
シンガポール政府系投資会社テマセク傘下のデータセンター事業者STテレメディア・グローバル・データセンターズ(STT GDC)は6月25日、千葉県印西市に日本初となるデータセンター「STT Tokyo 1」の開設を発表した。世界12カ国で100カ所以上のデータセンターを運営する同社が、なぜ印西市を日本進出の拠点として選んだのか。その戦略的判断の背景には、接続性と災害耐性という2つの重要な要素があった。

運用初日からカーボンニュートラル実現、世界初のTIA-942-C認証を取得
STT Tokyo 1は、最大32MW超のIT容量を提供する大規模データセンターだ。将来的には隣接するSTT Tokyo 2と合わせて最大70MWまで拡張可能な設計となっている。同社の総電力容量(IT負荷)は全世界で2ギガワットを超え、総事業面積は40万平米に及ぶ。
同社は「運用初日からのカーボンニュートラル実現」を目指しているという。これは2030年までに全データセンターでカーボンニュートラルを達成するという同社のESG戦略の一環だ。目標達成のため、エネルギー効率の高い設計(LEED Gold認証取得)を採用し、敷地内の太陽光発電、グリーン電力調達、非化石証書やカーボンクレジットを活用している。
STT GDC Japan代表取締役社長の前田潔氏は記者会見で、「STT Tokyo 1は世界で初めて『ANSI/TIA-942-C Rated-3』設計認証を取得したデータセンター」だと強調した。2024年5月に更新されたこの最新規格は、従来の機械・電気システムに加え、建築、セキュリティ、持続可能性、AIなどの高密度技術に対応する要件までを網羅した包括的なデータセンター設計のフレームワークだ。

なぜ「印西市」なのか
前田社長が印西市を選んだ理由として第一に挙げたのが「接続性」だ。自身のNTT時代の経験を踏まえ、こう説明する。
「グローバルネットワーク事業に携わっていた経験から、海底ケーブルのネットワークの重要性を強く認識している。特に、日本と世界を結ぶ海底ケーブルの主要な陸揚げ地点が千葉県九十九里に集中しており、印西市はこのランディングステーションに最も近い場所に位置しているため、遅延を最小限に抑えることができる」
アクセス面でも優位性がある。東京中心部の大手町から37km、羽田空港から44km、成田空港から23kmと、主要拠点からの利便性も良好だ。
もう一つの決定要因が「災害耐性」だった。前田社長は地質学的な安定性を重視したという。
「6000万年前の硬い岩盤の上に立地し、標高も比較的高いため、洪水リスクはほぼ皆無。ハザードマップで見ても、地震に対するリスクも極めて低いエリアだ」
建物の耐震性についても最高レベルの対策を講じている。「30メートル以上の杭を90本打ち込み、最新鋭の免震システムを採用することで、建物の耐震性を最高レベルに高めた。この強固なインフラにより、災害時でも安定したサービス提供が可能になる」と説明した。
今後の運用について前田社長は、「現在すでにほぼ満床の状況だ。ユーザー企業は米国のGAFAをはじめとするハイパースケーラーが9割で非常に厳しい条件を課せられている。設備の運用や、本社社員による内製化を目指している。これは社員のオーナーシップとデータの透明性を重視しているためだ」と語った。
最後に前田社長は「印西の次も展望している」と今後の展開にも意欲と、日本市場での事業拡大を加速させる構えを見せた。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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