金融業界のデジタル活用を底上げするために、業界内のコミュニティを社団法人化
金融データ活用推進協会(FDUA)は、金融業界のデータ活用における水準の向上を目的に組成され、勉強会や意見交換会などを通して、さまざまな技術やノウハウを金融機関で共有できるよう取り組んでいる。
同協会の前身組織は、2020年12月から活動していた「金融事業×人工知能コミュニティ」。このコミュニティは大手金融機関のメンバーを中心としたものであり、各行の共通課題として“横のつながりをつくる”ことを認識していたという。つまり、金融機関ごとに壁を隔てており横のつながりがなく、各社が似たような課題を抱えながら独自に取り組んでいたのである。
当然、競争領域であれば共有はできない。しかし代表理事の岡田拓郎氏(デジタル庁)は「たとえば、人材育成や基本的なデータの取り扱いといった領域であれば共有は可能です。そうした情報共有をすることがお互いのためになり、どんどんと“横のつながり”を広げていくことで業界全体の底上げになると考えています」という。そうしたビジョンをもって金融データ活用推進協会の設立に至っている。
前身のコミュニティは、いわば最先端のデータ活用事例を共有するための場だった。参加メンバーも、業界のAIシステム導入などでトップ争いをしている猛者ばかりである。一方で、このコミュニティだけで情報を共有し、意見交換をしても、“金融業界そのもの”は決して盛り上がらない。そこでコミュニティの一般社団法人化を推進。組織化されることで金融機関が参加しやすくなったという。
「協会が今後予定しているコンペティションの審査員にも、金融機関の役員クラスの方が参加することが決まっています。結果的に、社団法人化してとてもよかったと思っています」(岡田氏)
協会の設立にあたって必要としたのが、「実務のわかるプロフェッショナル」。そのため、5年後10年後も金融業界のデータ活用を引っ張っていけるトップランナーに声をかけ、理事として参画してもらっている。そのうちの一人が、顧問として参加している野口竜司氏(ELYZA)である。野口氏は著書に『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』(東洋経済新報社)を持ち、多くのAIプロジェクトに携わるAI活用の第一人者だ。
顧問として参画した理由について野口氏は、「自分が金融業界の人間ではないからこそ、他業界の動向や業界を越えたトレンドなどを発信できる」と説明する。そして「金融業界では特に予測系のAI、そのためのデータ活用が散見されます。今後は、会話系AIなどのトレンドについて、どのように浸透させ活用していくのかを提案する役割も担っていると考えています」と語った。