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北川裕康のエンタープライズIT意見帳

デザイン思考から考えるCXのあり方。予測型やデジタルツインがCXプラットフォーム未来の形

マーケティングの世界では、「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」という格言があります。これは、アメリカのマーケティング学者セオドア・レビットの著書『マーケティング発想法』(原著は1968年)で紹介されたものです。しかし、IT業界のベンダー側にいると、お客様の課題である「穴を空ける」ことよりも、自社の電気ドリルの性能をアピールしているケースが少なくありません。「わが社の製品のモータは○○社のもので、このドリルの硬さ、回転数ときたら他社を凌駕しています!」といった具合にです。多くのITベンダーの方、ドキッとしましたよね。当社の社員は大丈夫かな。

CXはUIの進化系では理解できない

 ここでは、「穴を空ける」がビジネス課題で、電気ドリルは製品やソリューションの1つです。正確に、綺麗に、迅速に穴が空きさえすれば、電気ドリルを買わなくても構わないのです。DIYのお店に行って有料で穴をあけてもらえるし、電気ドリルはシェアサービスされているかもしれません。これは、自動車業界で起ころうとしていることです。私は自動車が大好きで所有したいのですが、場所の移動だけを目的にすると、レンターカーでも、公共交通機関でも、カーシェアでもなんでもよいのです。MaaSというやつですね。

 しかし、この考え方だけでは、現在のビジネス環境では不十分です。様々な業界で、デザイン思考が浸透してきていますが、それに伴い「経験」(Experience)という考え方がますます重視されます。

 では、顧客を中心に考え、「穴を空ける」という経験は何かというと、まずは正確な穴の位置を計測して決めることです。そして、正しいサイズの穴を電気ドリルで空けます。まっすぐ穴があくように何かで電気ドリルを固定する必要があるかもしれません。その後、穴を綺麗に研磨するかもしれません。そして、穴を空けた材料のカスを掃除します。ドリルのメンテナンスもしないと、綺麗に穴が空かなくなります。「穴を空ける」というだけで、これだけの経験があるのです。一連の流れを包括的に考えて、最高の経験を提案したり、作り上げたりする必要があります。ポイントは、1つ上のコテンキストで考えるということです。「穴を空ける」という行為を包むように、それに関連する一覧の行為を見るのです。

 そもそもデザイン思考とは何でしょうか? ウィキペディアによると「デザイン思考は実践的かつ創造的な問題解決もしくは解決の創造についての形式的方法であり(中略)特定の問題を解決することではなく、目標(より良い将来の状況)を起点に据えている」とされています。これについては、IDEO社のティム・ブラウン氏の書籍『デザイン思考が世界を変える』(早川書房)を読むことをお勧めします。毎章、多くの学びがあります。

 1993年からマイクロソフトに勤めていたとき、マイクロソフトでは、ユーザーインターフェスを設計するためのラボをすでにもっていました。マイクロソフトの製品を使用するユーザーを後ろから観察して、よりよい体験が提供できているかを見ていたのです。今は、当たり前になったWindowsやそのアプリケーションも、そういう方法により洗練されてきたのです。

 最近のITでは、よくCX(顧客経験:Customer Experience)という言葉が語られます。それにしても、「X」好きですね。昔は、CXはUI(ユーザーインターフェイス)の進化だと言われて「なんじゃそれ?」と思いましたが、最近、デザイン思考の観点から、このCXの意味が納得できました。単なるインターフェイスではなく、お客様を中心に置き、検討、購入、使用、サポート、廃棄などのすべての接点を繋げて、カスタマジャーニーとして包括的に捉えることだと思います。こう考えると、単なるUIの進化ではないといえるでしょう。もう1点大事なのは、試行錯誤です。そもそもexperience「経験」の語源はラテン語のL.experientiaで、「試行錯誤、証拠」の意味だそうです。これによると、ユーザーがあれやこれやと、色々な試行錯誤をこなせるような環境が必要になりそうです。

 このCXにまつわるデジタル技術には、パーソナライゼーションから、話題のメタバースやデジタルツインなどの仮想現実、アップル社のSiriやチャットボットなどのAIの活用、IoTの応用などまで、顧客経験を向上させるワクワクするものがいっぱいあります。特に、今後は、データとアナリクティスを活用した、予測型のCXプラットフォームが鍵を握りそうです。

 マッキンゼー社の「Prediction the future of CX」では、「いくつかの先進的な企業は、現在利用可能な豊富なデータを最大限に活用した、より良いアプローチを先駆けて行っています。今日、企業はスマートフォンやインタラクションデータを、顧客、財務、業務システム全体から定期的、合法的、かつシームレスに収集し、顧客についての深い洞察を得ることができます。未来に目を向ける企業は、データと分析能力を高め、予測的なインサイトを活用することで、顧客とより密接につながり、行動を予測し、CXの問題や機会をリアルタイムで特定することができるようになりました」(筆者訳)とあります。

 利用者の次の行動を予測して、操作をガイドするようなイメージでしょうかね。多くのサービスがサブスクに移行するなか、満足されないサービスは継続しないことを意味します。顧客の利用を促し、虜にすることが成長には不可欠だということです。

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日本企業のCXの進捗のために何が必要か

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この記事の著者

北川裕康(キタガワヒロヤス)

35年以上にわたり B2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Inforなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などの要職を歴任。現職は、クラウドERPベンダーのIFSでマーケティングディレクター。...

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