テクノロジーを活用する目的は、”顧客の振る舞い”を変えること
広島に出張したとき、たまたま入った喫茶店がおそるべき取り組みを行っていました。テクノロジー活用とはまったく無縁な事例ですが、まずはこの店の取り組みを紹介します。
この店では顧客がある条件を満たすと、100円引きのクーポンを提供しています。条件とは、「店を飾るための花を持ってくること」です。その案内を見たとき、最初は「変わっているな」と受け流しましたが、よくよく考えるにこの裏には店長の深謀遠慮(しんぼうえんりょ)があるのではないかと感じるに至りました。
なぜならば、この取り組みは「100円の割引」ではなく、「花を堂々と自慢する場」の提供をしていると考えられるからです。
庭できれいに咲かせた花を自慢したい広島の有閑マダムも、これみよがしにそれを自慢することははばかられます。出たがりだとは思われたくないからです。そこに、「100円引きしますから、店のためにお花をお持ち頂けませんか?」という大義名分を与えたことにより、気持よく自己顕示ができる。恐らく花を持参するやいなや撮影されたのでしょう。レジの横には、「田中様の奥様が今日もこんなに素敵なお花をお持ち下さいました!」という手描きのメッセージ入りのインスタント写真が大量に貼られていました。
これを、心地良いと感じる人にとっては、100円引きのクーポンは「100円引きとおっしゃるから、お持ちしたのよ」と言わしめるための大義名分に過ぎず、割り引かれるコーヒーの値段が300円でも600円でも関係ないはずです。
これはあくまで私なりのゲスな勘ぐりであり、このような狙いを持っていたかは分かりません。しかし、このような取り組みは「テクノロジーを使って何を実現するべきであるのか」ということを考える上で非常に重要な示唆があると考えます。
ここで、テクノロジー活用の話に戻りましょう。データ分析をはじめ、テクノロジーを活用する目的は、顧客の振る舞いを変えることにあります。
「見える化」から開始することはもちろん多いですが、見える化だけでは意味がありません。見える化された現状を踏まえ、顧客への働きかけを変え、その振る舞いを変えることこそが、テクノロジーが事業にもたらす付加価値となります。
たとえば、ある商店において、花王の洗剤とP&Gの洗剤の売れ行きがID-POSデータを用いて購入層別に分析されれば、これは見える化が実現された状態と言えます。しかし、花王の立場にたてば、「普段P&Gの洗剤ばかりを使っている人に、花王の洗剤を手にとってもらう」というように振る舞いを変えることが当面のゴールとなるでしょう。
振る舞いを変えるためのテクノロジー活用のひとつが、クーポンやポイント還元です。100円引きのクーポンを送ることによって、それならば購入してみようかという気持ちをくすぐることになります。CLO、ジオフェンシングといった各種の送客施策において大きな役割を果たしました。しかし、先の広島の喫茶店は、必ずしも動機付けは価格だけではないことを示します。