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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

請負?準委任?曖昧な契約形態が引き起こす労働問題


 「偽装請負」という言葉があります。顧客側企業が受注側企業から労働者の提供を受け、本来なら、労働者が安全かつ健康的に作業を行えるように管理し、かつ労働者に必要な教育も施す必要があるところ、そうした義務から忌避する為に、形だけは検収要件を成果物とする請負契約を結び、都合よく労働者を使う形式です。もちろん、こうしたことは労働者保護の立場から見て、糾弾されるべきことで、実際に、こうしたことで非難にさらされた大手企業がいくつもあります。

 契約が請負でありながら、実質的には準委任契約であるとか、派遣契約であるといったケースや、逆に契約だけが準委任契約で、実質的には請負契約である、あるいは労働者に対して請負としての成果物の完成と準委任契約としての労働時間の順守の両方を求める契約は、古くからソフトウェア開発の現場で散見され、問題視もされてきました。今回は、そんな曖昧な契約形態がもたらした事件を取り上げたいと思います。事件そのものは、ベンダとユーザの間の費用の支払いを巡るものではありますが、筆者は、それ以上に労働管理の問題があると考えています。それについては後半で述べることにします。まずは、事件の概要から見てみましょう。

  (東京地方裁判所 平成27年6月25日判決より)

 ベンダとユーザは、システム開発の請負業務に関する基本契約を締結し、それに基づいて、美容サロン向けのPOSシステム(本件システム)の改修作業の個別契約が締結された。

 基本契約によれば、代金はユーザが本件システムを組み込んだ製品を販売した代金から配当することによって支払うこととされていたが、ユーザはシステムには不具合があると主張して代金を支払わず、ベンダがこの支払いを求めて訴訟となった。

 (補足)

 本件のユーザとは本来的な意味のエンドユーザではなく、ベンダの作ったシステムを自らのPOSシステムに組み込んで販売する業者で、代金はユーザが美容サロンに向けて販売した実績に基づいて払われる仕組みでした。なお、文中の個別契約とは、おおよそ以下のような内容でした。

 1. 本件委託内容は、本件製品の改修作業に関し、ユーザとベンダ協議の上1人月相当と合意した作業を、ユーザの指示に従って行うものとし、改修後の本件製品のソースコードを含む開発環境一式、改修箇所および改修方法を示すドキュメントおよび動作保障された実行形式プログラム一式を納品物とする。納品物に関する経過作成物はユーザの指示に従い随時、ユーザ指定のFTPサーバに格納するとともに、平成23年7月末日までに納品するものとする。

請負契約か、準委任契約か

 さて、ここまで読んだところで読者の皆さんの中にも違和感を覚えた方がいるのではないでしょうか。本件の基本契約は「請負業務に関する」とあります。しかし、請負契約でありながら個別契約の中には、「1人月相当と合意した作業を、ユーザの指示に従って行う」とあります。契約に詳しい方ならお分かりと思いますが、「請負契約」とは、あくまで出来上がった成果物 (プログラムなど) に対して対価が支払われるもので、それをベンダ側の誰が、どのように作ってもそれはベンダの責任下で行われることで、ユーザには関係ありません。なのに、個別契約では、対価の支払いは、双方が合意した量の ”作業” であり、しかもユーザの指示に従うことになっています。これだと準委任契約ということになってしまいます。

 もう一度、事件の概要を見てください。ユーザは、ベンダの作ったシステムに不具合があるから代金を支払わないと言っています。成果物が未完成だから払わないというのは、これが請負契約であるということが前提になっています。しかし、個別契約を見るとベンダがユーザに約束したのは約束した時間、ユーザの指示に従って作業することであり、成果物の完成、未完成は関係ありません。これは準委任契約の考え方です。

 この契約は、請負なのか準委任なのか、その判断が判決に直接影響してきそうです。結果はどうだったでしょうか。

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ユーザ優位の契約形態

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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