「決算書がわからない社員はいらない」の本当の意味とは?
私の本ではありませんが、こんなタイトルの書籍が売れているようです。タイトルなので、少し大げさな言い方になっていますが、その本質を、私の連載の趣旨からいえば、「計数感覚のない人は、ビジネスモデルをまとめられない」ということです。連載の第1回では、「計数感覚とは、経営について数字を関連付けて考えられる能力」と定義し、ビジネスモデルを考えるために、計数感覚が重要であると説いてきました。
実際の経営者の発言ですが、「わが社は、資産と収益のバランスがとれていない」と社員の前で演説しました。この発言の意味をすぐに理解できる人は計数感覚がありますが、決算書など会社数字に弱い人はあまり理解できない発言ではないでしょうか。
この発言は、経営分析の視点から「2つの理解」が可能になります。収益を利益と理解すれば、収益性の代表的な指標であるROA(=利益÷資産)をイメージできます。すなわち、「資産に対して利益が少ない」と言っているのです。しかし、収益を売上高と理解すれば、資産回転率(=売上高÷資産)をイメージできます。「資産に対して売上高が少ない」という意味になります。
ROAを高めるための戦略は、図1のように「1.高付加価値戦略をめざすのか、2.低価格シェアアップ戦略をめざすのか」という2つの方向が考えられます。この点は第3回で説明した部分です。資産回転率を高めることを言っているのなら、低価格シェアアップ戦略を今後も重視する方向性を示し、高付加価値戦略は目指さないことになります。この辺りを経営者はわかりやすく説明する必要があり、そうでなければ説明を聞いた社員は、間違った解釈をしてしまう恐れがあります。
そもそもこの説明自体がむずかしいと感じる人は、ビジネスモデルの議論でも限界があることを意味しますから、経営者への質問や意見を言えないでしょう。こんな時に、「決算書がわからない社員はいらない」と言われてしまうでしょう。私が企業研修を依頼されるケースでは、会議などで経営者の会社数字に関連する話を理解できない社員がいたことが、キッカケになるケースが意外と多いのです(よく人事の方が、小声で教えてくれます)。