書籍『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著・日経BP社刊)のヒットで、スタートアップの経営手法が話題となっている。本インタビューでは、その手法の大本の考え方となっている書籍『アントレプレナーの教科書』(スティーブ・ブランク著・当社刊)の中核理論「顧客開発モデル」に関して、著者の弟子にして訳者の堤孝志氏と飯野将人氏に、顧客開発モデルの基本や、ポイントとなる部分を丁寧に解説頂いた。書籍では語られていない部分や、日本での事例も紹介頂き、今後当社より刊行予定のスティーブ・ブランク氏の最新邦訳書『スタートアップ・マニュアル』に関しては、実践に役立つワークショップ手法についても説明頂いた。

「リーンスタートアップ」、「顧客開発モデル」などの起業家手法が、話題となっています。そして、ベンチャー企業だけではなく、大手企業の新規事業開発の場面でも、これらの起業家手法が使われ始めています。 翔泳社発行「ビズジェネ」では、WEBサイトの公開を記念して、新規事業開発、ビジネススタートアップのバイブル『アントレプレナーの教科書』(スティーブ・ブランク著・堤孝志、他訳)のダイジェスト版(PDFデータ)を、アンケートにお答え頂いた方に漏れ無く、プレゼント致します。
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スタートアップとは?「顧客開発モデル」での定義

— 「顧客開発モデル」に関しては既に色々なところでお話をされているかと思いますが、ビジネスパーソンの間ではまだまだ認知度は低いと思います。簡単にご説明を頂けますか。
堤氏:「顧客開発モデル」の具体的な説明の前に、まず、前提となるいくつかの事柄についてご説明致します。
「顧客開発モデル」はスタートアップのためのマネジメント手法です。スタートアップは大きく分けて2種類あります。どちらともゼロからビジネスを立ち上げる状況を指しますが、1つは会社をゼロから起業して作るベンチャー、もう1つは既存企業における新規事業の立ち上げ、という2種類を想定しています。どちらも、新しい製品やサービスを新たにビジネスにし、拡大させようとするものです。
その際の一番多い失敗パターンというのが、売れると思って作ったものが結局想定していたほどニーズがなく、最終的に失敗してしまうという状況です。新規に製品やサービスを作るのには、お金も含めた、ヒトやモノなどの多くのリソースを必要とします。想定したように売れず、リソースも尽き、行き詰り、新規事業やベンチャーが失敗に終わる。これが、大多数の典型的な失敗パターンと言えるでしょう。
「顧客開発モデル」は、このような大多数のスタートアップが陥る典型的な失敗パターンを避けるために考案されました。やみくもに多くのリソースを掛けて製品を生産・販売する前に、その前段の研究・開発段階で、そもそもニーズがあるのか、どうやって儲けるのか、どうやって顧客にリーチするのか、などについてあまり予算を掛けずに、初期段階では製品さえ作らずに、確認していく。その上で、売れる、ビジネスモデルが機能すると分かってから、初めて大きくリソースをつぎ込んでいく。このようなスタートアップ経営の方法論が、「顧客開発モデル」です。

飯野氏:「顧客開発モデル」をビジネスパーソンに説明するときに、「顧客って開発するものなの?」という素朴な疑問があり、よくそういう疑問を投げかけられます。「販路開拓」などと、勘違いされてしまう人も結構いらっしゃいますが、違います。「顧客開発」とはビジネスの現場にすでに根付いている「製品開発」という言葉と対比させる意味で用いています。本当は同じコンセプトではありませんが、どうやってコンセプトを技術的に実現するのかという製品の研究開発/製品開発だけでなく、ニーズやその発生メカニズムがあるのかどうか顧客の研究開発/顧客開発が必要だというのが、その名前の由来です。
つまり、やみくもに製品を開発しても誰かが口をあけて待っています、という発想をやめて、製品を買ってくれる顧客が先に開発されてないと、こっちで作ったものを食べてくれる人がいないところに一生懸命モノ投げることになりますよ、ということです。顧客に望まれないものを一生懸命磨きあげて作る愚を犯さないための手法、それが顧客開発モデルなのです。
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Field Research and Design(フィールドリサーチ アンド デザイン)
2011年結成。ほぼデザイナー以外から成るデザインユニット。人間工学、ユーザーエクスペリエンスから社会人類学、薬学、デジタルマーケティングなど専門の異なる多様なメンバーが参加している。ブログ「Open Field Notes」を拠点に、小ネタから論考、ビジネスからアカデミックまで、デザインをキーワードに、人...
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