知財戦略時代のイノベーションにはビジネスモデルが要となる
―日本では、著作権保護の制約があり、検索ビジネスが立ち上がらなかったという事実があります。日本での検索エンジンは、サーバーを海外に置いて回避してきました。ここへきて、著作権保護法の見直しがようやくはかられ、修正案もほぼ現実的になってきたのですが、やはりここ数年のインターネットのビジネスを見る限り、日本の法的環境の制約は大きかったといえます。企業のIP(Intellectual Property:知的財産)戦略について、オープンビジネスイノベーションという観点からぜひお話をうかがえればと思います。
現在では、イノベーションを生むのは、技術だけではなくビジネスモデルです。イノベーティブなビジネスモデルをマネジメントすることが、戦略的なIPのマネジメントであるというのが私の主張です。
IPをマネジメントするといった場合、特許や商標などをどのように保護するかという考え方が一般的です。それは日本だけでなくほとんどの国でも同様です。特許とは、それを生み出した人に公開する対価として、利益を得る可能性を認めるという社会的な合意です。IPを管理するということは、従来は弁護士や特許事務所の仕事であり、企業の知的財産管理は、閉鎖的な仕事でした。
私が「オープンビジネスモデル」という考え方で伝えたいのは、IPを多様にマネジメントすることを通じて、イノベーションを促進するという新しい方法です。
IP戦略は、価値を創出するうえで重要です。そのオープン性と活用、保護を適正にコントロールすることが重要な戦略となります。
IPと市場拡大のエコシステム
1つの方法として、IPを贈与してしまうという考え方があります。標準化を促すために、IPを無償で提供してしまうのです。自分たちだけが使えるようにIPを保護するより、IPを公開することで、多くの人がその技術を利用することになります。たとえ競合企業がIPを用いたとしても、スタンダード化することのメリットは大きい。
かつて、ソニーはAIBOという非常にすぐれたペットロボットを製品化しました。非常に革新的な製品だったので、生産が終了したことは残念です。ある人物が、AIBOを音楽にあわせて踊らせたり、ワイヤレス機能を高めたりするためのソフトウェアのアップグレードを公開したところ、ソニーはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を侵害しているとして訴えました。ソニーのとったこのような行動は、AIBOの熱心なコミュニティの反発を招き、ソニーという企業の革新的な企業イメージを著しく傷つけたと思います。
ニンテンドーDSやPlayStation 3のようなビデオゲームのビジネス業界でも、ハードウェアのIPに対してはクローズです。ただPS3などでは、ソフトウェアの開発者コミュニティによるモディフィケーション(MOD)が盛んです。ニッチな企業の戦略として、PS3をさらにパワフルにしたり、エキサイティングにしたりするパワーユーザー向け製品が登場することで、ソフトの市場はますます拡大し、ゲームソフト市場の「エコシステム」が形成されるでしょう。マイクロソフトも、Xboxの開発者のカンファレンスや交流の場を通じて、さらに積極的に動きはじめています。