8割を占めるミドルエンド層の参入でどう変わるのか
キーノートセッションではまず、モデレータを務めるITジャーナリストの神尾寿氏が、モバイル市場の現状についてプレゼンテーションした。一般に、Iモードから始まったいわゆる日本独自のガラパゴス市場とiPhone以後のスマートフォン市場は断絶し、対立したものと見られることが多いが、神尾氏は「実は両者は似ている」と見ている。それは両者とも「インターネットのモバイル化」をめざしたものだからだ。
日本のモバイル市場の特徴を海外と比較すると、モバイルインターネットとコンテンツも利用するミドルエンド市場が大きく、通話とショートメッセージしか使わないローエンド市場は小さい。現在のスマートフォンユーザーは、ヘビーユーザーのハイエンド層が中心で、今後、ミドル層が入ってくる。
そこで神尾氏は、独自のUIによるアプリではなくWebブラウザで利用するコンテンツが再び注目されるようになると見ている。当然、次世代の高速通信インフラの充実も不可欠であり、それを使いこなすサービスの提供がポイントになる。
NTTドコモの阿佐美氏がスマートフォン市場で注目しているのは、女性ユーザーの増加に象徴される「コモディティ化」。2011年の販売予想を当初の600万から850万に上方修正した。11月18日にスマートフォン向けサービス「dメニュー」と「dマーケット」をスタート。スマートフォン版iモードという位置づけで、コンテンツプロバイダーのWebサービスが利用できる。「スマートライフの実現に向けて」と題した中期ビジョン2015を発表し、具体的なアクションプランを練っている状態だ。
KDDIの新居氏がまず語ったトピックは、Wi-Fiへの注力とiPhoneの取り扱い開始。スマートフォンについては「インターネットのモデルがモバイルに持ち込まれる」と解釈している。すでに一人あたりのコンテンツ利用料が、フィーチャーフォンを上回っており、内訳を見ると従来の月額課金から、個別課金、アイテム課金に移ってきている。今後の基本方針として「KDDI自身のマーケットを整備し、コンテンツプロバイダーのビジネス環境の強化をしていきたい」と語った。また、ウェブマネーをグループ企業としたように、課金手法の多様化にも注力していくという。
ユーザー視点でのコンテンツ提供をめざす
3氏のプレゼンに続き、ディスカッションが行われた。最初のテーマは「現在1兆6500億円のモバイル市場を、どのようにスマホで成長させていくのか」。新居氏は「自分をモデルに着せ替えができるアプリの例を挙げ、スマホの表現力を生かしたコマースの伸びが期待できるとした。阿佐美氏は、「引き続きiモードを重視すると同時に、グローバルなものであるスマホの可能性にも注目している」とした。ドコモではこれまで、小さい画面を前提にしたモバイル用動画を作成し、配信してきた。それがスマホやタブレットになると、「今までせき止められていたコンテンツが一気に流れる可能性がある」(阿佐美氏)。また、KDDIのコンテンツ配信サービス「LISMO」では、「着うた」などの利用経験が無いユーザーが目立つという。さらに伸ばすためのポイントは料金体系、使い勝手にあると見ている。
神尾氏が注目しているWebブラウザ型コンテンツについては、両者とも「アプリ中心からだんだんバランスが取れてきた。選択できることが大事」という見立てだ。また、ユーザーをいかに求めているコンテンツに誘導するかは「常に改善しなければならない永遠の課題」だという。
会場を埋めたコンテンツプロバイダーへのメッセージとして阿佐美氏は「切磋琢磨しながら、ウィンウィンの関係を築きたい」。新居氏は「ユーザーの状況に関する情報をしっかり提供し、望まれているものを一緒に作りたい」と語った。
最後に神尾氏は「現在のスマホ市場はアメリカ西海岸の企業中心に回っているが、日本のケータイが培ってきた10年は、非常に価値がある。ぜひ日本からの反転攻勢を期待したい」と述べ、キーノートセッションを締めくくった。