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税理士 高橋正晴氏 中堅・中小企業のIFRS利活用を見据えて

  2010/03/16 07:00

グローバル市場との直接的な関わりが大きくない多くの中堅中小企業において、IFRS導入のメリットはあまり多くない。中堅中小企業がIFRSの利活用をするために、IFRSをどのようにとらえ、どのような施策を行えばよいのか。税理士である高橋正晴氏の講演は、IFRSの影響判定ポイントと利活用のポイントについて解説するものとなった。

中堅・中小企業対象のIFRSの日本企業への影響はまだ不明

高橋正晴氏は税理士として活動する傍ら中堅・中小企業向けのERPパッケージの設計や導入支援に携わっており、最近のIFRSの動向、特に中堅・中小企業への影響について関心を持って見てきた。特にIFRSについては大企業、特に上場企業の話が中心であり、金融商品取引法を代表とする企業会計の視点から語られることが多い。ただ視点を変え、中堅・中小企業の視点と税務関係の視点を取り入れて、IFRSの導入及びその影響はどうなのか。さらにIFRSをどのように利活用していくべきかが課題となっている。
IFRSは2005年からEU域内における統一基準として採用されたのを皮切りに、世界100カ国を上回る国々での採用が予定されている。そうした世界的な情勢の中で、日本の対応は当初、コンバージェンスという形でIFRSとの同一性を確保するというものだった。コンバージェンスというのは、日本の会計基準は保持しながら、会計基準をIFRSに収れんさせる形で導入していこうという考え方だ。一方米国は当初のコンバージェンスからアドプションへ方向転換しており、日本も追随することを明言しはじめている。
この国際的な動きの中で、欧米当局による次世代IFRSに向けた検討が始まっている一方、中堅・中小企業版IFRS(IFRS for SMEs)が発表された。完全版IFRSから中堅・中小企業に関連のない項目は省略し、要求する開示数を削減したものだ。項目数は完全版の約10分の1だといわれている。
日本にもすでに中小企業の会計指針という、中堅・中小企業を対象とした企業会計の原則がある。そこにどのように中堅・中小企業版IFRSを反映させるかは、まだ検討中の段階だ。少なくとも何らかの反映はあるかと見られているが、決定にまでは至っていない。

税理士
高橋正晴氏
税理士 高橋正晴氏

中堅・中小企業へのIFRS導入のメリットとデメリット

IFRS導入の目的は、世界統一基準により作成した財務諸表によって、投資家の意思決定に有用な情報を提供することだ。この目的から期待される効果として、第一に財務諸表の国際的比較可能性の向上による金融資本市場の魅力の向上がある。また第二の効果として、資金調達関連コストの逓減や国際的な資金調達の容易化が挙げられる。しかし非上場で、国内中心で活動している多くの中堅・中小企業は、IFRS導入がもたらすメリットをそれほど享受できないと考えられる。それでも日本が世界的なIFRS受け入れの流れを受けている状況を考えると、そうした企業への適用も考えなければならない時期に来ている。
では、IFRS適用は中堅・中小企業にどのような影響があるのか。一つは法人税法における影響だ。課税所得計算の考え方が見直されることになるので、税制全般の大幅な改正につながる可能性がある。制度面における第一の影響は、IFRS規準による連結財務諸表の作成における変化だ。ここで工数をかけすぎると、メリットをさして受けられないのに負担ばかりが大きくなってしまう。
そしてIFRSの適用が個別財務諸表に及んだ場合、会社法及び税法への影響が大きくなる。影響があると思われるのは確定決算主義と損金経理などだ。また元帳を日本基準とIFRS規準の両方で作成する複数帳簿という手法もあるが、作業工数もさることながら大幅なシステム改修も必要になるため、相当なコストがかかると考えられる。
経営面における影響はどうか。IFRSの概念としてよくいわれているのが、マネジメント・アプローチによる財務諸表の開示、原則主義における会計処理の正当性の担保、資産・負債アプローチによる利益計算などだ。そうした考え方を経営の中にどのように取り込んでいくべきかが課題となる。多くの中堅・中小企業にみられるドンブリ勘定による管理体制では、IFRSでは「問題あり」とされてしまう。

IFRS導入をプラスに転化するには

確かにIFRSの導入は中堅・中小企業にとっては、デメリットばかりが目立つ。ではその負担を減らし、メリットに変える方法はないのだろうか。まず高橋氏が提案したのは、制度面において、コストを意識した最低限の対応に抑えることだ。一方、経営面ではIFRS導入を経営管理の面で積極的に活用する。つまり管理コストの増大というピンチを、収益拡大の機会というチャンスに変えるのだ。
まず管理会計や原価管理、資産管理、収益認識基準など企業の経営に直接かかわる部分について改修が迫られる。たとえばセグメント管理のための区分が仕訳データの構成要素に加わることで、部門別科目別の残高及びセグメント別科目別の残高を管理できるようになる。その結果、財務会計と管理会計を並行して運用し、「財管一致」を実現可能になるのだ。
一方システムベンダー各社は、IFRS導入に適合し、売れる製品を作るため、標準機能の充実を図るはずだ。それはいわゆるパッケージ製品だが、IFRS導入によりそれを有効活用できる環境が整う。そうなると、以前はアドオン・カスタマイズにより膨らんでいたコストの削減が期待できる。IFRS導入により一般的なシステム機能の向上が図られるため、、経営に有用な情報を安価なコストで手に入れる環境が整うことになる。
現状では、連結のみの対応となると見られているが、個別に適用になった場合には、制度が大きく変わる可能性がある。高橋氏は「大企業に限らず、中堅・中小企業の関係者も動向を注視する必要がある」と述べ、セッションを閉じた。
 



著者プロフィール

  • EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)

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