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LayerX 中村龍矢氏と探る「プライバシーテック」最前線

TMI P&SとLayerXによる「法律×プライバシー保護技術」先陣を切る大井哲也弁護士を訪ねる

「テクノロジー×リーガル」による両輪の取り組み、その背景とは

 LayerXは6月27日、TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング(以下、TMI P&S)とデータプライバシーの分野で協業を開始したと発表した。LayerXが研究開発を推進してきたプライバシー保護技術と、TMI P&Sの有するデータプライバシー分野の法的知見を合わせることで、企業・自治体などによるパーソナルデータの安全な流通や高度な利活用の実現に向けて取り組む。そこで連載の3回目は、ホストであるLayerXの執行役員 中村龍矢氏とTMI総合法律事務所の パートナー(弁護士)であり、TMIプライバシー&セキュリティコンサルティングの代表取締役も務める大井哲也氏を訪ねた。

なぜプライバシーテックに「法律の力」が必要なのか

中村龍矢氏(中村氏):オフラインでお会いするのは初めてで何だか新鮮ですね。本題に入る前に、大井弁護士のユニークな経歴からご紹介いただけますでしょうか。

大井哲也氏(大井氏):私は新卒でソフトバンクのベンチャーキャピタル部門であるソフトバンクファイナンスの法務部に入社しました。そこで今のインターネット界でもビッグカンパニーであるアリババをはじめ、ネットバンキング、オンラインオークションなどの企業に対する投資のリーガル面を担当していました。

 孫正義さんに憧れていたこともあり、ソフトバンクでインターネットサービスに携わりたいと入社したことを憶えています。実はこのとき司法試験も受けており、ちょうど入社のときに合格発表がありました。しばらくソフトバンクファイナンスで仕事をしていましたが、司法試験合格後は司法研修を受けなければならず、当時ソフトバンクファイナンスの顧問弁護士事務所だったTMI総合法律事務所(以下、TMI)に入所。それからは、インターネットやアプリ、ビッグデータなどに関する法律を担当しています。

 そして、2019年12月に日本初となる、データ活用におけるプライバシー保護とセキュリティに専門特化したコンサルティングファーム「TMIプライバシー&セキュリティコンサルティング(以下、TMI P&S)」を設立しました。企業が収集したデータを活用するデジタルマーケティングの領域は、個人情報保護法の領域と“密接不可分”な領域です。特に、アプリの利用履歴やECの購買履歴、Webの閲覧履歴を収集・解析することがデジタルマーケティングのメイン業務ですが、当社ではそれをリーガル面から支えています。

中村氏:ありがとうございます。今回の協業にあたっては、LayerX側からご連絡を差し上げました。当社では、アカデミックに研究されている「プライバシー保護データマイニング」という技術を用いて、統計的な用途、人を識別・特定しない用途で、企業や行政の保有するパーソナルデータをもっと自由に社会に流通させることを支援する事業を行っております。

 具体的には、データを外部提供する際、どのようなプライバシーリスクがあり、プライバシー保護技術を使ってどう加工すべきかを分析し、それを業務に組み込むソフトウェアとして提供しています。しかしながら、個人情報保護法をはじめとする法律面について、最終的な判断は基本的にお客さま任せでした。一方で、データの外部提供を新規事業として取り組むお客さまも多く、法律面も確実にクリアにする必要がある。とはいえ、私たちは弁護士ではないため、たとえ知識があったとしても非弁行為にならないよう、法的なアドバイスができないことを歯がゆく感じていましたね。

 そこで技術面と法律面を一緒に解決できるパートナーがいればと考えていたところ、さまざまな形で情報発信をされていたTMIさんに思い至りました。

大井氏:実は私たちも、お声がけしたいと思っていたところでした。意外と当社では、お声がけいただいたときには相思相愛というパターンが多いのです(笑)。LayerXさんは非常に存在感があって、かつ新しい取り組みをされていたのでウォッチしていました。データビジネスの課題をテクノロジーで解消することに専業特化している企業は、まだまだ日本では稀有な存在です。特に、データと技術に深い知見を持つ人たちが事業を営むことは難易度が高いだけでなく、サービスを求めているユーザー企業のリテラシーも高く、これらのハードルを乗り越えることができるという点でも貴重な存在と言えるでしょう。

TMI総合法律事務所 パートナー(弁護士)大井哲也氏
TMI総合法律事務所 パートナー(弁護士)大井哲也氏

 データビジネスは、データを外部に提供・販売したい企業と、そのデータが欲しい企業に大別できます。そして、データを渡す際には、情報主体で個人の了承を得る必要がある一方で、どのような形であれば了承を得ずにデータを提供・販売できるのかを考えることもできるでしょう。ただ、こうした2つのアプローチがある中で、どちらを選んだとしても法律面での担保は欠かせません。

 データビジネスを行う際には、そのデータが個人情報保護法に照らして使えるものかどうかを、データを渡す側、受け取る側の双方がしっかりと確認をすること。そして、消費者の不安感や安心感といった心理をしっかりと見定めた上でビジネス化すること。この2点が重要です。

 そのためには、テクノロジーを活用することでデータを安心して渡せるサービスを提供することに加えて、法的にも担保することが必要。これをLayerXとTMIが役割分担をしながら、ビジネスとして成立させていきます。

中村氏:今の心理面というお話は、1つの鍵になると思っています。当社にお声がけいただく企業様も、パーソナルデータを活用した結果、エンドユーザー様の心配や不安を招き、極端なケースでは炎上してしまうなど、レピュテーション(評判)のリスクを念頭に置かれています。これをいかに「気持ちの問題だよね」と片付けないようにするかを考えています。

 データをたくさん収集し、匿名化・統計化して外部提供されている企業は本当に多いのですが、その土台の部分が技術的に安全であること、法的に問題ないことを透明性をもって説明できることが最初のステップです。それが達成できたうえで、周りの有識者や規制を敷く方たちに納得いただき、その先のメディアに納得いただき、最後に一般の方にご安心いただく。こうして“ドミノ倒し”のように信用の連鎖が生まれます。これが逆の意味で「悪いドミノ倒し」になり、最後の部分で炎上など問題が表面化するケースは絶えず、そこにばかり目が行きがちです。この土台さえしっかり押さえておけば、良い意味でドミノが倒れていくと思います。

プライバシー保護に関する「ドミノ倒し」のイメージ図
プライバシー保護に関する「ドミノ倒し」のイメージ図
[画像クリックで拡大]

 この“良いドミノ”を倒す上で、当社は技術面と法律面の両面から、しっかりと透明性の確保に努めていくことが必要だと思っています。これを実現するために不足していた法律面でのソリューションをTMIさんから、技術面のソリューションは当社から提供するなど、協業の下で補い合いながら進めていきたいですね。

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事業部門と法務部門、そして弁護士の“三つ巴”になるケースも

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この記事の著者

吉澤 亨史(ヨシザワ コウジ)

元自動車整備士。整備工場やガソリンスタンド所長などを経て、1996年にフリーランスライターとして独立。以後、雑誌やWebを中心に執筆活動を行う。パソコン、周辺機器、ソフトウェア、携帯電話、セキュリティ、エンタープライズ系など幅広い分野に対応。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)

1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。

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