カリフォルニア地裁でのアップルの劇的勝利、そして、それに続く東京地裁判決とアップル対サムスンの「世紀の知財戦争」に注目が集まっている。企業はこれを対岸の火事ととらえるべきではない。スタートアップ企業、ネット系サービス提供企業、ソフトウェア開発企業など、あらゆるタイプの企業にとって自社に適した独自の知財戦略を固めていく好機が来ている。
アップル対サムスン"知財戦争"は対岸の火事なのか?
アップル対サムスンの知財訴訟が大きな注目を集めている。多くの場合、知財に関する争いはクロスライセンス(互いの所有特許をライセンスしあうこと)など、両社が相互に納得できる妥協案で終結することが多いのだが、今回に関してはあまりそのような兆しは見られない。下世話な言い方をすれば「ガチンコ」対決が展開されている。
そもそも、今回のように知財関係の事件が表面化するケースはさほど多くない。通常は、水面下で交渉が行なわれ、裁判の場に行くまでもなく和解による解決が行なわれる。メディアに記事が書かれて我々の目に触れるのはまさに氷山の一角でしかないのだ。水面下の見えない部分では知財に関して多くの出来事が起きている。
筆者の弁理士としての経験の中でも、突然にライバルメーカーが特許を取得して顧客からの問い合わせ対応に苦慮するケース、スタートアップ企業がビジネスの根幹を成す特許を取得できたため投資家から資金を獲得できたケース、魅力的な製品を開発したにもかかわらず知財保護に無頓着であったためにコピー品によるリスクに無防備になってしまったケースなど、知財によってビジネスが大きく影響を受けた事例が少なからずある。
しかし、残念ながらこれらの事例はクライアントの守秘義務があるためブログなどで書くことはできない。もちろん、他の私よりはるかに多くの経験を持つ弁理士・弁護士についても同様だ。ゆえに、読者の皆様には、目に見えているよりもはるかに多くのことが知財の世界では起きているという点を理解いただきたいのだ。
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栗原 潔(クリハラ キヨシ)
株式会社テックバイザージェイピー 代表、金沢工業大学虎ノ門大学院客員教授日本アイ・ビー・エム、ガートナージャパンを経て2005年6月より独立。東京大学工学部卒業、米MIT計算機科学科修士課程修了。弁理士、技術士(情報工学)。主な訳書にヘンリー・チェスブロウ『オープンビジネスモデル』、ドン・タプスコッ...
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