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情報システム部門から戦略的ITサービス部門へ ~ オーナーシップを持ってビジネスに貢献する

  2014/02/04 00:00

 クラウド化やアウトソーシング活用によって、ITシステムの運用管理業務は、自動化や効率化が進んでおり、保守・運用に携わる人材は、技術だけでなく顧客視点やサービス視点への変革を求められています。また、企業のITシステムをとりまく環境も仮想化やクラウドにより多様性、複雑性が増しています。このIT部門が抱える様々な課題をテーマに、数年来ITシステム運用の現場の改善に注力されてこられた株式会社スクウェイブ 黒須 豊 氏と、株式会社ビーエスピーソリューションズ 藤原 達哉 による対談を紹介します。

IT部門の本来の仕事とは

株式会社スクウェイブ 代表取締役社長 黒須 豊 氏
株式会社スクウェイブ 
代表取締役社長 黒須 豊 氏

藤原 これからのIT部門は、外部環境の変化に強く、経営に貢献するサービス部門への変革が重要なのですが、現状、ITシステムの運用や保守に多くの要員やリソースが掛かっているという課題があります。BSPグループは、2012年から「運用レス※」というコンセプトを提唱、打開策として各運用に合わせたソリューションやサービスを提供しています。「運用レス」とはコードレスやペーパーレスのように機能の本質は変えずに、IT部門の業務の効率化や自動化を促進し、IT部門があるべき姿へシフトしていくための基本的な考え方になります。昨年発表した「運用レス2.0」では、IT部門の業務の価値分析を行い、マネジメントアプローチ、テクニカルアプローチによってITサービスマネジメントを実現するという要素を新たに加えています。加えて、事業拡大やイノベーションを起こすためには、ITサービス提供領域を広げることの重要性を提唱しています。

 ※「運用レス」とは、ITシステム運用部門が、ITシステム運用業務の合理化や効率化を求めながら、事業成長や経営に貢献するサービス部門へ変革していくためのメソドロジ(方法論)です。2012年よりBSPが提唱しています。

黒須 これまでITシステムの運用管理部門は、安定稼働や保守が優先と捉え、IT部門が果たすべき目的とかけ離れていたのは事実です。近年、ようやくIT部門として、「企業の事業目的への寄与を優先すべき」との考えにシフトしています。ITへの経営者の視点と、IT部門のそれとは明らかに違います。IT部門の責任者も、経営者の視点から見るべきでしょう。これに加え、ベンダーサイド、ユーザーサイドの視点もあります。ベンダーサイドは、運用における価値、工夫をユーザーに訴求したいと考えていますし、ユーザーサイドの視点もまた違っています。安定稼働、コストダウンなどは、正直やって当たり前なのです。IT部門は、運用業務が、如何に企業の事業目的達成に直接的ないし間接的に寄与しているのかを訴求できなくてはなりません、明確に訴求できない業務は価値が無いと判断されます。そういう観点で、運用レス2.0には注目しています。

藤原 確かにCIOやIT部門のマネジメントクラスの方は、経営側ではなくIT、システム側からの視点で見ていることも多いです。これは、利用者側の「システムのことはよく分からないから、IT部門でやってほしい」というITへの距離感に起因するところもあると思います。加えて、IT部門も利用者が分かる言葉で伝えていない訳ですから、距離は広がるばかりです。ためしに、IT部門の方へ「利用者にどんなITサービスを提供していますか?」とインタビューすると、障害対応とかバッチサービスとか、利用者に直接関係の無い表現がいくつも出てきます。ITILに「技術・サービスカタログ」、「ビジネス・サービスカタログ」の定義がありますが、これをベースに分析を行い、サービスの価値をどのように見せるかを、お客様に提案しているところです。

黒須 業種によっても見方が変わるところもありますよね。ITが企業のビジネスに直結するような場合と、社内の限られた部門や間接的なツールの場合では大きく違います。残念ながら、日本企業でITがビジネスの戦略的な差別化要素となりえる業界や業種の企業ですら、真の有効活用できていません。ITが自分たちの事業のどこに紐付いているのかという分析すらできていない企業も少なくありません。

オーナー不在のシステム

黒須 大小問わず、日本企業におけるIT利用の特徴の一つに、オーナーが明確ではないことが挙げられます。本来、各システムにはオーナーが存在し、オーナーは明確な事業目的を持ち、その目的を達成するためにITを利用します。しかしながら、SAPを導入された多くの企業を例にすると「世間一般的に普及している」を理由に採用したというケースが多いのです。そこで、そのSAPのシステムオーナーは誰ですか?と聞くと、IT部門のトップや、CIOが何となくオーナーや責任者になっているというのが現状です。オーナーが明確になれば、オーナーの事業目標、事業KPI(重要業績評価指標)が定義され、事業KPIに紐付くシステム側の様々な指標や、プラスの相関になるインデックスが定義されるはずです。

 オーナーが不在の場合、新たなシステム要件は推量的になり、あるいは、過度に利用者のリクエストを要件にしているケースもあります。利用者の中には、オーナーの目的達成の補完的な立場の人たちもいるのでしょうが、必ずしもオーナーのニーズと合致してはいません。利用者の中には、単に使い勝手とか、ボタンの色とかを気にする人もいます。オーナーの目的達成のためにこれは必要ではありません。日本のIT部門の方は、非常に真面目ですから現場からの要求に全力で応えようとします、相矛盾する要求にも応えようとします。結果、泥沼にはまります。

 先にも述べましたとおり、大手企業でも半分ぐらいはオーナーが明確ではありません。どちらかというと、アドホックな、イベントドリブンな要望に応じてお互いに配慮してやっています。日本人の良いところでもありますが、いざというときに大きな問題を引き起こす要因になります。運用現場の日々の改善の取り組みを否定するつもりは全くありません。ただ、改善の対象として、利用者の不満解消の改善が、オーナーの事業KPIのプラスに働くことなのか、しっかり見極める必要があると言うことです。

株式会社ビーエスピーソリューションズ 取締役 SMO推進部 部長 藤原 達哉 氏
株式会社ビーエスピーソリューションズ
取締役 SMO推進部 部長
藤原 達哉 氏

藤原 たとえば、何のためにやっているのかが曖昧なまま、眼前のインシデント対応に追われている場合、担当者は改善していているつもりでも「新たな仕事を作っているだけ」ということがあります。あるお客様の場合、オーナーの目的を達成するためのKPIであるはずなのに、「KPIを達成しているのに何の成果も出ない」と相談されます。これは、目標を達成する為に、CSF(目標達成のために決定的に重要となる要因)を定めてから、その達成度を測定するKPIをセットすべきところ、KPIだけ決めて活動した結果、インシデントを増やすだけという結果になってしまったケースです。また、別のお客様の場合、「ヘルプデスクの顧客満足度を上げることにより、事業に貢献する」という目的を設定し、そこで「インシデントへの対応時間を短くしたら顧客満足度が上がるだろう」という仮説を立て、対応時間をKPIとして時間を短くする活動され、きちんと成果が出たケースがあります。ただ、対応時間を短くするのが目的ではなく、定性的な視点を、どう定量的に計るかを実践されたケースです。ITILの「コスト効果が出ないインシデントは潰さなくてもいい」という合理的な発想に近いかも知れません。日本の現場ではインシデントは全て潰そうとします。何のためにやっているかが曖昧な所以です。

IT部門はサービスマネジメントオフィスを設置すべき

黒須 オーナーが明確であっても、事業側のKPIとシステム側がプラスの相関になっていて、かつきちんとマネジメントされるとは限りません。私が支援している企業でも数社しかいません。なぜそれほど難しいのかと言うと、プラットフォーム的なレイヤーや事業ごとのレイヤーなど、企業によって3層から4層にレイヤーが分かれており、それぞれに相対するKPIが存在します。さらに、売上アップに効くシステムと、どちらかといえば社内効率化のために活用されているシステムがあり、2x4のマトリクスに分かれます。それぞれのオーナーの視点で、どういうKPIを持つべきなのかを細かく定義しないと、明確な相関が出てきません。運用効率化のツールやITシステムをモニタリングするダッシュボードはありますが、事業オーナーの指標との相関をリアルタイムに見られるツールは見たことが無いですね。

藤原 BSPグループは、IT部門がシステムをサービスとして提供、利用者は直感的にサービス内容を理解することができ、さらに、事業オーナーの指標と利用者の要望がプラスに相関した形でIT部門に集約され、IT部門はビジネスに競争力の源泉となる価値を提供することを目指す、SMO(Service Management Office)の設置を提唱しています。SMOの構築ををお客様と議論していく中で、SMOを実現するためのフレームワークとしてASMO(Advanced Service Management Office)を開発しました。ASMOフレームワークそのものは商品ではありません。ITILと同様に、ASMOフレームワークを活用してIT部門の業務の価値分析から組織改革、人材育成、ソリューションまでをトータルでコンサルティングするサービスを提供しています。

黒須 SMOの発想は素晴らしいと思います。ITの利用価値を高めるためにも、オーナーの目的を達成するためにも、各企業にSMOなる組織があるべきでしょう。私は組織論的なことを結構気にするのですが、SMOという組織構造は必要であり、今後、広まっていくと思います。SMOにはIT部門の人は当然入るだろうし、ユーザー部門の知見も必要になります。色々な立場の人の集合体になるのではと思います。

藤原 私も考えているのはそこです。日本では、IT部門の人だけになりがちです。色々な立場の人で、組み立てる必要があります。

黒須 一概には言えませんが、構築あるいは導入されたシステムが持つ機能のうち、約7割が使われていないようです。SMOで自社内のシステムがどのくらい使われているのか、これは稼働率ではなく、使用率が分かるようにすべきでしょう。真に必要なシステムを見極め、その利用率を高めるためにもSMOのような組織は有用だと思います。実際、米国でもサービスレベル・マネジメント・オフィスというフレーズは昔からありますが、純粋にサービス全体をマネジメントする組織機能としての設置は聞いたことがないですね。これまでは、オーナー目的達成のためのKPIと連動させるといった考えや意識が薄く、何となく優秀な人がやってきたのが実情です。SMOのような組織を明確に定義し、IT部門、利用者、オーナーが集まって、一つのマネジメントオフィスを構築することができれば、グローバル化を急務とされている日本企業にとっても非常に有効だと思います。

藤原 SMOは、ITILの最新バージョン2011エディションに名称のみ出ていますが「何をすべきか」はほとんど書かれていません。そういう意味では、私たちの研究が進んでいると思います。SMOは「ITが競争力の源泉」だと思っているCIOなどが旗を振らないと実現できません。単なる言葉遊びで終わってしまいます。必要性は分かっていただくことは出来ても、どのように必然性を理解していただくかが重要なのです。

黒須 SMOの設置後も、どうやってITサービスを活用し、価値を高めていくかを追求し続けなければなりません。その基礎となるのはやはり運用であり、非常に価値がある業務なのですが、どうしてもダイレクトに貢献できる分野と比較して、同等とはみなされません。しかし、運用の現場には、プラスの価値を生み出すヒントが沢山あるはず、そこをなおざりにしていると見逃してしまいます。運用部門のマネージャーは、業務が分かる人であるはずですから、運用しながら、プラスの価値を見出し、業務プロセスを改善することができると思います。

藤原 そのためには、活動による各種の「気づき」が必要だと思いますし、経営層やビジネスオーナー、IT部門と利用者のコミュニケーションが重要だと思います。円滑なコミュニケーションを実現するHUBとしてもSMOを広めていきたいと思います。

著者プロフィール

  • EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)

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