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ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦

動き出した日本の大企業、鍵を握るのは組織の枠に収まらない「半沢直樹」達の活用(後編)

 「動きが遅い」と思われがちな日本の大企業が、モバイルやビッグデータ、クラウドなどを活用し、「いかにして動き出したのか?」「いかにして組織の壁を超えたのか?」をテーマに、日本企業の「リアル」に迫った『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』。同書を先月7月に上梓したばかりのITビジネスアナリストの大元隆志氏に、第四章(「新たな価値」を生み出すために必要な組織)の内容の一部を特別に寄稿いただきました。トヨタ、ソフトバンク、日テレ、凸版、良品計画、CCC、Yahoo!といった業界を代表する日本企業の取材を通して見えてきた、「新たな価値」を生み出すために必要な組織のあり方とは?(前編はこちら)

 前回は、スマートデバイスやソーシャルメディア等の「4+1の力」が登場したことで、企業を取り巻く外部要因と内部要因が大きく変化していることを解説しました。今回はこれらのテクノロジーを企業の中で活用するために、重要な視点、これらの力を活用できる組織とは、一体どういったものなのかという点について解説します。なお、ここで解説する見解は日本テレビ、凸版印刷等のボトムアップで企業に変革をもたらすことに成功した企業へのインタビューを通して導き出したものです。

 「4+1の力」(クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータ+モノのインターネット)は単純に技術だけを採用しても機能しません。社内ソーシャルメディアの仕組みを導入したとしても、誰もつぶやかなければ活かすことはできません。スマートデバイスもワークスタイルの変革のためにiPadを導入したところで、持ち歩くだけでは何も変わらないのです。

 これらの技術を活用するために「フラットな組織」の必要性を説く人が多いようです。少し簡単に組織構造論の変化を見てみましょう。

ピラミッド、フラット、ハイブリッド型組織

 トップがいて中間管理職が部門を束ね、一般職員がいる。日本のみならず世界の多くの国で採用されている「ピラミッド型」の組織構造です。この構造は既存の企業活動には有効に機能します。現場が既存の顧客基盤から来期の予算をヒアリングし、その情報を収集して、トップが来期経営方針を定める。トップの考えた組織内の規則や手続きが徹底され、軌道にのった企業では理に適った無駄のない経営です。日本では戦後から高度経済成長期にかけてピラミッド型組織が定着しました。

 1980~90年代にかけて大量消費の時代が終焉に向かうと、ピラミッド型組織の課題が露呈するようになりました。少量多品種生産の時代に入り、顧客ニーズの高度化、多様化が始まると、顧客のニーズに合わせて組織も細分化した方が良いだろうとの考えが主流になりフラット型組織への移行が声高に叫ばれるようになりました。しかし、フラット型組織にも課題があります。フラットになった組織には会社の管理機能が弱くなるなどの課題が指摘されるようになりました。

 そこで、ピラミッド型、フラット型の両方を取り入れた「ハイブリッド(マトリックス)型組織」の必要性も聞こえるようになりました。このように「企業の器」がどうあるべきかという議論は絶えることがありません。  

これからの時代のハイブリッド型組織とは

 「企業の器」の議論については、ピラミッド型、フラット型を取り入れたハイブリッド型組織が一つの解だと思います。しかし、将来予測が難しい現代において企業がサステナビリティを求めるならば、これからの企業には「企業の器」だけではない異なるベクトルのハイブリッドが求められるでしょう。

既存ビジネスと新規ビジネス開拓をこなす「ハイブリッド経営」  

 組織がどのような「器」であれ、利益を追求するために組織構造は、より収益を上げやすいように最適化されていきます。創業期にはとにかく収益を上げるために新規案件発掘に注力します。運よく受注した案件が軌道に乗り事業の柱へと成長していくと、その柱をより低コストで利益を獲得しやすい仕組みを作り出します。企業は慈善事業ではないので「利益」を上げなければ倒産します。かといって新規案件を獲得することは簡単なことではありません。  

 そうすると、「目先の利益」を獲得するには「柱」として育った既存のビジネスを維持することに注力した方が良いといった考えに陥りやすくなります。しばらくはその状態で良いのですが、それが長く続くと、現状に満足のいく水準、あるいはそれを超える水準を得たことで、あえて現在よりも優れた戦略や方法を探さなくなる状態に陥ります。この中長期的なイノベーションが停滞してしまっている状態を経営学では「コンピテンシートラップ」と呼びます。  

 インターネットの重力が弱く、変化のゆるやかな時代には「コンピテンシートラップ」に陥っても、対策を練る時間はあったでしょう。しかし、今は変化の激しい時代です。既存の企業がコンピテンシートラップに陥っている間に、ビジネスモデルを塗り替えようと虎視眈々と狙うインターネットの巨人達が存在します。

 例えば、LINEは2011年4月末に開発を開始し、2011年6月23日にリリースされました。当初メッセージングアプリとして提供されたLINEですが、リリースから四ヶ月後にスタンプ機能と音声通話機能が追加され、12月には1000万ダウンロードに到達しています。開発開始から1000万ダウンロードにかかった時間はわずか8ヶ月です。

 LINEの急速な普及に通信キャリアが立ちすくんでいる間に、キャリアメールの存在感は急速に衰えています。私のもとに届くキャリアメールはもはやスパムメールしか届きません。一年という期間の中に起きる変化はより大きくなっています。「コンピテンシートラップ」に陥れば競合他社に市場を奪われるリスクが高まるということです。

 「コンピテンシートラップ」に陥らず、既存ビジネスを成長させつつ、新規ビジネスも成功させる、そんな「ハイブリッド経営」が求められています。

最も世間の変化を早く感じ取れる現場を「センサー」として活用する

 「コンピテンシートラップ」陥ることを回避する方法の一つに、現場の声に耳を傾ける「文化」を育てるということがあります。

 "爆速"を掲げ、スマートフォン時代の「圧倒的なポータルサイト」を目指すヤフーの人事本部 組織開発室室長 吉田殻氏は、これからの組織のあるべき姿をこう語ります。

“(ヤフージャパンは)アメーバのような自立した組織を目指しています。世の中の変化の速度は速くなっていますから、組織の中でその変化を即座にキャッチアップできる部位というのは、現場です。現場に近い人間により裁量を持たせ、各自の判断で変化に対応できる組織を目指しています。”

 自分たちの手元に眠る「現場の声」こそ、世の中の動きを知る「センサー」と言えるのではないでしょうか。

 ガートナーは、「Nexus of Forces(力の結節)」の構成要素として「データ」ではなく「インフォメーション」を加えました。現場から上げられる報告の一つ一つはデジタル化された「データ」ではないかもしれませんが、「インフォメーション」であることは事実です。

 ビッグデータを活用しようとグーグルやアマゾンの例を参考にしようとしても、膨大なデータを活用する前に、その元となるデータを集めなければなりません。富士の山頂を目指してようやく静岡の駅に辿り着いたという段階の企業が大半なのではないでしょうか。ソーシャルメディアから世の中の声を拾うことも大切です。しかし、企業の中には自社の課題と、顧客の声をよく知る「現場の声」という宝の山が、組織の中には眠っています。

 千里の道も一歩から。富士の頂は遠いですがまずは、自分たちの手元に眠る「現場の声」を世の中の動きを知る「センサー」だと思って、活用できる組織になることを考えてみてはいかがでしょうか。

 インターネットの重力が強まりつつある現在、ピラミッド構造の状況判断に頼っていては、例えどんな技術を導入したとしても、意思決定から実行に移されるより前に時代は変わってしまうのです。

 変化の激しい時代において「組織のITに俊敏性」を求める声は高まっています。ITの技術でIT基盤に俊敏性を持たすことは可能です。それを活かすには「文化」も大切です。

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ボトムアップで“組織を動かす”ステップ

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この記事の著者

大元 隆志(おおもと たかし)

ITビジネスアナリスト/顧客視点アドバイザー 通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。異なるレイヤーの経験を活かし、 技術者、経営層、顧客の3つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。講談社 現代ビジネス、翔泳社EnterpriseZine、ITmediaマーケティング等IT系メディアで多くの記事を執筆。所有資格:米国PMI認定 PMP、MCPC認定シニアモバイルシステムコンサル...

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