新しい発想を生むために、“自分の常識の外”に出る
ワークショップなどの場で、私が参加してくださった方によく言っていることの1つに、「新しい発想を生む障害になるのは何より自分たち自身の常識や思い込みです」というものがあります。“自分たちの常識の外”に出て考え始めないと、どうしてもアイデアは貧困でつまらないものになりがちです。特に解決すべき問題そのものが常識にとらわれたままだと、どんなに頑張って新しい発想をしようとしてもうまくいきません。ですから、新しい発想を生むためには、まず始めに問題自体をこれまでにない新しいものとして再定義することが大事です。
デザイン思考を使ったプロジェクトで、最初にエスノグラフィーを行うのもそのためです。自分たちとは異なる人たちの暮らしや仕事の現場を観察することで、生活の背後にある人びとの常識や思い込みを「共感」を通じて理解する。そのことで逆に、そこにないものを見て、そこで語られないものを聞きます。つまり、人びとの常識や思い込みによってその場から除外されているものは何かを、解釈を通じて見出すのです。
このような洞察により、自分たち自身も常識にとらわれない新しい問題定義の準備が整うということが、デザイン思考におけるエスノグラフィー活用の意味です。
ブレインストーミングやワークショップ形式のセッションの場で、新しい発想を生み出す場合も同じです。
そもそもグループワークを行う目的は、自分とは違う他人の意見に触れることです。自分が囚われている常識や思い込みに気づき、そこから抜け出すチャンスを見出すためです。ですから、他人の意見を使って“常識の外に出る”という意識を持たず、なんとなくその場に参加しているだけだと、なかなか思うように新しい発想にはたどり着けません。
たとえば、「うちでもブレインストーミングやワークショップ形式でのグループワークを取り入れてみた。しかし、これだ!というアイデアが、なかなか生まれてこない」というネガティブな声を聞くことがあります。それはもちろん、ブレインストーミングやワークショップという「方法自体」に、欠点があるからではありません。むしろ、ブレインストーミングやワークショップにおいて、参加者がうまく「常識の外に出て考えることを促す仕掛け」を組み入れられていないという、「グループワークという場を設計する際の問題」であることが多いです。
具体的には、いくつかの設計方法や仕掛けがあります。
- ユーザーをはじめとした利害関係の異なるステークホルダーをワークショップに巻き込む
- プロトタイピングやボディーストーミングなどの方法を用いて、頭だけで考える状態から抜け出させる
- ゲームストーミングの様々な方法を適宜用いて意図的に視点を変えられるようにする
など、参加者が「常識の外に出る」チャンスをいかに作ってあげるかが、ファシリテーターの役割になります。