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東急ハンズ長谷川流 IT戦略思考法

クラウド利用を通じて最新の技術や発想に触れる―東急ハンズ長谷川秀樹氏に訊く(第9回) 

 企業システムを支えるITインフラとして普及期にはいった(パブリック)クラウド。「SaaS(Software as a Service)」も充実し、企業が求める機能を網羅しつつあるが、日本では限定的な利用にとどめる企業が少なくない。そんな中、東急ハンズはいち早くあらゆるクラウドを選択し、あらゆるシステムをクラウド上に統合しようとしている。その責任者である長谷川氏に、企業におけるクラウド利用についてうかがった。(前回の記事はこちら)

震災をきっかけに基幹システムのクラウド移行を検討

――第3回でも紹介していますが、2008年にGoogle Appsにメール機能を移行していますね。その後、2011年からAWS導入検討を開始し、多くの基幹システムを移行しています。

株式会社東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長 ハンズラボ株式会社 代表取締役社長 長谷川秀樹氏

▲長谷川 秀樹氏 
株式会社東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長
ハンズラボ株式会社 代表取締役社長

 クラウドを意識し始めたのは、2008年ころからでしょうか。AWSの存在は知っていましたが、当時のAWSのメモリは確か8~16GBしかなかったんですよね。うちもユニケージによる自社開発をはじめたばかりで、メモリを大量に増やして速度を実験していた頃だったので、そちらに気を取られていたんです。また、ユニケージはOSから近いところで動くから早いわけで、ミドルウェアが何階層にもなる仮想化は、むしろ遅くなるんじゃないかと。そんなふうに考えていました。

 その後、メモリ増設テストが落ち着いて、新たなITインフラの可能性としてクラウドを検証し始めていた頃、2011年3月に東日本大震災が起きました。BCP(Business Continuity Plan)への問題意識が高まり、データセンターの冗長化が簡単にできるクラウドが解決法として浮上してきたわけです。ただし、震災はあくまで検討・導入のきっかけであり、理由ではありません。

 もともとクラウドを検討し始めた理由は、出店や事業拡張に伴うシステム拡張に柔軟に対応できること(=Pliability)、そして自社開発によるアプリおよびインフラ構築の自由度が高く、スピーディに実現できるところ(=Speedy)にありました。クラウドならいつでも増減可能ですし、ダメならすぐにやめることだってできる。そして自分たちでコントロールできる範囲も広がって、結果、最速化できるわけです。

出所:東急ハンズラボ

 そんなことを考えていた時、あるカンファレンスで久々にAWSの小島英揮さんに会って「あっ、そういえば、そろそろAWSいいかもな」と。その後、AWSソリューションアーキテクトの松尾さんに会って要件とのすり合わせができ、さらにAWSパートナーのサーバーワークスに依頼してAWSの研修をしていただきました。そこで、ほぼ自分たちでできる感触を得て、現在に至ります。

 こんな話をすると、行き当たりばったりに見えてしまうかもしれませんね(笑)。いやいや、いつかはクラウドに置き換わるだろう、それは時間軸でいえばいつになるのだろうと、前々からは思っていましたから。端的に言えば、クラウドへの移行は、時代の波として「当然」のこと。いわばマニュアル車がオートマ車に切り替わるようなものです。

 各企業でバラバラにインフラを整え、それぞれにシステムを組むよりも、インフラを共有し、最新の技術を集約させて共有するクラウドの方が効率的であるのは明らかですから。たぶん、近い将来「アクセス急増で焦ったよねえ」「ロードバランサーで分散させたりさ」なんて、なつかし話になるのは間違いないですね。クラウドが吸収してくれる部分が多くなっていくはずです。

 ただ、いつになれば技術的、または自社のタイミングとして「Ready」になるかわからない。だから常に意識し続けていて、きっかけを探していたんでしょうね。それで、社内的には東日本大震災を起点にしたBCPが導入を説得する理由になったし、私自身も直接AWSの小島さんと話をしたことで背中を押されたんだと思います。

クラウドを選ぶ会社と選ばない会社の違いとは

――東急ハンズでは2011年から着々と基幹システムをクラウドに移行しつつあるわけですが、意外と日本企業ではクラウド利用が進んでいないと言われています。

 それはそうかなとは思ってました。東急ハンズでも2008年にGoogle Appsにメールシステムを移行する際には大騒ぎでしたから。「そんな外国のサーバーに我が社の大切なメールを置いていいものか」とか、そんな感覚で反対する人も少なくなかったですからね。他にもSLAはどうなっているのか、セキュリティが不安、値上げする可能性はないのか、いろいろいわれました。でも、既存のパッケージも似たような問題はあるわけですし、電話やネットワークと同じインフラじゃないですか。それについても同じ不安はあるわけですよね。だから半ば押し通す形で導入を決めたのですが、ほとんど問題もなく、むしろ使い勝手もパフォーマンスもいいので、いまや何も言われなくなりました。でも、「押し通すこと」ができなければ、いつまでもそのままです。

 クラウドを使うか使わないか。それはもう企業の考え方次第でしょう。あまり企業規模とか業種とか、関係ない気がします。実際、はじめはネットベンチャーばかりが目立っていましたが、今は様々な業種・業態に広がっています。規模も様々。特徴的なのは、業績がいい会社が多いらしいんですよね。クラウドを使っているから業績が上がるというのではなくて、クラウドのような新しい技術に挑戦する風土があるから、業績にも結びついているんじゃないかと想像しています。

――技術的、機能的に足りないというよりも、心理的な障壁が大きいというわけですね。そこを打破してクラウド利用を一歩進めるためにはどうしたらいいのでしょうか。

 状況を一番わかっているはずの情報システム部門が、ちゃんと頑張るべきでしょう。そこが「新しいものは不安」「新しいものは他の人がやってから選ぶ」「今までので十分」というマインドはもう捨てるべきです。「今まで通りにもの」は「今までできたこと」しかできません。

 たぶん、面倒くさがっている人が多いんだと思います。まず自分たちで検討・検証するのって手間がかかります。さらに社内の不安に対していろいろと説得したり、押し通したりするのも疲れるもの。でも、それをしなければ情報システム部門の仕事は単なる現状維持にとどまり、存在意義などないに等しい。もし自社の情報システム部門がそんな状況ならば、経営層が叱責したっていいと思います。まあ、経営層が「自分たちがわからないことに責任を取りたくない」というケースも多いようなので、そうなれば八方ふさがりですよね。

 それでもユーザーや経営層は、情報システム部門さえ腹を括れば「ああ、最近の流行だよね。任せた」とクラウド導入はスルーだったりします。意外にネックになっているのは情報システム部門の責任者だったりしますから、クラウドを研究・活用する名目で第二情報システム部門など新たに作るのがいいかもしれません。そのうち勢力図が変わってくると思いますよ。

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中途半端こそ最大のリスク、聖域なく全てを置き換え

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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