第1回から第16回(前回)までの連載を通じて、新規事業計画(ビジネスモデル)に役立つ「経営分析・管理会計」の考え方、活かし方を紹介してきました。どのようなビジネスモデルを考えても、アイディアを数字に落とし込めなければ、計画の最終判断はできません。資金提供者などの第三者にきちんと説明できないだけでなく、自分自身も納得できないでしょう。連載の総まとめとして、16回の連載で何を伝え、何を理解いただきたかったかを、整理してみたいと思います。
「決算書がわからない社員はいらない」の本当の意味とは?
私の本ではありませんが、こんなタイトルの書籍が売れているようです。タイトルなので、少し大げさな言い方になっていますが、その本質を、私の連載の趣旨からいえば、「計数感覚のない人は、ビジネスモデルをまとめられない」ということです。連載の第1回では、「計数感覚とは、経営について数字を関連付けて考えられる能力」と定義し、ビジネスモデルを考えるために、計数感覚が重要であると説いてきました。
実際の経営者の発言ですが、「わが社は、資産と収益のバランスがとれていない」と社員の前で演説しました。この発言の意味をすぐに理解できる人は計数感覚がありますが、決算書など会社数字に弱い人はあまり理解できない発言ではないでしょうか。
この発言は、経営分析の視点から「2つの理解」が可能になります。収益を利益と理解すれば、収益性の代表的な指標であるROA(=利益÷資産)をイメージできます。すなわち、「資産に対して利益が少ない」と言っているのです。しかし、収益を売上高と理解すれば、資産回転率(=売上高÷資産)をイメージできます。「資産に対して売上高が少ない」という意味になります。

ROAを高めるための戦略は、図1のように「1.高付加価値戦略をめざすのか、2.低価格シェアアップ戦略をめざすのか」という2つの方向が考えられます。この点は第3回で説明した部分です。資産回転率を高めることを言っているのなら、低価格シェアアップ戦略を今後も重視する方向性を示し、高付加価値戦略は目指さないことになります。この辺りを経営者はわかりやすく説明する必要があり、そうでなければ説明を聞いた社員は、間違った解釈をしてしまう恐れがあります。
そもそもこの説明自体がむずかしいと感じる人は、ビジネスモデルの議論でも限界があることを意味しますから、経営者への質問や意見を言えないでしょう。こんな時に、「決算書がわからない社員はいらない」と言われてしまうでしょう。私が企業研修を依頼されるケースでは、会議などで経営者の会社数字に関連する話を理解できない社員がいたことが、キッカケになるケースが意外と多いのです(よく人事の方が、小声で教えてくれます)。
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千賀 秀信(センガ ヒデノブ)
公認会計士、税理士専門の情報処理サービス業・株式会社TKC(東証1部)で、財務会計、経営管理などのシステム開発、営業、広報、教育などを担当。18年間勤務後、1997年にマネジメント能力開発研究所を設立し、企業経営と計数を結びつけた独自のマネジメント能力開発プログラムを構築。「わかりやすさと具体性」という点で、多くの企業担当者や受講生からよい評価を受けている。研修、コンサルティング、執筆などで活躍中。日本能率協...
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