さくらインターネットは8月26日、生成AI向けクラウドサービス「高火力」の活用事例と今後の展望に関する報道関係者向けブリーフィングを実施し、高火力における戦略と活用事例を紹介した。
まずは、さくらインターネット 執行役員 霜田純氏が高火力における戦略を説明した。高火力は、高性能GPUを利用可能な生成AI向けクラウドサービス。同社はこれまでに、ベアメタル型GPUクラウドサービス「高火力 PHY」、コンテナ型GPUクラウドサービス「高火力 DOK」、NVIDIA Hopper GPUを採用したVM型GPUクラウドサービス「高火力 VRT」を発表しており、これを「3兄弟」と呼称する。

AI分野における事業環境の変化として霜田氏は「これまではAIの学習や開発におけるニーズが高かったが、想定を上回る速さで推論モデルのニーズが高まっている」と指摘。こうした市場の変化に対応するため、従来の学習・開発向けサービスに加え、推論用途に特化したAIプラットフォームを新たに構築しているとした。
霜田氏は、推論ニーズの増加が、結果として学習・開発を求める顧客のニーズを刺激し、両者が相互に作用しながら市場全体が拡大していくとの見解を示した。新しいプラットフォームは「同社のGPU資源を有効活用し、顧客の多様なユースケースに応えることを目的とする」として、同社のスーパーコンピューター「さくらONE」や高火力に加え、学習・開発から推論までをシームレスにサポートするパイプラインとして機能するものだと述べる。
また、販売体制も強化しているとし、製品開発を担う「作る」グループ、運用・サポートを担う「支える」グループ、そして顧客との接点を担う「売る」グループが密に連携することで顧客ごとの課題に合わせたソリューションを迅速に提供できる体制を構築しているという。加えて、従来の直販中心のモデルから、再販パートナー制度の確立にも注力し、販路の拡大を図るとした。

こうした戦略に沿う形で社内体制も再編。8月から「AI事業推進室」を新たに立ち上げ、これまで複数の事業部に分かれていたAI事業に関する機能を一つの部門に集約し、戦略・企画・開発・営業が一気通貫に連携できる体制を整えているという。

続いて、ユーザー企業としてティアフォーの大里章人氏が登壇し、高火力サービスの具体的な活用事例を紹介した。

ティアフォーは「自動運転の民主化」をビジョンに掲げ、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発する企業。大里氏は、自動運転の開発における課題として、都心部のような複雑で動的な環境下での正確な認知、判断、制御の難しさを挙げた。「これには、人の手で設計しきれない部分をAIで代替するアプローチが不可欠であり、そのAIモデルの開発には膨大な計算資源が求められる」と説明する。
同社は、データ収集からモデル学習、テスト、実運用に至るまで、自動運転システムの開発サイクル全体でAI技術を活用しているという。特に、実車でのデータ収集だけでは網羅しきれないシナリオを生成するシミュレーターや、個人情報保護のための匿名化といったバックエンドのプロセスにもAIを用いており、これらの開発には高性能GPUが欠かせないとした。

ティアフォーがさくらインターネットのサービスを評価する理由として、インフラ構築コストの大幅な低減と、スピーディな導入、そして手厚いサポートを挙げる。「特に、数千万円規模の最新GPUサーバーをサービスとして利用できる点は、スタートアップ企業にとって大きなメリット。また、障害発生時の迅速な対応や、今後の機能拡張に関する密な連携も、開発現場にとって有益だ」と述べた。加えて、国内のデータセンターを利用することで、地政学的リスクやセキュリティ面での懸念が軽減されることも評価できるポイントだとしている。
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