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医療に学ぶトラブル・プロジェクト対策と整備すべきフレームワーク

■第16回Xupperユーザ事例紹介セミナーレポート

基調講演には、書籍『トラブル・プロジェクトの予防と是正』(鹿島出版)の著者、瀬尾惠氏が登壇。同書のテーマでもある、医療分野に学ぶべきトラブル・プロジェクトの予防や診断、治療(是正)、それらの前提となるトラブル分類・体系化などを紹介するとともに、プロジェクト・マネジメントを支える社会制度やインフラ、研究・教育基盤などの現状について問題提起した。

医療のように強固なフレームワークの整備が急務

 病気とトラブル・プロジェクトには、多くの共通点がある。ともに「人」にまつわる事象であり、早期に手を打つほど影響は軽微、また、適切な対策により予防も可能だが、対処(治療)には専門知識と経験が必要だ。トラブル・プロジェクト対策において、予防・診断・治療といった医療行為に学ぶべき点も少なくないだろう。

株式会社プロジェクトマネジメント・コンサルティング 代表取締役 瀬尾 惠氏

 ただし、医療とプロジェクト・マネジメントを取り巻く環境の“ 厚さ” には大きな差がある。今日、私たちがこれだけ充実した医療を受けられるのは、まず、医療行為を支える社会の仕組みによるところが大きい。

 例えば、医師は国家資格であり、医師国家試験への合格および2年以上の臨床研修を受けなければならない。これに対して、プロジェクト・マネジメントの仕事は、まだ多くの企業において資格という概念で扱われず、ロール(役割)として定義されている。PMP(Project Management Professional)というプロジェクト・マネジャーの公的資格は存在するが、国家資格ではない。

 法律についても、医療法、医師法、薬事法、薬剤師法など多数の法律やガイドラインに支えられた医療に対して、プロジェクト・マネジメントに関する法律は存在しない。規律を支えるのは「倫理と行動規範」だけだ。

 また、医療は、学門・研究教育基盤としての「医学」にも支えられている。基礎医学では約10種類の分野、応用医学では50種類以上の実績を持った分野が確立されており、医学部を有する大学も国内に80大学ほどある。一方、プロジェクト・マネジメント学と呼べるものは基礎分野でせいぜい3~5種類。多くの論文が発表されているものの、ほとんど応用分野として「分化」していない。基礎研究・教育を行う大学(学科レベル)もごく少数だ。

 こうしたプロジェクト・マネジメントを支えるフレームワークの整備が急務であることを瀬尾氏は強調した。

トラブル・プロジェクトを114種類に分類・体系化

 医療において「予防」は予防医学に基づき、健康増進・疾病予防の第1次予防、早期発見・早期措置の第2次予防、リハビリテーションの第3次予防が定義されている。瀬尾氏は、プロジェクトのトラブル予防をこれに即して説明。第1次予防は、トラブルが発生しないようにするための高品質なプロジェクト計画の作成などが該当する。第2次予防は、レビューやチェックリスト、モニタリング、早期措置によるトラブルの早期発見と治療。そして第3次予防としては、トラブル回復後の処置として、教訓の蓄積と再利用(伝染防止)、プロジェクト・マネジャーへのリハビリなどを挙げた。

 医療行為の診断における前提として、病気は疾患の種類や病巣の局在、原因、進行など様々な要素で分類され、それぞれ固有の病名がついている。電子カルテなどIT化に伴い、現在はICD国際疾病分類によってコードも標準化されている。それに対して、トラブル・プロジェクトについては類似のトラブルが多発しているにもかかわらず、「病名」が存在しない。適切な診断・是正のためにも、トラブル分類の体系化や用語標準化が望まれるところだ。  

 そこで瀬尾氏は、「特徴」「分類名(原因)」「組織」「影響度」という4要素から成るトラブル名称を定義し、「恒常性<特徴>リソース不足<分類名>プロジェクト<組織>(レベルB)<影響度>」のように、病名に相当するトラブル名称を体系化した(図1)。

図1:トラブル名称の構成

 原因分類をトラブルの一般呼称とし、原因は5カテゴリーに区分。これにより、トラブルは合計114種類に分類されている。なお、瀬尾氏の著書『トラブル・プロジェクトの予防と是正』では、114種類それぞれについての徴候や予防法、是正法まで網羅し、紹介されている。

対症療法のみならず根本療法=再発防止策のプロセスを確立すべき

 歴史ある医療においても「診断」は困難な行為であり、(調査によって数値は異なるが)約10~30%の「誤診」が起きている。瀬尾氏の経験上、トラブル・プロジェクト診断の誤診率は、医療よりも圧倒的に高いという。また、トラブルの「再発」も多く、これは誤診または根本治療がなされていないことに起因するようだ。

 医療の場合、症候分類(症候学)に基づいて決められた項目を診断するが、プロジェクトの診断においても、トラブルの「徴候」を分類し、体系化できると瀬尾氏は指摘する。例えばプロジェクト全体なら報告遅延や課題管理異常、計画(乖離)ではスケジュール遅延やスケジュール変更、プロジェクト・マネジャーという「人」が対症の場合であれば勤務状況異常やコミュニケーション欠落などに、その徴候を見ることができる。

 診断に続く「治療」については、表面的な症状を軽減するための「対症療法」と、病気の原因そのものを取り除く「原因療法(根本療法)」の2つに大きく分かれる。プロジェクトではほとんどが対症療法であり、原因療法がなされていないという。スケジュール遅延に対して「残業でリカバリ」や「人員追加でリカバリ」、コストオーバーに対して「コンティンジェンシー(予備費用)の取り崩し」といった対応は、すべて対症療法だ。

 また、治療の根本療法でもよく使われる「医療手術」は、「術前同意」「術前管理」「術前措置」「術後管理」といったプロセスが確立されており、トラブル・プロジェクトにおいても、このような体系化が望まれる。

 瀬尾氏は、トラブル・プロジェクトの診断・是正プロセスについても改めて、3つのプロセスと2つのゲートを使って整理(図2)。ポイントとして、是正計画には対症療法のリカバリのみならず、根本療法となる「再発防止策」を組み込むこと、是正措置のガバナンス期間による評価と確認のプロセスにおいて、再発防止策を企業内プロセスへ組み込むことなどを紹介し、講演を終えた。

図2:トラブル・プロジェクトの診断・是正プロセス
関連リンク

ケン・システムコンサルティング株式会社 http://www.kensc.co.jp/

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https://enterprisezine.jp/article/detail/4420 2014/09/26 19:12

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