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鈴木正朝先生に訊く!「個人情報保護法制2000個問題」ってなんですか?

ニッポンの未来と2000個問題

 「個人情報法制度2000個問題」を提起する鈴木正朝先生に話をうかがっております。今回、話は大きく俯瞰して、日本の未来をとらえてゆきます。

少子高齢人口減少社会の未踏領域に踏み込んだ日本

Security Online Day 2015 にて、2000個問題について語る鈴木先生

前回、マイナンバーの話が出ましたが、マイナンバー制度導入の背景にある人口問題について、鈴木先生から解説をお願いします。

鈴木 はい。今の日本は、どんどん人口が減っていく一方ですよね。現在、二十歳の学生らがリタイアする4、50年後の日本は、人口9000万人を割り込むと言われています。1億2千万人の大台から9千万人に割り込んだら、一人あたりの生産性が飛躍的に向上しない限り全体の経済力は低下しますよね。

 ちなみに、こうした日本の将来推計人口について語る上では、「国立社会保障・人口問題研究所」のサイトは必見です。総務省などの関連する統計データとのリンクもはられていますし、Excelのデータも提供されているので大変に便利です。

―人口が少なくなるだけではなく、高齢化も大変ですよね。

鈴木 4、50年後の日本の生産者人口は約50%です。生産者人口、生産年齢人口というのは、15歳以上65歳未満の年齢に該当する人口のことです。働いて税金納められる現役世代ということになりますか。でも15歳から18歳までの年齢層は中学3年生とか高校生なので大半は働いていませんし、60歳の定年後は働いていない人もおりますから、納税してくれる人はもっと少なくなります。ということで、残り約50%は64才以上の高齢者と14歳以下の子供ということになります。

―扶養になる人たちですよね。ほぼ、一人で一人支える時代になる。

鈴木 そうです。人口が9千万人を割り込み現役世代の比率もかなり低下するということは、ほぼ“決定された未来”ですから、どう考えても、もっと効率のいい産業を興こしていかねばなりませんし、政府の機能も効率化させていくほかないのですよね。これはもう誰もが指摘していることですよ。難易度が高くてもう無理という人もいますが、座して死を待つわけにはいきません。ここはどんどん対策、改革にチャレンジしていくべきです。

―超効率化のための電子政府化とか。

鈴木 ええ。情報化の前提として、まずは国民ひとりひとりが本人であることがわかるように識別子をつけていく必要があるということで、マイナンバー制度が検討されました。もちろん国家権力による国民のプライバシー侵害というリスクが高くなるという負の面もあるので、そこは独立行政委員会の役所を新たに作って権力によるマイナンバーの濫用や杜撰な管理が行われないようにチェックしなければならないということになりました。

 このあたりは、浅岡さんへのインタビュー「作った人に聞いてみた、マイナンバーとの上手なつきあいかた」でも詳細に語られているところでしょうか。

―マイナンバー=監視社会こわい、みたいな文脈で語られていますが、本来はそういう流れで出てきた話なんですよね。

鈴木 ええ、そうなんですが、管理社会、監視社会になるリスクがないわけではありません。プライバシーの権利の問題もしっかり見ていく必要があります。負の面も見据えて、そのリスクを最小化してメリットを最大化するところが政策論だろうと思います。

 ガバナンスがしっかり働くことが前提です。そのためには、まずは、人権保障の観点から権力チェックというブレーキがしっかり機能することが重要です。そこを確認した上で、電子政府化に向けたアクセルをふかしていく。中でも、生存権の問題、具体的には年金、医療保険、介護といった社会保障制度を維持していくということを考えていかなければならないわけです。少子高齢人口減少社会という時代の中で、財政的に日々苦しくなっていくところですからね。消費税を上げれば全体として税収が増えるという単純なものでもありません。

 そこで、今後どういう社会にしていくべきかというビジョンを描いて、みなで共有していくことが重要になります。その中で、マイナンバーをどう使うか、それによって何を実現するか、一方でリスクはないか、あったとしてそれを認識してどのように対策をとるか、ゼロリスク志向では前に進めなくなるので、受容できる範囲に抑える中で具体的なユースケースを設計して実施していかなければなりません。

 また、行政の税、社会保障といったお金回りで使っていくマイナンバーだけではなく、病気治療、介護といった生命身体回りで使っていく「医療等ID」の導入にも踏み込むことになっています。その根拠法となる医療分野の個人情報保護法案も具体的に検討されていくでしょうし、さらには、ゲノムの取扱いについても法制化が必要かどうか議論もはじまっていくでしょう。

 効率化は重要ですが、安全管理はその前提です。新産業として遺伝子創薬が伸びていくと治療効果もぐっと高まりそうですし、人類に貢献しながら高収益を見込めるような期待感があります。

 日本は、人類未踏の高齢社会に入っていくわけですから、面前の高齢者に快適で安心な暮らしを提供できるように、ハード、ソフト、サービスなどを工夫していけばいいわけです。そしてそれらを日本に続いて高齢社会になる国々にもどんどん売っていく。

 やはり社会保障制度は財源が命ですからね。事業者には法人税と雇用維持でがんばってもわないといけません。

 理想的には、誰もが元気に健康で暮らして、寿命がきたらぽっくりと苦しまずに逝けるような。それを支える年金制度、医療保険制度、介護制度を維持するところがまずは前提でしょう。

―長患いはみんな不幸になりますしね。

鈴木 結婚すれば、たいがい親が4人になるわけで、介護の問題が順番に長期間に及んだり、複数同時に入ったり、介護の問題は自分が高齢者になる前に親世代の面倒を直接ふりかかってきます。子の進学など教育費と挟み撃ちにあうと富裕層でもない限り、家計に大きなダメージとなります。公的な扶助が衰えるほどに支えきれなくなるかもしれません。貧困層が増えてしまうと対策の費用も増大しますが、そこを放置するほどに社会的病理もまた拡大していきます。

 こうした問題が顕在化していくのは、人口のボリュームゾーンを構成している団塊の世代が、後期高齢者に入る時期でしょう。一気に医療保険の支出が増大するんですよね。高齢化することは、病気になるっていうこととほとんどイコールですから。

 今でも自然増で現状維持のために年間1兆円、社会保障費が上積みされているわけですよ。年金に加えて医療保険の支出が増えますからね。これ、ものすごいことですよ。毎年1兆円ずつ現状維持のために予算が膨らんでいくわけですからね。国防も当然に重要ですけど、国内の社会保障制度が崩れていくというのも国が亡ぶ要因になるでしょう。国防費も社会保障費も財布は一つです。そのあたり、外患も内憂も両方みていかないとならないわけです。

―両方重要。国防問題と社会保障制度問題。

鈴木 おじいさんおばあさんには、できるだけ社会参加したり、趣味に没頭したり、勉強したり、友人や隣近所と付き合ったり、孫の世話をしたり、クオリティ・オブ・ライフ(QoL)を高めて、可能な限り健康なまま寿命までひっぱっていっていただいて、最期は痛みなく苦しまずにぽっくり逝っていただくのがいいですよね。これは、本人の願望でもあるけれども、介護する家族にとっても、国の財政にとっても、誰にとってもハッピーなことです。

―そうですね。

鈴木 理想的ですよね。そのためにどのような政策が必要かを考えていかなくてはならないわけですが、何をやるにもお金がかかります。政策をうつにも財源のあてがなくては続きません。否応なく生産性を高めていかないとならない。たとえば、現在より、倍くらい効率的に働いてもらわないとならないわけですよ。そういう経済成長につながる産業を興していかないとならないと思っているわけですね。

 国の経済成長は、経済界のみの願いではなくて、消費者含めてあらゆる人の願いですよね。この目標にネガティブな人はあまりいないのではないでしょうか。

 それで、規制緩和がーと短絡したことを言う人が増えているわけですが。それは経済成長のための手段の一つにしかすぎません。それを目的化するだけの雑ぱくな主張ばかりが目立っています。規制緩和によって、何ができるようになって、どのような産業が伸びて、結果としてどう日本経済を牽引して全体が成長するのかの絵がまったく見えませんね。

 そうした中で、期待しているのが、高齢社会の対策の一つにもなる医療ビッグデータ、医療イノベーションです。

―なるほど、それで遺伝子創薬と。

鈴木 人類未踏の高齢社会に入ってしまったーと、経済が縮小していくだけだーと悲嘆にくれているだけじゃなくて、どうせ逃れようがないんだから、ここはしっかり対応していかなきゃなんないと前向きに考えるほかないと。ある意味、高齢社会というのは人類の勝利ですからね。平和と安全を実現した政治の結果ともいえる。産業革命以前の人類は老後というのは、平均すればほんと数年だけのことだったわけですから。

―老後が長いのは勝利の証!

鈴木 だって働かないと、食べられなくて死んじゃうわけでしょう。生産性も低い中で、体を酷使して動けなくなるぎりぎりまで働いて、本当に働けなくなってからが隠居ですよね。まあ、だいたい平均すれば数年で死んでいったはずです。それがだんだんと生産性が向上して、医療制度も充実していくところで、少しずつ平均寿命が伸びていく。高齢者の比率が上がっていく。それは多少の富があって、蓄えがあって、飯が食えるようになってきたということなんですね。

―日本が世界最先端で少子高齢化に突入したというのは、ある意味、医療制度や福祉の勝利でもあると。

鈴木 ええ、そうだと思います。欧米の先進国も、韓国、中国もみな高齢社会の最先端を行く日本を追っています。

 日本は見渡す限り爺さん婆さんになる。80歳以上が1002万人、前年比38万人増で初めて1000万人を超えたようで、ざっくり東京1個分が老人です。そういえば首都圏の火葬場などもすでに1週間待ちというところもあるようです。死んでもなお放置されそうな勢いです。

 しかも、その後ろには、団塊の世代が待ち構えているわけで、この塊が押し寄せてくる5年後の医療保険制度における財源不足のインパクトはいかばかりかとふるえるわけですが、朝起きればいつもの日常があるわけで、我が身とその周辺にふってくるまで当然、実感も抱かず、危機感も口だけのことなのであろうなぁと。

 こうやって日々じわじわと真綿で首を絞められつつ、ある日、いきなりワイヤーでぐっと絞められる日がやってくるというか、がくんと膝が落ちるような不利益変更に直面するんだろうなぁと。穴に落ちるまで、真の対策に踏み込めないのはもはや習性というか、お家芸なのでしょうか。

 ここは、すっくと立ち上がって、10年後老人である私たち世代以上に向けて、何を売るか。面前にたくさんのユーザがいて、レスポンスしてくれるわけです。まさに日本は市場の中にいるんだと。そのメリットを活かすべきなんだと。まぁ一生懸命鼓舞してですね。高齢者に最適化された住居、ベッド、バス、トイレ、キッチン、食器、移動手段、そして介護用ロボットとか、ハードウェアからソフトウェア、サービスまで高齢者対応の高機能化した製品が開発しようじゃないかと。世界中の高齢者に喜んでもらえるような品質をめざそうじゃないかと。

 しかし、介護サービスがほんとうにいわゆる旅館のおもてなしみたいに、世界に自慢できるような品質になっているか、低所得者層の独居老人の孤立死を防ぎ、最低限看取る体制が整備されているかっていうと……

―全然ですよね。

鈴木 そのあたりを支えるのはITや智恵や助け合いでしょう。財源がなかったら、効率化するところに智恵を絞る。それを実現するのにITは強力なツールです。それから政府だけを頼らずに、NGOのボランティアを組織したり、組合などの仕組みを使って互助組織をつくりながらやっていく、都市や町の設計や建物の設計もコミュニティの再構築を目指して取り組んでいく。本来ならオリンピック、パラリンピックの東京開催は、競技場単体の壮麗さよりも、都市機能の高齢者や身障者への対応を実装して提案する場であるべきですよね。高度成長期の若い国家の頃の東京オリンピック像にひっぱられすぎですよね。お金の使い方を間違えています。老人国家になる心構えが出来ていないということなんだろうと。競技場の屋根の有無というより、真夏の日差しの中で、高齢者や身障者が観戦できるような競技場なのかを問うべきでした。そこに移動するまでの手段もルート上のバリアフリーも徹底されているかも問うべきでした。要するに思想がないまま、建物単体のデザインとコストだけを見ている。

 それから個々の制度の見直しですね。たとえば、医療保険制度はどうか。みんなが医療保険に入れてハッピーなんですね。これを壊したくないっていうのもみんなの願いですよね。アメリカのようにはなりたくないと思っている。しかし、このあたりの負担と受益のバランスは崩れつつあります。残念ながら不利益変更の連続になるでしょう。そこは懐事情を勘案しながら、民意に問いかけて進めるほかありません。選挙の争点の一つになるかもしれませんね。耳に心地良いことを言った方が票をとれるのかもしれませんが、そうした大盤振る舞いが後の世代にツケを回してきた面もあるだけに、これからは騙されなくなるでしょう。

 そこにマイナンバー、医療等IDなどをうまく入れて効率化をはかることで、この不利益変更の幅を小さくしていかないとなりません。

 一方で、医療カルテやレセプトなどの医療データを集めて、いろいろ解析の対象にしていくことも重要になってきます。医療イノベーションの基礎になるデータです。人々の信頼と確かな便益のフィードバックの実感が鍵になります。

 プライバシーの権利をしっかり見ながら、生存権の問題にも応えていかなければなりません。生存権を具体的に支えているのが社会保障制度ですから。

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国内越境データ問題

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この記事の著者

小泉 真由子(編集部)(コイズミ マユコ)

情報セキュリティ専門誌編集を経て、2006年翔泳社に入社。エンタープライズITをテーマにイベント・ウェブコンテンツなどの企画制作を担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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