モノづくりと情報技術による価値創造の加速に全社で取り組む
DNPは1876年の創業以来、印刷関連事業をはじめ社会のニーズに応える製品やサービスを開発しており、幅広い技術を持つ。印刷から生まれたモノづくり技術は微細加工や精密塗工、材料開発など。情報関連技術では情報処理、設計、評価・解析などだ。グループ売上高は1兆3,441億万円、従業員は3万6,542人(2022年3月期現在)と、情報コミュニケーション/エレクトロニクス/生活・産業分野で日本を代表する企業だ。
同社が目指すDXは、印刷(Printing)と情報(Information)の技術を柱とした「P&Iイノベーション」による価値創造だ。このP&Iをコンセプトとした取り組みは2015年に始まっており、DNPグループにおける新規サービスを創出するAB(アドバンストビジネス)センターのセンター長や情報セキュリティ委員長を担っている常務執行役員 金沢貴人氏は、「DNPグループは、独自の『P&I』(印刷と情報)の強みを掛け合わせ、多様なパートナーシップとの連携を強化して社会課題を解決するとともに、人々の期待に応える新しい価値を創出していくことを基本方針としています。DXについても、限られた人たちが取り組むのではなく、社を挙げて取り組んでいます」と説明する。
DNPにおけるDXは、ICT行政部門を中心に、事業の推進として「新規ビジネス創出」「既存ビジネス変革」、基盤の強化として「社内システム基盤変革」「生産性の飛躍的向上」の4本柱で取り組んでいる。社内システム基盤の変革(ITモダナイゼーション)を担っているのが情報システム部門だ。
クラウドの積極活用で業務システムの変革を目指す
新たな事業の創出・拡大、既存事業の伸長のためにIT基盤を抜本的に見直し、再構築していくことが情報システム本部の役割だ。2022年11月に発表されたクラウド移行では、これまでDNPで開発・運用してきたオンプレミス環境の基幹システム基盤を約8ヵ月でリフトしている。
具体的な内訳は、7台のサーバーで構成された統合データベース基盤と約600台の仮想サーバーが稼働する業務システム基盤だ。同時に災害復旧などBCP(事業継続計画)や安定的稼働を実現させるためのセキュリティ対策の強化も実現しているという。今回のクラウドリフトを契機にIT基盤全体を整備することにより、データを戦略的に活用し、競争優位を獲得する「データドリブン経営」を加速させる。
なお、業務システム変革の取り組みにおいては、「業務システムのクラウドリフト」「データ統合基盤の構築・活用」「業務システムの脱自前主義(SaaS積極的活用)」「業務システムのクラウドシフト(クラウドネイティブ・DevOps)」の4つを基本方針として策定しているという。VUCAの時代において、予想できないビジネス・業務の変化に耐えられるよう考慮した結果だ。
情報システム本部 本部長の宮本和幸氏は「データドリブン経営を推進するためには、様々なデータを掛けあわせる必要があり、そのためにデータを統合する基盤も必要だと考えました。SaaSの導入や展開、クラウドネイティブ環境におけるモダンな開発を試行するにしても、ITモダナイゼーションにはそれなりの期間が必要となるため、4つの方針を取り巻く環境の変化にあわせて、軽重をつけながら進めていくことが重要だと考えています。これらと同時に、セキュリティを従来の境界型防御からゼロトラストアーキテクチャに移行することも必要になります」と説明する。
なお、ITモダナイゼーションを進める中では、SaaSの活用も欠かせないだろう。実は、DNPにおけるSaaS導入は海外からスタートしている。海外でのビジネスは、国内とは違い移動時間、出張滞在期間が長くなることが多く、空港やホテルなど社外からモバイル端末で業務にあたるケースが少なくなかったという。同社の海外事業が拡大を続けていき、海外拠点や工場建設、用地買収などが加速する中においては、都度システムを作っていては間に合わないという課題もあった。そうした背景もあり、2018年に海外拠点で利用するICT基盤として、SaaSとセキュリティ対策をパッケージ化して展開したことをきっかけに、国内においても全社的なSaaS利用が始まったという。
金沢氏は「競争領域でない部分に開発リソースを割くことはやめて、ビジネスに寄与できる部分にリソースを集中させるという考え方です。スクラッチ開発したシステムと比べて多少使いにくいとしても、貴重な開発リソースを競争領域にシフトしていくことを徹底しました」と説明する。