KDDI総合研究所は、同一の周波数帯を複数の5G事業者で共有する場合、各事業者へ使い勝手の良い周波数の割り当てを実現するダイナミックな周波数割り当て方式を開発した。また、開発した方式に量子コンピューティング技術を適用することで、より高速に割り当てパターンの算出ができることを世界で初めて実証したとしている。
図1は、今回開発した周波数割り当て方式の活用イメージ。共用する周波数を利用する事業者の利用予定申請を集約した情報を基に、周波数を各基地局へ細かな時間単位で割り当てることで、効率的な周波数資源の利用が可能になるという。しかし、基地局間での干渉を考慮しないで割り当てると、通信ができないエリアが広く生じる場合がある。
また、時間ごとに割り当てられた周波数が異なると、都度周波数の切り替えによる通信断が発生し、使い勝手がよくないとしている。そのためダイナミックな周波数割り当てでは、様々な種類の事業者ニーズに沿った割り当て方式が必要になるという。
今回の成果
KDDI総合研究所は、5G事業者にとって、より使い勝手の良い周波数割り当てを実現するため、「事業者基地局の需要帯域と同じ帯域が利用できる(需要応答)」「分割せず連続したチャネルが利用できる(周波数軸の連続性)」「同じチャネルが使い続けられる(時間軸の連続性)」「他の基地局と干渉量が抑えられる(相互干渉量)」という4つの指標を同時に高める割り当て方式を開発した。
しかし、最適な割当パターンを見つけるには、8基地局へ4チャネルを2タイムスロット分割り当てる計算でも、2の64乗(≒1800京)通りの候補が存在し、総当たり方式では1万年以上かかるとしている。そこで、開発した周波数割り当て方式の数理モデルを、量子アニーリングへ適用可能なイジングモデルに変換し、イジングモデルをGPUで高速に処理可能なイジングマシンである日立製作所のMomentum Annealing(モメンタムアニーリング)で実行したという。
図2は、周波数割り当て方式をイジングマシンで実行する流れを表した図。同研究所は、イジングマシンを利用するために、事業者ごとの需要に対して周波数を割り当てる基地局と時間を量子ビットと見立て、周波数割り当て方式における4つの指標などを表現するイジングモデルを開発。その結果、8基地局へ4チャネルを2タイムスロット分割り当てる問題において、既存手法と比べて4つの指標を平均2倍改善する解を72マイクロ秒(既存手法の約2000分の1)で算出できることを確認したとしている。
さらに、2の3000乗(≒1000兆の60乗)通りの候補が存在する100基地局へ15チャネルを2タイムスロット分割り当てる問題において、既存手法と比べ、4つの指標を平均1.3倍改善する解を約34秒(既存手法の約100分の1)で算出することに成功。4つの評価指標を同時に高めるダイナミックな周波数割り当て方式を開発し、開発した方式に量子コンピューティング技術を活用した実証試験は世界初だとしている。これにより、5G利用者の状況に応じて、速やかに5G事業者へ共用周波数を割り当てることが可能となり、5G端末上のアプリケーションをより快適に利用できることとなることが期待されるという。
KDDI総合研究所は、引き続きユーザのニーズに沿った周波数利用の検討を進めるとともに、社会課題の解決に向けて量子技術の応用に関する研究開発を推進していくとしている。
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