アクセンチュアがAIエージェントのトレンド発表/バイブコーディング、MCP、A2Aなどの影響を解説
アクセンチュア「Technology Vision 2025」レポート
アクセンチュアは6月4日、年次レポート「Technology Vision 2025」の発表説明会を開催し、AIエージェント時代における企業の戦略的アプローチを提示した。同社の山根圭輔氏が登壇し、AIエージェントとの適切な付き合い方から実装戦略まで詳しく解説した。

人間の主な役割は「意思決定」だけになる

山根氏は冒頭、AIエージェントの普及が企業で思うように進んでいない理由について「鍵となる要素の1つが『信頼』」と指摘した。人ではないものを信頼するには「それを深く知って理解することが必要」として、AIエージェントの本質を理解することの重要性を強調した。
これまでのコンピューターとの役割分担では、記憶・計算をコンピューターが、予測・意思決定を人間が担ってきた。しかし、AIの登場により予測領域もAIに委ねられるようになり、人間の主な役割は意思決定に移行している。
「予測のところがAIの差別化の重要なところなので、組み込まれたこのガイドラインや規定やルール、こういったものと相性が悪い」と山根氏は説明。AIエージェントに予測を委託するトランスフォーメーションには、単純な技術導入を超えた仕組みの変革が必要だと述べた。
4つのトレンドが示すAIエージェント時代の全貌
アクセンチュアは今回のレポートで、AIエージェントをどう理解し信頼していくかという観点から4つのトレンドを提示した。

トレンド1:バイナリービッグバン──バイブコーディング、MCPが開発の鍵に

「バイナリービッグバン」は、AIエージェントと人がタッグを組むことで生み出されるデータとプロセスが蓄積され、AIがさらに賢くなる正のフィードバックサイクルを指す。
特にソフトウェア業界では破壊的イノベーションが進行中だ。Googleではコードの25%以上がAIで生成され、プログラマーの92%が日常的にAIを活用している。一方で、この2年間でコンピュータープログラミングの25%の仕事が消滅し、2000年代のドットコムバブル時期と比較してエンジニアの雇用数が半分程度に減少している現実もある。
現在注目されるのが「バイブコーディング」と呼ばれる新しい開発手法だ。開発者がAIエージェントとジャズセッションのように協働し、感覚的な部分やアイデアに集中しながらコードを練り上げていく手法で、「一度このバイブコーディングをやってしまうと、もはや今までのやり方にはもう戻れない」と現場エンジニアが証言するほど生産性や品質が向上している。

技術的基盤としては、Anthropicの提唱したMCP(Model Context Protocol)がデファクトスタンダードとなり、AIエージェントが既存システムやデータにシームレスにアクセスできる環境が整った。これは「インターネット初期にHTTPのような標準ができて、ブラウザがあれば既存のデータにアクセスできるようになった状況に似ている」と山根氏は例える。
トレンド2:未来の顔──顧客接点戦略とエージェント連携

AIエージェントが顧客接点の主役になる時代において、企業は2つの戦略を両立させる必要がある。1つは独自のAIエージェントを磨き込むクローズドアプローチ、もう1つは他社AIエージェントとのエコシステムに参加するオープンアプローチだ。

「2000年代にあらゆる企業がポータルを作ったが、結果的に生き残ったのはごく一部のプラットフォーマーで、多くはそのエコシステムに参加する形になった」と山根氏は歴史を振り返り、AIエージェント時代でも同様の展開が予想されると指摘した。
GoogleのA2A(Agent-to-Agent)プロトコルなど、エージェント間連携の標準化も進んでおり、AIエージェント同士が自律的に情報交換を行うエコシステムの基盤が形成されつつある。
トレンド3:LLMが体を持つ時──ロボットとAIの融合

大規模言語モデル(LLM)とロボティクスの融合により、人間社会に溶け込むヒューマノイドロボットの実現が近づいている。状況変化の背景には、ハードウェア制御からソフトウェア制御、さらにAI主導制御への移行がある。
NVIDIAを中心とした取り組みでは、LLMの深い思考能力に加えて小脳的な反射機能を協調させるアプローチが注目される。また、千葉工業大学の研究では、仮想空間で何万世代ものシミュレーションを通じて、視覚センサーなしに手足の感覚だけで地形を理解して動くロボットの開発が進んでいる。
ただし、「機械によるプライベートのコラボレーションをどんどん加速していきながらも、そのデータ、プライバシーをどのように管理していくのか、こういうところの議論はまだまだこれから」と課題も指摘した。
トレンド4:新たな学習サイクル──AIに対する不信感をどう払拭するか

企業経営者の95%が今後3年間で従業員がよりイノベーションに関する仕事に取り組むことになると予想し、約70%が生成AIを含むリスキルが必要と考えている。一方で、「従業員の52%がAI利用を隠している」という調査結果もあり、経営層と現場の意識ギャップが浮き彫りになっている。
山根氏は「AIに対する不信感があって、業務で活用されない、データが蓄積されない、AIの精度が上がらない」という負の学習ループから抜け出し、正の学習ループを作ることの重要性を強調した。
アクセンチュアの実践事例

アクセンチュア自身も「PeerWorkerプロジェクト」を通じてAIエージェントとの共進化を実践している。まず生成AI活用プラットフォームを提供し、現在8,000以上のAIアプリが社員によって自発的に作成され、300~400のアプリが公開されている。
次にAIエージェントを全社員に配布する計画で、現在クローズドベータ版で試行中だ。さらに「Training as Code」という取り組みでは、トレーニングコンテンツ作成をAIと協働で行い、AIエージェントがコーチとして継続的な学習支援を提供する仕組みを構築している。
企業の課題解決に向けた実装戦略

山根氏は、AIエージェントとの共進化に必要な3つのポイントを提示した。
第1に、正のフィードバックでセキュアにデータが集まるデジタルツインの構築。第2に、AIエージェントと人、AI同士がコミュニケーションできる自己組織化フィールドの提供。第3に、AIエージェントと人の協働をサポートするコーチ機能の組織への組み込みだ。
明治安田生命保険の事例では、36,000人の営業職員にAIエージェントによるデジタル秘書を展開し、営業プロセス自体をAIエージェントとの協働で行う取り組みが実現しているという。
山根氏は講演の締めくくりで、AIエージェントとの適切な距離感について言及した。「人間の脳の中の世界シミュレーターとAIの世界シミュレーターは、一見同じようでも必要とするインプットや複雑さ、エネルギー消費量が圧倒的に違う」として、AIエージェントを人間と同一視することの危険性を指摘した。
「人と同じような言動を力技で実現した別物」であるAIエージェントとは、「うまく付き合っていくと何らかいいこともあるが、下手な付き合い方をすると悪いことが起こる」という意味で、「妖怪の伝説のような距離感」で接するのが適切だと独特の表現で注意を促した。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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