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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

ソフトウェア機能をすべて熟知しきれないのに宣伝するのは罪? 売り手と買い手の間にある責任の所在とは

 本連載はユーザー企業の情報システム担当者向けに、システム開発における様々な勘所を実際の判例を題材として解説しています。今回取り上げるテーマは「ソフトウェア機能をすべて熟知しきれないのに宣伝するのは罪? 売り手と買い手の間にある責任の所在とは」です。自分が利用するソフトウェアやクラウドサービスを決定する際、その機能をすべて熟知しているというユーザーは、ほとんどいないのではないでしょうか。しかし、今回ご紹介するのは、そういったソフトウェア機能への理解を起因とした事例です。契約主体もしくは営業する立場にとっても無関係でない本事例から、契約に必要な勘所を学びましょう。

ソフトウェアの機能をすべて知って買うユーザーはいない

 今回の記事ではシステム開発というより、ソフトウェアを購入する際に気を付けたいことに関する裁判例のお話です。

 自分が利用するソフトウェアやクラウドサービスを決定する際、その機能をすべて熟知しているというユーザーは少ない、というよりほとんどいないのではないでしょうか。私自身も職場である役所で様々なソフトウェアやサービスの導入を決定していますが、その機能をすべて知っているなどというものは一つもありません。それどころか、今この原稿を書いているPCにインストールされているソフトウェアについても「その機能すべてを知っている」などということはありません。

 ただ企業(私の場合は役所ですが)で使うソフトウェアやサービスであれば、やはり最低限必要な機能についてはその有無を調べるのが普通です。一番お手軽なのは、そのソフトウェアやサービスを提案してくれたりする営業担当者などに必要機能の有無を尋ねてみることでしょう。営業担当者は技術者ではありませんが、それでも自分が勧めるモノに関しては最低限の知識は持っているはずです。

 ところが、中にはソフトウェアやサービスについて正確な知識を持たないまま、できもしないことを「できる」と宣伝してしまって後々問題になるケースもあります。今回は、そんなお話です。

 なお本記事ではいつも取り上げる企業間紛争とは異なり、FXの自動取引をしてくれるソフトウェアを購入した複数の個人が、これを推薦したソフトウェア企業を訴えたというものです。ですが後述するように、これと似たようなケースは法人対法人にも発生し得ることでもあるので、あえて取り上げることとしました。では事件の概要から見ていくことにしましょう。

【東京地方裁判所 令和4年4月26日 判決】

 ソフトウェアの販売業者であるA社の株主(持ち株比率は約16%、以下被告と言う。)はA社の販売する外国為替取引(以下FX取引)のためのソフトウェアを自ら購入しその機能や動作を確認したのち、その購入を勧誘する動画を撮影し公開した。

 このソフトウェアは人工知能によってFXの自動取引を行うものだが、被告は動画作成にあたりソフトウェアの製造元であるB社にソフトウェアの持つドローダウン機能(購入した外貨の価値が下落するなどして資金が減少した際に自動的にこれを売却し損害を拡大させない機能)は資金が何%減少したときに動作するのかを尋ねたところ、製造元からの回答は「20%ぐらいを想定しています」とのことだった。そこで被告は撮影した動画の中で以下のようにこのソフトウェアのドローダウン機能を紹介した。

 「プログラマーいわく、最大のドローダウンは20%ぐらいありますよと。(中略)このソフトウェアはすごく賢いので、(中略)マイナス20%ぐらいでちゃんと耐えるようにできております!」

 この動画を見た原告たち(3名)は、各々このソフトウェアを購入しFX取引を始めたが、その直後に買っていた外貨が暴落し、大きな損害を出した。その際、ソフトウェアの持つドローダウン機能は期待通りに動作せず、損害は20%をはるかに超え、あるものは200万円の資金が38万円まで減少し、またあるものは100万円の資金をすべて失うこととなった。原告らは、この損害の責任は被告にあるとして訴えを提起した。

出典 Westlaw Japan 文献番号 2022WLJPCA04268007

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機能を良く知らずに宣伝した者の責任は?

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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