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(第18回)  ドラッカーの教えから学ぶビジネスモデルの評価基準

  2014/07/29 08:00

イノベーションの成果と生産性は「付加価値」を基準に考える

 第2は「イノベーションの成果」です。経済的、社会的価値を高めることがイノベーションと考えれば、ビジネスモデルは、いかにイノベーションを引き起こすかを計画することです。高齢者見守りサービス、買い物代行などのサービス分野のイノベーションがその例です。このようなイノベーションの成果を測る指標として「付加価値」が重要です。連載で紹介してきた損益分岐点分析や変動損益計算書は、付加価値を測定するためのツールで、その使い方を理解することで、イノベーションの成果(付加価値)を測定することができます。

 また、イノベーションをいかに生み出すかを考えるヒントも与えてくれます。「1,000円のコーヒーを高いと思わせない方法とは?」(第9回)のように、付加価値をいかに高めるかが、ビジネスモデル構築の中心課題です。

 ビジネスモデルキャンバスとの関係で説明すれば、イノベーションの成果は、顧客へ提供する付加価値(VP:Value Propositions)そのものです。または付加価値率として、限界利益率(=限界利益÷売上高)を高めることも成果となります。これらの成果を達成するために、顧客にどのように付加価値を認めてもらうかが課題です。マーケティング的な発想で、価格(Price)、サービス(Product)、接客(Promotion)などを工夫し(CR:Customer Relations)、どのようなルート(店舗、通信販売など:Place)で顧客に価値を届けるか(CH:Channels)というプロセスを考えることで、収益の流れ(R$)が決まってきます。

 第3は「生産性」です。生産性とは、単位当たりの指標のことです。1人当たりの売上高や付加価値、1日当たりの走行距離、訪問件数などです。付加価値の総額をアップするだけでなく、単位当たりの付加価値をいかにアップさせるか(生産性アップ)が、ビジネスモデルでは重要な課題となります。

 たとえば、社員のやる気を高めながら、利益を増加させるビジネスモデルの検証には「労働分配率のチェック」が必要です。労働分配率は、一人当たり人件費÷労働生産性で計算される経営指標です(図1)。

社員をやる気にさせ、利益を生むための労働分配率のコントロール  
  図1:社員をやる気にさせ、利益を生むための労働分配率のコントロール

 労働生産性は、1人当たりの付加価値のことです。付加価値が変わらなくても、作業効率をアップさせ、少ない人数で付加価値を生み出せれば、労働生産性はアップします。

 そして、労働生産性のアップ率の範囲で一人当たり人件費をアップさせる経営管理を導入すれば、人件費をアップさせながら、労働分配率を低下させることもできます。その結果、付加価値を利益に多く配分することが可能になり、利益増加につながります(図2)。労働生産性のアップの本質は、ヒトへの投資(教育)であることは、みなさんもお判りでしょう。

付加価値と分配  
  図2.付加価値と分配

 ビジネスモデルキャンバスとの関係で説明すれば、主たる経営資源(KR:Key Resources)への投資と関係が深いのです。ヒトへの投資で人件費が発生し、設備などへの投資で減価償却費、リース料が発生します。これらの固定費を活用して、顧客志向に基づいた活動(KA:Key Activities)をモデル化することで、付加価値が生まれます。第9回第12回などで事例を紹介しています。

 2014年7月に判明した、マックチキンナゲットの原材料の製造において、消費期限を大幅に過ぎた鶏肉が使用されていることが判明しました。米国大手企業の子会社・上海福喜食品有限公司の加工工場において起こったことです。マクドナルドからみれば、外注先(KP:Key Partners)でありますが、この事件の本質は、固定費削減による付加価値の喪失と考えることができます。マクドナルドの自社生産、または自社管理工場での生産ならば、このような不祥事は防げたはずです。採算を一番に考えると難しいのでしょうが、食品のグローバル化に対して問題を提起しています。


著者プロフィール

  • 千賀 秀信(センガ ヒデノブ)

    公認会計士、税理士専門の情報処理サービス業・株式会社TKC(東証1部)で、財務会計、経営管理などのシステム開発、営業、広報、教育などを担当。18年間勤務後、1997年にマネジメント能力開発研究所を設立し、企業経営と計数を結びつけた独自のマネジメント能力開発プログラムを構築。「わかりやすさと具体性」という点で、多くの企業担当者や受講生からよい評価を受けている。研修、コンサルティング、執筆などで活躍中。日本能率協会で「計数分析力入門セミナー」を定期的に開催している。 著書に『新版・経営分析の基本がハッキリわかる本』(ダイヤモンド社)、『会社数字のコツがハッキリわかる本』(ダイヤモンド社)、『計数感覚がハッキリわかる本』(ダイヤモンド社)、『会社数字がわかる計数感覚ドリル』(朝日新聞出版)、『この1冊ですべてわかる管理会計の基本』(日本実業出版社)、『「ベンチャー起業」実戦教本』(プレジデント社:共著)、最新刊に『人気セミナー講師の会計実践講座 ― 経営を数字で考える能力 計数感覚が身につく』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。 マネジメント能力開発研究所のホームページ

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