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ブロックチェーンは独自通貨を持つ企業国家を生み出す? GLOCOMの専門家にインタビュー

2017/05/31 07:00

 ブロックチェーンはビジネスや組織、あるいは社会をどう変革しうるのでしょうか。独自通貨の発行、信頼の源泉が組織からアルゴリズムへ移るなど、刺激的な話題が飛び交うブロックチェーンの技術とビジネスの両面の可能性について、『ブロックチェーン・エコノミクス』の著者・高木聡一郎さん(GLOCOM)にうかがいました。

ブロックチェーンは真に革新的なイノベーション

――『ブロックチェーン・エコノミクス』はBiz/Zineでの連載が元になったものですが、まだまだ発展段階にあるブロックチェーンをビジネス、技術の両面から解説した意欲的な本です。そもそもですが、高木さんの専門はどういう分野なのでしょうか。

高木:私は情報経済学が専門です。情報経済学はITが経済にどういう影響を与えるかを研究します。企業のビジネスモデルというミクロな観点もあれば、国全体の雇用や生産性がどうなるかというマクロな観点もあります。簡単に言えば、ITの発達によって我々の生活が豊かになるのか、それとも貧しくなるのかを研究する学問ですね。

 私自身はITによる組織の変化を研究してきました。2000年代前半に活発な議論が起こったオフショア・アウトソーシングもその一つです。これはたとえばソフトウェア開発において、従来は社内で抱えていたコールセンターなどを海外に移転することです。クラウドコンピューティングもそうです。これも企業の中にあったインフラ設備を外部で調達することをいいます。

 また、クラウドソーシングも関心事です。これは個人が経済主体になることで、企業に属さなくても様々な主体と連携しながら仕事ができるようになりました。

 つまり、ITの発展と普及によって経済活動を担う主体がどんどん小さくなり、各々が連携しながら一つの業務を行うことができるようになってきています。種々の取引コストが下がったことが大きな要因だと考えられますね。

 シェアリングエコノミーもそうですが、次々に企業、組織が分散型になっていく面があります。私としては、そういう中で我々の生活がどうなっていくのかに大きな関心があるんですね。

 さらに近年登場したのがブロックチェーンです。これは私の研究のコンテクストにぴったり当てはまります。ブロックチェーンを利用すれば、権威ある大企業や中央銀行でなくても通貨を発行・運用できてしまうんですよ。もちろん通貨だけでなく、業務もより個人主体になっていく可能性があります。そんな中で、誰が何を担い、人と人はどんな関係で仕事をしていくのか。こうした世の中の変化はとてもおもしろいテーマだと感じています。

 同時期にAIやIoTも盛り上がってきました。ディープラーニングはたしかに革新的ですが、組織という観点で見るとブロックチェーンほどのインパクトはありません。IoTも基本的にはコンピューターとネットワークの発達にともなうもので、従来の仕組みの延長線上にあるといえます。

 それらに比べて、ブロックチェーンは大小問わず組織に変革をもたらしうる、真に革新的なイノベーションと言えるのではないでしょうか。

高木聡一郎さん
高木聡一郎さん:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 研究部長/准教授/主幹研究員

ブロックチェーンでビジネスするなら

――高木さんご自身は、ビジネスのあり方が従来のような組織・中央集権型ではなく個人主体・分散型になっていくことをどう捉えられていますか?

高木:大きなトレンドとしては、たしかに中央集権型ではなく分散型に、つまり経済主体がより小さくなっています。ブロックチェーンもそれを後押しする技術です。ただし、完全な分散型にはならないでしょう。というのは、なぜ組織が存在するかを考えるとおのずとわかります。誰かがリーダーシップを取って組織運営をしないと、イノベーションは起こせないんです。分散型では個々ばらばらですから、一人でやれることには限界があります。

 世の中を変えるような発明をクラウドソーシングでできるかというと、肯定する人は少ないでしょう。情熱の共有や同じ釜の飯を食うこともイノベーションを起こすためには必要です。そういう意味で、組織がなくなるとは一概には言えません。

――とはいえ分散型になっていくトレンドに、企業はどう向き合えばいいのでしょうか。

高木:経営学の教科書的には、自分たちのコアコンピタンスを突き詰めていくことが必要ですね。ただ、プラットフォーム経済が大きな流れを生んでいます。情報は簡単に複製でき、一気に多くの人にリーチできます。いかに効率よくたくさんのユーザーを獲得するかが重要になっているので、内部のリソースを成長させるより外部のリソースを活用するほうがいいとも言われています。

 もし分散型、それもブロックチェーンを用いたビジネスに取り組もうと考えるなら、これまでのビジネスモデルの考え方からは離れる必要があるでしょう。今ブロックチェーンでビジネスをしている企業は自律分散型のサービスを無料で提供しています。どうやって儲けるのかが少しややこしいんです。

 そのサービスだけで使用される通貨があり、サービスの価値が高まるにつれて通貨の価値も高まるので、たとえば円に対して値上がりしていきます。初期の開発者はより多くの通貨を手に入れることができるので、値上がりしたときに儲かるわけです。

 これは今までとかなり異なるビジネスモデルで、事業そのものでは儲かりません。企業は事業の開発者であり投資家でもあるんです。あるサービスを作って、ユーザー数に利用料や手数料をかけ合わせてこれくらい儲かる、という単純なモデルではありません。ものすごく間接的に収益を上げなくてはいけないんです。

※一例としてICO(Initial Coin Offering)がある。サービス立ち上げ時にコインを売り出しで資金を調達する方法である。また、サービスの初期段階で開発者が多くのコインを保有しておき、後でサービスの普及とともにコインが値上がりすることによって、投資を回収することも考えられる。

情報の信頼性を組織ではなくアルゴリズムが担保

――現状に慣れていると想像することすら難しいビジネスになりそうですね。では、改めてブロックチェーンがどういうものなのか、教えていただけますか?

高木:実は定義が難しく、技術的に定義するだけでもいろいろとありえます。私としては、ユーザー目線でブロックチェーンができることに着目し、「インターネット上で価値を交換するためのインフラ技術」と考えています。

 従来のインターネットは情報を交換できますが、価値の交換はAmazonや楽天、Appleなどプラットフォームの介在が不可欠でした。ブロックチェーンが可能にしたのは、誰でも自由に価値を移転することです。これが最も新しい特徴ですね。AさんからBさんに価値が移転されたという関係性、AさんやBさんと資産の関係性をネットワーク上に記帳できるようになります。

 こういう仕組みがインフラとして張り巡らされたときに何ができるのか、というのは次のステージの話で、目下研究が行われています。ちなみに、ブロックチェーンはインターネットを土台とする技術なので、インターネットがないところにブロックチェーンは成立しません。

ブロックチェーンとは何か
ブロックチェーンとは何か

――今後考えられる最も劇的な変化は何でしょうか。

高木:これまで情報の信頼性を守ってきたのは企業や組織です。ネットショップは運営会社が商品の情報を責任を持って間違いなく登録していると保証することで成り立っています。ブロックチェーンを用いると、その枠組みが必要なくなります。情報を登録する際の確認は必要ですが、いったん登録された情報の信頼性を組織に依存させず、アルゴリズムに担保させることができるようになるんです。

※ブロックチェーンでは価値交換・取引の履歴が多くのコンピューター間で完全に記録され誰でも参照でき、かつ改竄が困難なため、それによって信頼性が保証される。

 階層的な指揮命令系統で保持してきた信頼性、ブランド力で守ってきた信頼性が不要になる。それがどこまで進むかわかりませんが、逆にそうならないとブロックチェーンを使う意味、メリットがないとも言えますね。これまでどおり組織として情報の信頼性を守っているという価値を訴求するのであれば、ブロックチェーンを用いる必要はありません

信頼できる情報を多数のステークホルダーが共有するビジネス

――ビックカメラがビットコインでの決済に対応するというニュースがありました。決済にはビットコインを持っている必要があると思いますが、具体的にどういう仕組みになるのでしょうか。

高木:ビットコインはマイニングで手に入れるほかに、既存通貨で購入することもできます。今回の取り組みでは、円の値段をベースにして、ビットコインに換算して支払うことになると思います。だとすれば円で充分に思えますが、投機目的も含めて以前からビットコインを持っていて、使いたい方がいるかもしれません。

 ただ、ユーザーがビットコインは今後も円に対して値上がりしていくと思うのであれば、今使うのは得策ではありません。しかも、国がインフレを進めていくと宣言しているので、そうなると円の相対的な価格は下がっていきます。ですから、むしろ今のうちに円を使ったほうがいいとも言えます。その判断は難しいところですね。

――ビックカメラを一例として挙げましたが、ブロックチェーンはどういう企業や業界が注目しておくべきだとお考えですか?

高木:基本的にはあらゆる業界に関係があると思います。ブロックチェーンを使うメリットが生まれるビジネスは、たくさんのステークホルダーがいて、信頼できる情報を全員が共有する必要のあるものです。

 たとえば、サプライチェーンで利用するのはいいかもしれません。商品の製造から販売まで、メーカー、商社、輸出先、運送会社、保険会社、小売店など、様々なステークホルダーがいます。荷物を今誰が持っていて、誰がどれくらいお金を払っているのかという情報は全員が確認しないといけないので、ブロックチェーンのメリットを享受できるでしょう。

 あるいは、スウェーデンでは土地の売買においてブロックチェーンのテストをしています。ステークホルダーとしては売り主と買い主、不動産業者、銀行、行政がいて、物件が誰の所有物でどこまで支払いが終わっているのか管理・確認する必要があります。

 信頼できる情報を多くのステークホルダーが共有することが必要な企業、業界は数多いので、こういう業界・業種と特定するのは難しいですね。


著者プロフィール

  • 渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

     翔泳社マーケティング広報課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。 Twitter@tiktakbeam

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