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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

正式契約前に頓挫した開発の費用を巡って

 請負契約で実施していたシステム開発が途中で頓挫してしまったとき、発注者であるユーザは、そこまでにベンダが作りかけたものに対して費用を支払うべきかどうかという問題は、IT法務の教科書があれば、最初に取り上げられてもおかしくないほどよく見る事例です。「結局のところウチは何も得ていないのだから、金なんか払ういわれはない。」とするユーザと「いや、働いた分はいただく。」と反論するベンダの争いは、IT紛争の定番中の定番であり、私自身が調停や裁判で数多く出会ってきました。

 「請負契約は成果物に対して金を払うんだから、途中で終わってしまったら、請求なんてできないでしょ?」と考える読者もいるかもしれません。もちろん、そうした考え方は、裁判所も一つの原則として軽視はしないのですが、実際の裁判を見ていると、話はそう単純でもないようです。

 特に、正式契約前にベンダが作業着手をして失敗してしまったような場合は、両者の債権・債務が不明確なことから、問題は一層複雑になります。この問題については前回も書きましたが、今回と次回は特に、発注者であるユーザにさしたる非もない中頓挫した開発について、ユーザが費用を請求して紛争になった例をご紹介して、契約前の作業着手の危険とその対処について考えてみたいと思います。

 むろん契約前作業などというものは、本来、ベンダにしてもらうべきではないのですが、現実問題としてはどうしてもやらざるを得ないケースもありますので、あえてご紹介します。

正式契約前に頓挫した開発の費用を巡る裁判の例

 東京地裁平成19年10月31日判決より

 スポーツ施設運営業のユーザ企業が、会計システム導入のため開発を行うこととし、3つのベンダの提案を受けた。ユーザ企業は、他が、納期を遅らせるスケジュールを提示する中、唯一、納期遵守を約束したあるベンダに請負で依頼することを内定し、ベンダ企業は、開発代金の見積もりと取引基本契約書,請負契約書の案文を送付した。

 しかし、正式契約を締結する前になって、ベンダは、”この開発については、要件も定まっておらず納期も厳しいことから,要件定義が完了した段階で請負契約を締結したい。スケジュール管理も自身が行う”という提案をして、ユーザもこれを了承した。

 契約のないまま、要件定義が開始されたが、途中、作業に遅れがみられたことから,ユーザの担当者はが、ベンダの担当者に全体の納期に影響はないか確認したところ,問題ないとの回答だった。

 ところが、それから二ヶ月後、進捗の遅れは回復せず、ベンダが納期の遵守は不可能であるとして3カ月後らせる旨の提案をしたが、ユーザは、これを受け入れず、こうしたベンダの申し入れは、信頼関係を著しく破壊するものだとして、正式契約を締結しない旨を通知した。

 ユーザ企業は、契約交渉の解消は、ベンダの責であるとして、契約締結上の過失に基づいて約228万円の損害賠償を求めた(本訴)が、ベンダは、契約解消はユーザの責めに帰すべき事由によるものであるとして,不法行為に基づいて約892万円の損害賠償を求めた(反訴)。

 尚、この段階で,要件定義はほぼ終了していたが,帳票,データベース設計書はできていなかった。

次のページ
受注者は作業した分を請求できるとした商法512条

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

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