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野中郁次郎氏のご逝去とDeepSeekショックについて思うこと──AI時代の知識創造理論の可能性

 今年1月25日、経営学者の野中郁次郎氏が亡くなられました。その数日後、IT業界では「DeepSeekショック」とも言えるニュースが駆け巡りました。世界的な経営学者の訃報と、中国発の生成AIがもたらした衝撃──この2つには直接的な関係はありません。しかし、人間が知識を生み出し、それを共有・発展させる方法について考えたとき、この2つの出来事が重なったことには象徴的な意味があるように思えます。野中氏が提唱した「知識創造理論」と、DeepSeekが示したAI技術の進化。その根底には、「人間と組織はどのように知識を創り出し、高めていくのか?」という共通する問いがあります。本稿では、このあいまいながらも確かに感じた共鳴について雑感を述べたいと思います。

野中氏の理論がテクノロジー業界に与えた影響

 個人的にお近づきになったわけではありませんが、野中氏には何度かインタビューや対談、セミナーへの登壇をお願いしたことがあります。特に印象深いのは、本媒体で最初にご登場いただいた江渡浩一郎さんによるインタビューです。

 この記事では、「SECIモデル」(セキモデル)とアジャイル開発手法「スクラム」の関係について対話から始まりました。野中氏の知識創造理論は、アメリカでジェフ・サザーランドによって発見され、「スクラム」というチーム開発手法へと応用されました。そして対話の中でさらに、「XP(Extreme Programming)」や建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱した「パターン・ランゲージ」へと話題が広がっていきました。

 野中氏が提唱したSECIモデルは、「個人が持つ暗黙知(経験や直感)を、組織全体で共有可能な形式知へ変換し、新たな知識を生み出すプロセス」を示したものです。このモデルでは、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」という4つのプロセスを循環させることで、組織全体の知識レベルを高めていきます。

SECIモデル

 野中氏の知識創造プロセスとのアジャイルとスクラムの関係については、以下の書籍があります。

 この「暗黙知から形式知へ」「形式知から新たな暗黙知へ」というサイクルは、人間社会における知識創造の基本的な流れですが、生成AI技術やDeepSeekのような最新AIモデルにも通じる部分があります。

DeepSeekとSECIモデルの類似性

 DeepSeekは中国発ということで、当初は地政学的リスクが指摘されました。しかし、それ以上に重要なのは、このAIがオープンソースとして公開であること、その開発の方法論が明らかにされたことで、多くの企業や研究機関がこの成果を受けられる点です。そして、その開発プロセスにも興味深い特徴があります。

 例えば、大規模なAIモデルから小規模なモデルへ圧縮し、効率的に学習内容を引き継ぐ「蒸留」(Distillation)という手法があります。この方法によって計算資源の限られた環境でも高度なAI技術を活用できるようになります。また、一つの巨大なモデルではなく、複数の専門分野ごとの小さなモデルを組み合わせることで高精度な結果を得る「MoE(混合エキスパートモデル)」というアプローチも採用されています。

 これらは純粋に工学的アプローチですが、その考え方にはSECIモデルとの共通点も見えてきます。「オープンソース」を共同化、「マルチモーダル性」を表出化、「MoE」を連結化、「蒸留」を内面化、に対応させるとしたら、牽強付会でしょうか?

 もちろん、生成AI研究者たちが野中氏の理論を参考にしたわけではありません。彼らは、人間の思考や推論を最適化した方法論としてこれらを採用しているのでしょう。それでも、この類似性には何か示唆的なものがあります。

AI時代にこそ参照されるべき野中氏の理論

 SECIモデルと生成AIとの関係について考えているうちに、興味深い記事を見つけました。以下の記事で著者の峯川氏は、SECIモデルが登場した当初、システムへの実装が難しかった理由について説明しています。そして現在では、生成AIのRAG(Retrieval-Augmented Generation)によって、個人の暗黙知を形式知へと変換することが可能になり、「共同化→表出化→連結化→内面化」のプロセスがこれまで以上に促進されつつあると指摘しています。

 これからAI技術が進化していく中で、人間と機械、それぞれが持つ「暗黙知」と「形式知」の関係性も変わっていくでしょう。野中氏は、生涯を通じて「実践知」の重要性を説いていました。それは単なる情報ではなく、「経験として体得された、生きた知識」です。この視点こそ、これから先、AI時代にも必要になるものだと思います。そして今後もし生成AI技術に課題や限界があるとすれば、それは「内面化」と「実践知」へのつながりなのかもしれません。

 AIの時代だからこそ、野中氏の理論から学ぶべきことは多いように思います。私自身も野中氏の著作を再読しながら、この問いについて考え続けたいと思います。野中氏のご冥福をお祈りします。

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この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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