専門家から成る日本にはない組織で、各省庁の情報システム部門を廃止し、各省庁の情報部門の公務員と情報システムを一括して管理する新たに創設された組織である。組織が縦割りの場合、データ連携にメリットがあると分かっていても、関係組織が協力してくれない弊害があるとの声をよく聞く。韓国も以前は縦割り行政だったが、ヨム氏の言葉によれば「各省庁の武装解除」のために、設備と職員をNIRSに集約し、合理化を進めたという。現在のNIRSは、政府クラウドを運用する組織に生まれ変わり、各省庁に対して止まらないサービスを提供している。

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政策指針にしている国政哲学

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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