日本IBMは7月8日、次世代のIBM Powerサーバーである「IBM Power11」を発表した。

IBM Power11は、プロセッサーからハードウェアアーキテクチャー、仮想化ソフトウェアスタックにわたるイノベーションによって再設計されたもの。オンプレミスやIBM Cloudでのシームレスなハイブリッドデプロイメントのために、企業が求める可用性、レジリエンシー、パフォーマンス、拡張性を提供できるように設計されているという。
同日に開催された説明会では、同社 代表取締役社長 山口明夫氏が登壇し、IBM Power製品を含む同社の目指す方向性について説明した。

IBMはパーパスとして「世界をより良く変えていく“カタリスト(触媒)”になる」を掲げる。社会的要因が大きく変化する中、顧客が変化に対応できるように様々な製品・サービスを提供すべく事業を行っていると山口氏。「顧客にとって最適な選択肢を提供できる環境を作っていく」とした。
そのために同社は、下図のように半導体・プロセッサーなどの基礎テクノロジーからハイブリッドクラウド、自動化、コンサルティングに至るまで、IBMで網羅して提供するとしている。今回発表したIBM Power11は、この中でも特に注力する分野の一つであるインフラストラクチャー領域における大きなアップデートだとした。

続いて、同社 テクノロジー事業本部 Power 事業部長 原寛世氏が登壇し、IBM Power11の詳細を説明した。
IBM Power11は、サーバーを構成する4つのレイヤー「ハイブリッドクラウドプラットフォーム」「オペレーティングシステムとファームウェア」「コンピューティングハードウェア」「シリコンテクノロジー」をそれぞれ再設計し、新たに作り上げたもの。シリコンテクノロジーにおいては、チップのパッケージング技術をアップデートし、従来よりも配線効率を高める構成になっているという。コンピューティングハードウェアのレイヤーでは、電子部品や機械部品の発熱を外部に逃がすための部品「ヒートシンク」をアップデートし、オペレーティングシステムとファームウェアは常に最新のものを提供。ハイブリッドクラウドプラットフォームにおいては、オンプレミスからクラウドまで、提供のバリエーションを増やしているとした。
こうしたアップデートがどのような効果をもたらすのか。原氏は以下の3つを挙げる。
- エンドツーエンドの自動化による計画的なダウンタイム:コストのかかる計画的なダウンタイムを回避し、運用リスクを軽減するソリューションを企業に提供。自律的なパッチ適用やワークロードの自動移動といったテクノロジーにより、重要なアプリケーションを停止させずに計画的なシステム・メンテナンスを実施できる。また、生成AIを使用してIBM Concertと連携し、運用リスクの特定/実用的な洞察の提供/セキュリティー・パッチ管理をはじめとする修復の自動化を支援
- IBM Power Cyber Vaultでランサムウェア攻撃を1分以内に検出:IBM Power Cyber Vaultは、米国国立標準技術研究所(NIST)のサイバーセキュリティフレームワークに準拠した統合サイバーレジリエンスソリューション。データの破損や暗号化をもくろむサイバー攻撃から保護するために、プロアクティブな不変スナップショットを自動的に取得/保存/テストする機能を、ユーザーが定義したスケジュールに従って実行する。また、NIST標準に準拠した耐量子計算機暗号化技術を内蔵しており、HNDK(Harvest Now, Decrypt Later)攻撃やファームウェアの整合性攻撃からシステムを保護するよう設計されている
- AIをエンタープライズワークフローに統合し、ビジネスプロセスのスループットを向上:IBM Power11は、内蔵型の推論用オンチップアクセラレーションを備えたAI対応インフラストラクチャーを提供し、IBM Spyreアクセラレーターを通じてミッション・クリティカルなAIワークロードをサポートするよう拡張できる。また、Red Hat OpenShift AIとオープンソースソフトウェアやツールキットのエコシステムと組み合わせることで、ハイブリッド環境全体でAIの運用に必要な柔軟性とパフォーマンスを提供。さらに、2025年末までにはデータレイクハウスである「watsonx.data」がPower11でも利用可能になる予定

それから原氏は、Power事業の戦略に話題を移した。「Powerで基幹系業務を動かす場合、IBM i/AIX/Linuxの3つのOSが動く」とし、これをオンプレミスだけではなく、As a ServiceとしてIBM Cloudでも提供することで、柔軟な価値提供を実現すると説明する。これを踏まえ、Powerの事業戦略として「新規顧客の獲得」「持続可能性」「企業競争力の強化」を掲げ、それを実現するための具体的な戦略に、販売戦略/パートナー戦略/人材戦略の3つを挙げた。
- 販売戦略:ステップは2つ。まずはCOBOL、Oracle、SAPなどのユーザーに対し、Powerでの実装を提案する。そのうえで、次のステップとして基幹業務連携でのDX/AI活用を加速させるべく支援を行う
- パートナー戦略:ISVソリューションを拡充するとともに、それらをIBM Cloud上のSaaSでも拡充させていく。またSAP/Oraleとのアライアンスを強化するとともに、システム開発会社との連携もより強固にする
- 人材戦略:IBM i/AIX/Linuxの技術者を拡充するための人材育成施策を行う。具体的には、技術者プールによるマッチングの実施、若手の技術者コミュニティーの活性化、リスキリングプログラムの拡充など
続いて、同社 テクノロジー事業本部 シニア IBM Power テクニカル・スペシャリスト 釘井睦和氏が登壇し、IBM Power11を技術的な観点から説明した。同氏が説明したIBM Power11の特徴は以下のとおり。
- ソリューションサービスレベルを落とすことなく、消費電力を最適化するエネルギー効率の高い動作モードをサポート
- 新しい2.5D統合スタックコンデンサと熱技術により、消費電力を最適化
- ワークロードの分離をより厳密にできるようにする「Resource Groups」を実装したことで、パフォーマンスが向上
- 3倍のメモリ帯域幅を備えており、メモリを大量に消費する大規模なアプリケーションにパフォーマンスを提供
- AIアクセラレーター「IBM Spyre」をIBM Powerに搭載可能になった(2025年10月~12月で対応予定)

ここまでの説明を踏まえ、原氏はIBM Power11を「AI時代における真のエンタープライズサーバー」と評する。これまでのPowerシリーズの変遷を振り返り、「IBM Power8から10までの機能をすべて積み重ね、出来上がった次世代サーバーがIBM Power11」だと示した上で、「この先もしっかりとした投資計画をもってアップデートを計画しているため、顧客が構築する業務アプリのライフサイクルに寄り添っていけると自負している。持続可能なIT基盤として安心してご利用いただきたい」と強調した。
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