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北川裕康のエンタープライズIT意見帳

エンタープライズIT業界でブランドを築くための「伝播させる力」とは?


 33年以上にわたりB2BのITビジネスにかかわり、現在はクラウドERPベンダーのインフォア(Infor)のマーケティング本部長の北川裕康氏が本音と洞察で業界動向を掘る連載。今回はエンタープライズIT業界におけるブランドの意味について考えます。

 「うちの会社はIT業界ではブランド認知されてないから、もっとマーケティング頑張ってよ。だから、ここに広告とか記事広告だしてよ」って話をよくされると思うのです。実は、私もよくされます。今回は、そのブランドについて書いてみたいと思います。

 昨年は前職でテレビ広告を実施して、このデジタルな時代、トラディショナルなテレビCMで認知が上がるものだと感心しました。だからといって、B2Bの商材を皆様に購入いただいたわけでなく、やはりそのCMの効果は認知のみであり、本当のブランド価値の訴求はそれだけでは済まないと思いました。

 マーケティング界の重鎮フィリップ・コトラー先生は、『コトラーのB2Bブランド・マネジメント』(白桃書房)で、「ブランドは感情を動かし、人格を持ち、顧客の心を掴む」とおっしゃっています。心でそのブランドの約束を想起されないと、ブランドにはなりません。特に、私が長年関わっている製品はソフトウェアであり、ユーザーインターフェイス以外目に人間には見えないのです。ソフトウェアの場合、「顧客の心を捉えるまで、見えないものを伝える」のはかなり大変と感じています。

 また、広告は、一定レベルのインプレッションで、繰り返し刷り込まないと認知が上がりません(お金が必要です)。人間、興味がないものは、無視するからです。「見えないゴリラ」という有名な心理学の実験があります。2つのチームがバスケットの試合をしているビデオを見るのですが、被験者へはある選手がパスする回数を数えなさいと事前に指示があります。それに夢中になっていると、コートの中にゴリラの着ぐるみを着た人が動いていても全く気がつかないというものです。YouTube[※1]でもビデオがありますので、ぜひご覧ください。ゴリラが見えません!

 少し前の2014年に、マーケティングの世界な権威であるデイヴィッド・アーカー(David Aaker)氏が、ブランドの進化について定義されており、2014年の時点ではブランドは第3の波を迎えているとされていました。

 第1の波でのブランドは競合他社のものから1つの販売者の商品またはサービスを識別するために意図された区別する名前および記号であるといっており、ブランドが商品名と同等に扱われている時代です。いまだに「ゼロックスする」など、当時の名残が残っていますよね。

 そして、第2の波は、大量生産の商品をマスのメディアで宣伝する時代で、主に製品やサービスに焦点があたり、他の製品と何らかの形で差別化することでした。テレビ、冷蔵庫、洗濯機の時代でしょうか。

 そして、たぶん今も第3の波です。これは企業の外でブランドが作られる時代で、ユーザーとの交流やコミュニティ内の会話でブランドが掲載れます。これらのブランドは、ユーザーが自分自身で構築したと感じ、帰属意識を持っているブランドであります。なかなか厄介ですね。ブランドの語源は、もともと牛の焼き印(Burn)からきており、他とは違うということです。その本質は変わっていないと思います。ただ、宣伝しても、知っているという認知が上がるだけで、感情を湧き上がらせる熱いブランドにはならないのです。

 ちなみに第3の波で、エンタープライズITの世界で登場したマーケティングのやり方が、エバンジェリズムではないでしょうか。私もマイクロソフト時代に担当していました。エバンジェリズムは宗教の伝道活動からきている言葉です。人が集まるところに行って、伝道師が宗教を伝えるのです。ITの世界では、エバンジェリストが、物理的なもしくはオンラインでのコミュニティに赴き、テクノロジーについて伝道するのです。勘違いが多いと思いますが。プレゼンがうまい人がエバンジェリストではないですよ。

 会社の中に、エバンジェリストがいようといまいと、お客様との会話、お客様どうしの会話を活性化するしか、今の時代はブランドが作れないのです。それを促進するのが、近代のマーケティングの仕事かと思います。

 今は光り輝くブランドになっているマイクロソフト社。私が入社したのは、1993年です。当時は、Windows 3.1が発売されたばかりのときです。私はエンタープライズ系のソフトウェア製品の責任をもっていましたが、ブランド認知はほぼ皆無から始めました。製品も正直、ショボかった。でも、当時のマイクロソフトの社員はとても熱かったと思います。どんなプレゼンでも、最初にビルゲイツが掲げたビジョンやスローガン「Information At Your Fingertips」からスタートしていました。社員は、本気でその世界が来ることを信じていました。この時に感じたのは、ブランドにとって、本当に重要なのは社員というチャネルであり、社員がお客様やパートナーに熱く語ることで徐々にブランドは浸透していくのではないかということです。熱い目がブランドを語り、伝播するのです。

 では、どのようなメッセージを発信するのがよいのでしょうか?

 それは、徹底的に「Why = なぜ自社の製品なのか」をお客様に伝えることだと思います。私の会社はInforで、Why Infor、Why Infor Nowがお客様に伝わらないと買ってくれません。メッセージは、Whyを中心に、How、Whatが構成されています。Whatは何ができるかという機能的な話で、重要だけどスタートでしかないです。Howはどのようなことができるかで、問題解決やソリューションになります。ただ、これだけでは不十分です。情報が溢れ、他社も同様なことができるからです。日本の企業をみているとWhat、何ができるかを発信しているのを散見します。

 Workday社で勤めていたときは、案件の管理をしていましたが、SalesforceのOpportunityオブジェクトにはWhy Workday、Why Nowを記載するフィールドがあり、案件ごとに必須項目になっていました。プロセスにこのようなことを組み込むのがWorkday社のすごいところです。

 ブランドとは他とは違い区別できるということです。ですからWhyがとても大事なのです。これに答えられないなら、ブランドは確立できません。Whyみなさんの会社、それはWhy、それはWhyと3段階でも、5段階でも掘り下げてください。会社や製品の意義を伝えることが不可欠なのです。

 このためには、他社を意識して、顧客からみた差別化要因は何かを追求する必要があります。グローバル企業は、競合分析する部門が、Competitive Intelligenceなどの名称であるケースも多い。それくらい競合を強く意識しているということです。

 今回の最初の社内のブランド認知の依頼については、「私もマーケティングを頑張るけど、営業の方でしたら、認知されていないならチャンスと思い、年間100名の見込み顧客にWhyを熱く語ってほしい」と述べます。10名の営業がいたら1,000名に直接伝えられるのですよ。そして、何名かが他に伝播してくれます。サービス部門の方もそうですね。その蓄積が大事かと思います。

[※1] https://www.youtube.com/watch?v=IGQmdoK_ZfY

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この記事の著者

北川裕康(キタガワヒロヤス)

35年以上にわたり B2BのITビジネスにかかわり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Inforなどのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などの要職を歴任。現職は、クラウドERPベンダーのIFSでマーケティングディレクター。...

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