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相次ぐ自動車業界へのソフトウェア企業参入 躍進企業が語る“メーカーやOEMが抱えるジレンマ”

Stradvisionが語る、自動車業界に適合するソフトウェア企業の条件

 ソフトウェアはスマートフォンやパソコン、クラウド、データセンターの端末だけでなく、自動車や家電、設備機器などさまざまなデバイス・環境で動作するようになっている。あらゆる企業がソフトウェアに関与し、またソフトウェア企業との連携を求めている状況だ。本記事では、自動運転向けの物体認識のAIスタートアップであるStradvision(以下、ストラドビジョン)が取得した自動車の機能安全国際標準基準「ISO 26262:2011」から、ソフトウェア企業と自動車業界との関係について考えたい。

自動運転のための物体認識を実現するAIを提供

 ストラドビジョンは、先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver-Assistance Systems)や、自動運転車両向けの物体認識AIソフトウェア「SVNet」を提供する企業。ソウル本社のほか、サンノゼ、デトロイト、東京、ミュンヘン、デュッセルドルフなど、ソフトウェア産業並びに自動車産業で名高い地域に拠点を構えるスタートアップだ。

 2014年に設立した同社は、ディープラーニング技術を活用してSVNetを開発し、自動車OEMやTier-1企業に提供している。SVNetは、競合と比べ、低コストのチップセットで実行でき、リードタイムの長いクラウドのコンピューティングリソースを使用せずとも、安全機能をエッジで独立して動作ができるといった特徴を持つ。

SVNetによる物体認知のイメージ
SVNetによる物体認識のイメージ

 2019年には長安汽車など複数の中国OEMの量産車両にソフトウェアを提供し、2021年にはLG ElectronicsとのパートナーシップによりADASカメラシステムを市場に投入している。2022年3月にはドイツの自動車部品製造大手のZFフリードリヒスハーフェンと資本提携を果たした。日本市場においては、2020年8月に大手システムオンチップ(SoC)ソリューション企業であるソシオネクスト社と、日本市場へのSVNetの供給を拡大するための協業契約を締結している。

LGエレクトロニクスと取り組むARベースの自動車コックピット計器のイメージ
LGエレクトロニクスと取り組むARベースの自動車コックピット計器のイメージ

量産車両向けのソフトウェアに求められる厳しい安全基準

 ストラドビジョンは、2022年2月に自動車の機能安全国際規格「ISO 26262」を取得している。これは、自動車の電気/電子に関する機能安全についての国際規格。既知の部品の故障に起因する事故などリスクを低減する、機能安全を目的としている。ソフトウェア企業であっても、自動車向けの製品を取得した背景にはどのようなことがあるのだろうか。ストラドビジョンでProcess & Safetyチームのリーダーを務めるJungbae Yoon氏に聞いた。

 Yoon氏の役割は、自動車ソフトウェア業界で求められる機能安全に準拠した全社標準プロセスを構築する責任者である。前職はドイツのデンソーでのテクニカルマネージャー、さらにその前はFord Motor、Bosch Engineeringと、製造業にてシステム・ソフトウェア開発のキャリアを重ねてきた業界のスペシャリストだ。

ストラドビジョンProcess & Safety チームリーダー Jungbae Yoon氏
ストラドビジョンProcess & Safety チームリーダー Jungbae Yoon氏

 AIソフトウェアのスタートアップであるストラドビジョンがISO 26262を取得した理由についてYoon氏は「ISO 26262は、自動車の中にいる運転者・同乗者、道路上の人に対する安全を保証するためにできた自動車の走行基準です。ストラドビジョンのソフトウェアは既に多くの量産車に提供していますので、業界の安全標準に従う必要があります。取得によって、信頼を高めるとともに、法的な問題が生じた場合に製品の品質を証明するための根拠にもなります」と説明した。

ドイツの認証機関からISO 26262を取得したときの様子。Yoon氏の姿(写真左から4人目)もある。
ドイツの認証機関からISO 26262を取得したときの様子。Yoon氏の姿(写真左から4人目)もある。

 同じソフトウェアスタートアップでも、たとえば自動車の走行とは直接関係ないクラウド側で走行ログや分析を提供するような企業などは、ISO 26262の取得の必要はないが、ストラドビジョンのソフトウェアは、車両本体で動作するため、その安全を確かなものであると証明しなければ信頼を得られない。

 ISO 26262は前述のとおり、車両の電気/電子システムで発生する誤作動による事故を防止するための安全規格である。車両内外の人に対するシステムの機能安全、つまりシステムを構成するコンポーネントの故障に起因する事故などのリスクを低減することを目的としたもの。しかしYoon氏は、ISO 26262に従って作ったソフトウェアであっても、100%の安全を担保できるものではないとした。

 「弊社のSVNetに限らず、どの物体認識ソフトウェアも、正常な動作における認知には限界があります。正常に動作していても予期しないシナリオが発生する可能性があるため、すべての危険をなくすことはできません。それが規格としてのISO 26262の限界です。そのため弊社では、別の国際規格である『SOTIF(ISO 21448)』を満たすことを次のゴールとしています」(Yoon氏)

 SOTIF(Safety Of The Intended Function)は、システムが意図した機能の限界や不十分さ、人による誤用を原因とするリスクをなくすことに重点を置いた規格。ISO 26262でカバーできない、予期せぬ範囲のリスクに対応する。ストラドビジョンでは、SVNetの安全性を高めるために、非常に多くのテストを実施しており、ISO 26262、SOTIFそれぞれで定義された危険シナリオでもシミュレーションを行うことで、品質を高めている。

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ソフトウェア企業に求められるケイパビリティと自動車OEMが抱えるジレンマ

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...

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