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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

第7回 ベンダが勝手に機能を追加した!それでも費用を払うべき?

 前回、IT開発では一旦決めた機能を変更することも常識で、裁判所もこれについては ”不可避” であるとの見解を示しているといったお話をしましたが、今回お話しする機能の追加も、裁判所が ”普通のこと” と言うように日常茶飯事です。

ITには機能追加がつきもの

 そもそもITの素人であるユーザの担当者と業務の素人であるベンダの技術者が、絵に描いただけの新業務を想定して、まだ見ぬシステムに持たせるべき機能を定義しようというのが機能要件定義ですから、これを最初から不足なく定義するのはドラえもんでもいない限り至難の業でしょう。開発の現場では、どうしても「やっぱり、この機能もほしいなあ、「えっ?こういう画面を作ってくれるんじゃなかったの?困るよ。」 というエンドユーザの声を聞かざるを得ないのが現実です。

 要件定義も終わって、さあ設計だ、プログラミングだと走り出したいベンダの技術者や、あとはベンダに任せられるかな、と密かに休日の計画を練り始めるユーザ企業のシステム担当者からすると 、エンドユーザのこうした不満や要望は、“後出しじゃんけん” のようで納得いかないこともありますが、「その機能なしじゃあ、システム化の目的を果たさないよ。」 と言われれば、スケジュールや要員をやりくりしなおして、もう一度要件を考え直さなければなりません。いつまで経っても苦労が絶えませんが、悲しいかな、それがITというものです。

要件追加についての判例

 今回は、そんな要件の追加に係る判例をご紹介しようと思います。まずは事件の概要から見ていきましょう。この判決は当連載の第四回 「システムの要件定義とは」でもご紹介したのですが、今回は要件の追加と、それに基づく費用の算定について述べている部分について取り上げます。

【要件の追加に関する裁判の例】

 (東京地方裁判所 平成17年4月22日判決より抜粋・要約)

 あるシステム開発会社(以下 ベンダ)は書籍の管理・配送業者(以下 ユーザ)から書籍在庫管理システム(2325万円)の開発を受託し作業を開始したが、開発中にユーザの要望が増大し、当初182としていた機能数が414に増加した。

 この開発の契約には「作業着手後の機能追加,変更等により工数に大幅な変動が生じた場合は別途相談させていただきます。」との特約があり、ベンダはこれに基づいて機能追加作業を行ったが、結局開発を完遂しないまま撤退した。

 ベンダは開発費として当初分と追加分の5568万円を請求したが、ユーザは追加開発には正式に合意していなかったこと、ベンダが途中で撤退したことを理由に支払いを拒み訴訟となった。

 少し補足をすると、この機能追加に当たっては、ユーザが機能追加の要望を出してはいますが、正式な追加開発合意は行われていません。ユーザの主張は、正式な発注を行っていないのに勝手に作業し、ましてシステムは完成もしていないのに費用など払えないというものです。一方、ベンダの主張は、契約の特約に”別途ご相談”とある以上、要望があれば開発は行うし費用も頂くというものです。

次のページ
追加注文と評価される業務については合意があると見なされる

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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