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EV幻想脱却の後、見えてきた日本の自動車メーカーの勝ち筋──「マルチパスウェイ」戦略とは?

KPMGコンサルティング 轟木光氏 インタビュー

 「EVシフト」への出遅れがしばしば指摘される日本の自動車メーカー。「選択と集中」を是とする戦略論に照らし合わせると、マルチパスウェイ戦略の良さはわからない。次世代パワートレインとバイオ燃料の最新技術動向に詳しい専門家に、新しく見えてきた方向性について聞いた。

日本の自動車メーカーは本当に出遅れているのか?

──最近、EV推進派のトーンダウンを感じる機会が増えています。背景にはどんな要因がありますか。

 EV(電気自動車)の推進は、消費者が望んでいたわけではなく、また自動車産業界が自ら推進を働きかけていたわけでもなく、政治主導の側面が大きかったのではないかと感じています。欧州と中国、そして米国も、政治がEVに誘導したのが全ての始まりでした。BEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の新車に対する販売シェアが大きいのは欧州ですが、伸びの鈍化が明らかです。その背景には補助金制度の終了があります。コストメリットの感じられないEVから消費者が離れ、ビジネスとして成立しなくなってきたわけです。政治主導で進んできたEV推進に企業が異を唱えることは難しいですし、投資家をはじめとするステークホルダーに配慮するため、ある意味我慢をして推進しきたのですが、その姿勢を続けられなくなってきた、と見ています。

図1:主要4地域におけるBEVとPHEVの販売推移(2020年〜2023年) 出典:KPMGコンサルティング
図1:主要4地域におけるBEVとPHEVの販売推移(2020年〜2023年) 出典:KPMGコンサルティング [画像クリックで拡大]

──2023年第4四半期のEV世界販売台数では、中国のBYDがテスラを超えて世界首位になったことが記憶に新しいところです。

 2022年から2023年にかけて販売が伸びたのはPHEVです。中国企業が発表したEVの販売台数はBEVとPHEVの販売台数の2つを合わせたNEV(新エネルギー自動車)です。本来はBEVとPHEVの販売を分けて見ないと正確な状況はつかめません。中国のBEVの販売は鈍化していて、PHEVの伸びがNEV全体の成長を牽引したのが実態です。

 また、主要4地域の新車販売におけるパワートレイン別内訳とセグメント別内訳を見ると、市場の特徴が見えてきます。EV化が進んでいると言われる欧州でも、まだICE(内燃機関車)が過半数を占めていますし、日本を除く3地域でSUVが人気とわかります。

図2:主要4地域におけるパワートレイン新車販売シェアとセグメントシェア 出典:KPMGコンサルティング
図2:主要4地域におけるパワートレイン新車販売シェアとセグメントシェア 出典:KPMGコンサルティング [画像クリックで拡大]

 本来、最もEV向きの市場は日本です。日本では渋滞が頻繁に発生し、細く入り組んだ道路も多く、軽・小型車のシェアが50%を超えています。BEVはICEより航続距離が短くなりますが、理論上は軽自動車のBEVは日本の環境に適していると言えます。しかしながら、日本で普及していません。その主な理由として、値段が高いこと、充電に掛かる時間が長いことが考えられます。結局は、バッテリーに起因するBEVの商品力の低さにあります。バッテリー問題を克服する革新的な技術が出てこない限り、状況は変わらないと思います。

KPMGコンサルティング株式会社 アソシエイトパートナー 轟木光氏
KPMGコンサルティング株式会社 アソシエイトパートナー 轟木光氏

将来を決定する2024年に行われる2つの大きな選挙の動向

──欧州の補助金制度の終了などEVを取り巻く消費環境の変化は、前からわかっていたことですよね。

 政治的にもEV購入に予算を付ける理由がなくなってきています。そもそも、市場は自分たちの身の丈に合った値段で、自由に移動ができる乗り物を求めています。加えて、自動車会社は関係会社も多く影響力も大きいことからサステナブルなビジネスをしてほしいと思っているでしょう。自動車会社の経営が悪化することになれば、その影響は他の多くの産業にも波及し、市民の生活水準悪化にもつながりかねません。

 2024年にはEVの将来を決定する2つの大きな選挙があります。1つは、6月の欧州議会選挙、もう1つが11月の米国大統領選挙です。欧州議会選挙の争点の1つとして、「2035年にICEを本当に廃止するのか?」が上がっているのです。

──市民の意見が反映され、ICEの廃止が延期されるということでしょうか。

 それは分かりません。ただ、ICEの廃止について、完全な見直しが議題として進んでいるという動きがポイントなのです。もし米国大統領選挙で政権が交代するとしたら、EV優遇の廃止に向けた機運が、より一層高まるかもしれません。

──株式市場の動向には織り込まれているのでしょうか。

 日本はESG投資が盛り上がっていますが、海外では既にグリーン銘柄から投資マネーが離れている国や地域もあります。消費者、企業、政治、それぞれがEVに期待していました。しかしながら、実際に市場に出てきたのは値段が高いわりに魅力的な要素が少なく、充電にも長時間要し、さらには安全性に問題がある、といったクルマでした。EVが炎上する事故がたびたび報じられていますが、それはリチウムイオン電池の取り扱いがとても難しいことが背景としてあります。

──EVの夢物語を信じていたのでしょうか。

 EVの普及にあたっては、まだ課題があるということです。リチウムイオン電池に代わる存在が出てこない限り、消費者にとって魅力的なEVは完成しないのではないでしょうか。「安全性」「充電性能」「コスト」の3つの問題があり、全部が一気に解決することは難しいだろうと思います。まず、第一段階で安全性と充電性能を解決し、第二段階でコストの問題が解決することになるでしょう。そして、全く新しい電池が世の中に出てきた時が、ICEやHEVと正面から戦えるクルマができた時です。今のリチウムイオン電池は最終形ではないと考えています。

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中国と欧州、見えてきた戦略転換

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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