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第5回 “DIY”でアジャイル・ユーザテスティング

  2011/02/17 00:00

ユーザテストは製品のユーザビリティを評価するための最も強力で効率的な手法です。たとえ Do-It-Yourself 方式の簡易的なテストであっても、評価と改善を繰り返すことで製品の品質向上に大きく貢献してくれます。
 

5人のユーザでテストする

 画期的な製品であっても、実際の現場で上手く使えないとすればユーザにとって価値はありません。製品のユーザビリティは開発プロセスのなるべく早い段階から評価して、もし問題があれば至急改善を図るべきです。それが『ユーザテスト(ユーザビリティテスト)』です。ユーザテストの基本手順は以下のとおりです。

  1. 被験者(ユーザ)にタスク(作業課題)を実行するように依頼する。
  2. 被験者がタスクを実行する過程を観察、記録、分析する。 

 このように基本はいたってシンプルなのですが、1つだけ秘訣があります。それはユーザに思ったことを口に出しながらタスクを実行してもらうことです。こうすることでユーザの認知プロセスが明らかになり、操作の失敗や不満の原因を論理的に分析できるようになります。これを『思考発話法(think aloud method)』と言います。

思考発話法を使ったユーザテスト:
ユーザは思ったことを口に出しながらタスクを実行する。
思考発話法を使ったユーザテストのイラスト

 

 被験者数に関しては、ヤコブ・ニールセンが提唱した「5人のユーザでテストすれば約85%の問題点が見つかる」という有名な法則があります。もちろん異論を唱える専門家もいますが、今のところ実務上は少人数のユーザでテストするのがほぼ世界標準となっています。 

 しかしながら、5人のテストを1回やればOK!――という訳ではありません。テストのアウトプットは問題点のリストです。それらの問題点を修正したうえで、その修正が本当に正しかったかどうかを再度検証しない限り「完了」とは言えません。そして、その再検証でさらに問題が見つかるかもしれません。そのため、結局は延べ10~15人のテストをすることになります。

Do-It-Yourself!

 『ユーザビリティラボ』は天井カメラやマジックミラーなどを備え付けたテスト専用の施設です。そういった設備に加えて、大規模な登録モニターや、心理学や人間工学の知識を持った専門のインタビューアを取りそろえて、テストの企画からレポートまで一貫したサービスを提供する専門の会社もあります。

ユーザビリティラボの例:
左図:インタビュールーム(実験室)の様子
右図:モニタールーム(観察室)の様子
※写真は株式会社イードのユーザビリティラボ
ユーザビリティラボの写真

 

 予算が確保できるならば、そういった専門の会社にテストを依頼するのは無難な選択肢だと思います。被験者のリクルーティング、タスクの設計、インタビューの技術、プロトコル分析、ビデオ編集 etc...――専門家が使うノウハウを数え上げればきりがありません。こういった複雑な業務を専門の会社に依頼できれば、あなたは心おきなく製品の開発に専念できます。

 しかし「予算が無いからテストはしない」という選択肢だけは選んではいけません。開発者が机上で意図したとおりには、ユーザは製品を使用してくれません。テストしないということは、"使いモノにならない製品"をリリースするというリスクを犯すことになります。

 予算が無いときは自分たちでやりましょう。それほど心配することはありません。人脈を駆使すれば被験者は見つかります。社内の会議室にビデオカメラを設置すれば「ラボ」の代わりになります。高度なインタビュー技術を使わなくても、黙って横で観察するだけで「百聞は一見にしかず」という発見があります。そして誰も読まない分厚いレポートを書くよりも、問題点の解決方法の検討に時間をかけるのです。

 そもそもテストの目的は「立派なテストを実施すること」ではありません。どんなテストであっても製品の品質向上に貢献すれば"それで十分"なのです。実際、最近のアジャイル開発の現場では「RITEメソッド - Rapid Iterative Testing and Evaluation 」と呼ばれる"超"高速反復型のテストが主流になっています。 

それはユーザテストではない!

 たとえ Do-It-Yourself 方式の簡易的なテストであっても製品の品質向上に大きく貢献してくれます。ただ、未経験の人が陥りがちな"落とし穴"も少なくありません。ここでは代表的な失敗パターンを3つ指摘しておきましょう。

 製品が出来上がってからテストする――開発者やデザイナには一般的に悪い癖があります。それは、テストの実施時期を遅らせたがることです。「中途半端なものをテストしても意味はない。デザインやコーディングが完了してからテストすべきだ」と考えるのです。しかし、これは大きな間違いです。製品が完成してからテストして、もし製品の基本設計に関わるような問題が見つかった場合、もはや修正は不可能です。どうせ失敗するのならば「早期に失敗する」べきなのです。

 グループインタビュー形式でテストする――マーケティング・リサーチで用いられるグループインタビューと勘違いして、5人のユーザを1部屋に集めて同時にテストしてはいけません。ユーザテストでは必ず1人ずつ個別にテストします。現実の場面でも、ほとんどの場合、ユーザは1人で製品を操作しているのですから。

 ユーザに質問する――ユーザに「どこが悪いと思いますか?」「どう改善すればよいと思いますか?」といった質問をしてはいけません。ユーザは分析者でもなければ、デザイナでもありません。製品の何が問題で、それをどう改善すべきかを考えるのは、当然ながら開発者である"あなた"の仕事です。ユーザテストにおいても「ユーザの声聞くべからず」なのです。

●お知らせ:
この連載の筆者である川口と樽本が共同代表を務める『アジャイルUCD研究会』は 2/17-18 に開催される Developers Summit 2011 に参加します。樽本が LT に登壇し、さらにコミュニティブースにも出展しますので、ご来場の際はぜひお立ち寄りください。

 (次ページへ続く)

 

 

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。


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著者プロフィール

  • 川口 恭伸(カワグチ ヤスノブ)

    アギレルゴコンサルティング株式会社アジャイルコーチ。認定スクラムマスター。株式会社QUICKを経て、2011年7月より現職。前職ではWeb/DHTMLアプリケーション開発、スクラム導入、構成管理/デプロイ基盤/運用設計を担当。Agile Conference 2009~2011に参加。イノ...

  • 樽本 徹也(タルモト テツヤ)

    利用品質ラボ代表。日本では数少ないユーザビリティ工学の専門家で、ユーザ調査とユーザビリティ評価の実務に精通している。現在はプロのコンサルタントとして、ウェブサイトから携帯電話まで幅広い製品のUI/UX開発プロジェクトに携わっている。 著書は『アジャイル・ユーザビリティ』、『ユーザビリティエンジニアリ...

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