Uberがロジスティックスへとビジネス拡大
ビジネス環境の変化に対応するためには、最新のテクノロジーを活用して“企業全体を変えられるか”が鍵となる。「これから登場してもらう5人のエグゼクティブは、業界や市場などの変化を目の当たりにし、リスクがあることを承知の上で新たなテクノロジーを採用して大きな成果を上げています」とOracle CEOのサフラ・キャッツ氏。チャレンジした彼らは、本当に勇気のある人たちだと賞賛する。
最初に紹介されたのは、2010年に設立されたUberだ。1クリックで人々が移動手段を得られるようにするという目標を掲げ、13年が経過した今ではUberを利用した人々の総移動回数は390億回を超えている。国や地域によっては、人々が移動するための主要な手段にまでなっているという。また、コロナ禍に大きく伸長させたビジネスが「Uber Eats」などのデリバリー事業だ。
「Uberでは四半期の間に20億回の移動を担い、通勤や食料品の配達などをこなしています」と言うのは、基調講演に登壇したUberのCEO ダラ・コスロシャヒ(Dara Khosrowshahi)氏だ。Uberでは地域ごとのニーズにあわせた多様なサービスを展開している。たとえばブラジル サンパウロでは二輪車で、インド ニューデリーでは三輪車でサービスを展開。エジプトでは20人から30人乗れるバスを使うことで、交通混雑の緩和にも貢献しているという。食品の配達も含め、これらは「Uberが構築している新しいイノベーションであり、新しい製品です」とコスロシャヒ氏。企業が成長するためには、新しい製品を開発し、起業家マインドを持ち続けることが重要だと述べる。
同社のビジネスは、6年程前まで交通機関の1つとして移動を担うだけだった。しかし、そこで培ってきた技術やエコシステム、たとえば料金システムやマッチングの仕組み、地図情報の活用などは人の移動だけでなく、食料品など他の輸送ビジネスにも拡張できると考え、事業を拡大してきた歴史がある。
「Uber Eatsの事業に参画したとき、まだビジネスアイデア程度のもので、その割合は全事業の5%程度でした。しかし、今では同事業を含む輸送ビジネスは500億ドルとなり、Uber Ridesと同程度の規模になっています。これは信じられないほどの変革です」とコスロシャヒ氏は話す。新型コロナウィルスによるパンデミックでモビリティビジネスが壊滅的な打撃を受ける中、デリバリー事業はこれまでにない大きな成長を遂げたのだ。こうした事業変革を経てUberは今、人々が何かを手に入れるための“日常生活のオペレーションシステム”でありたいとして、ボタンを押せば欲しいものがやってくる日常を実現しようとしている。
実は、CEOの立場にあるコスロシャヒ氏は、米国サンフランシスコ周辺でUberのドライバーとして配達や集荷をしているとキャッツ氏が明かす。顧客の現場を経験をすることでビジネスの本質を理解できるからだという。ユーザーとしてUberを使うことは容易にでき、その利便性も実感しやすい。一方でドライバーの視点でUberを使う人は、ユーザーほど多くはない。それでも世界に600万人のドライバーがいて、彼らもまたUberのプラットフォームを利用する顧客である。
つまり、顧客体験を実感することをコスロシャヒ氏は重要視しており、実際にUberの従業員にもドライバーになるよう推奨しているという。Uberのサービス自体はBtoCのビジネスモデルだが、個人事業主であるドライバーとの関係性はBtoBでもあるため「彼らが期待する以上の体験が提供できなければなりません」とコスロシャヒ氏は語る。