日本オラクルは2025年11月7日、都内で記者向け説明会を開催し、クラウド・アプリケーションにおけるAIエージェントの最新アップデートを発表した。登壇した同社常務執行役員の善浪広行氏と理事の中山耕一郎氏は、10月にラスベガスで開催された年次イベント「Oracle AI World」の内容を踏まえ、AIによる業務変革の展望を示した。
オラクルは今回、同社のクラウドアプリケーション「Fusion Cloud Applications」に搭載するAIエージェントが400機能に達したことを明らかにした。これらの機能はERP、SCM、HCM、CXといった業務領域を横断して提供され、すべてサブスクリプション費用の範囲内で利用できる。
善浪氏は「AIがアプリケーションになる」と述べ、AI機能を追加オプションとして提供するのではなく、標準機能として組み込む方針を説明した。現在、全世界で1万5,000社の顧客企業のうち約5,000社がAI機能を活用し始めており、各社が2〜3個の機能を使用している段階だという。
今回の発表で特に注目されるのが、新たに追加された「AIワークフロー・エージェント」である。この機能は、従来のハードコードされたワークフローとは異なり、AIがリアルタイムで判断しながら業務を遂行する仕組みを提供する。たとえば文書やドキュメントを読み込む際、データの属性や周辺の文脈をAIが理解し、曖昧な部分を含めて処理できる点が特徴だ。
善浪氏は「2026年はこれが一気に本格化していって、指数関数的にビジネスプロセスそのものでAIを活用していくという世界観が広がっている」と語り、来年がAI実用化の転換点になるとの見方を示した。
見積書から購買依頼書を自動生成、ヒューマン・イン・ザ・ループで精度確保
中山氏は、ワークフローエージェントの具体例として「見積から購買依頼作成エージェント」のデモを紹介した。このエージェントは、サプライヤーから受け取った見積書のPDFをアップロードすると、AIが内容を自動で読み込み、購買依頼書を作成する機能を持つ。
処理の流れは、まずユーザーがPDFをアップロードすると、AIがドキュメントの種類を判別し、見積書として認識する。次に、サプライヤー名、品目、数量、単位、通貨、金額といったデータを抽出し、購買依頼書のフォーマットに自動でマッピングする。この際、データに不整合や不明な点があれば、システムが操作者に確認を求める「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の仕組みが組み込まれている。
中山氏は「曖昧さを含んで、やりとりができるというものがワークフローエージェント」と説明し、従来のハードコードされたif文の塊では実現が困難だった柔軟な業務処理が可能になったと強調した。見積書と購買依頼書を並べて表示する比較機能も備えており、ユーザーは最終確認の上でシステムに投入できる。
会計領域では「レジャー(元帳)エージェント」のデモも行われた。このエージェントは、元帳データの異常値を自動検知し、ユーザーが設定した条件(たとえば前四半期比10%超の増加)に基づいてアラートを出す。検知された異常値について、ビジネスプランとの整合性やソースデータへの遡及が可能で、ユーザーはエージェントと対話しながら処理を進められる。善浪氏によれば、製造業のCFO幹部から「明らかに業務が変わる」との評価を得たという。
AI Agent Studioで3万2,000人の認定技術者、マーケットプレイスに100超のエージェント
オラクルは2025年3月、顧客とパートナーがカスタムAIエージェントを開発できる「Oracle AI Agents Studio」を発表した。同ツールは、オラクルの開発部門が社内でAIエージェントを構築する際に使用しているものと同じプラットフォームである。現在、同ツールの認定技術者は3万2,000人を超え、エコシステムの拡大が進んでいる。
AI Agents Studioでは、エージェントの作成からテスト、監視、評価までを一貫して実施できる。LLM(大規模言語モデル)についても、OpenAI、Cohere、Meta、Google、Anthropic、xAIといった複数のプロバイダーから選択可能で、用途に応じた使い分けができる。また、MCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent-to-Agent)といった業界標準にも対応し、オラクル以外のAIエージェントやシステムとの連携も可能だ。
今回の発表では、パートナー企業が開発したエージェントを集約する「Fusion AIエージェント・マーケットプレイス」の展開も明らかになった。Accenture、Deloitte、PwC、KPMG、IBM、Infosysなど大手コンサルティング企業を含む27社がローンチパートナーとして参画し、既に100を超えるエージェントが提供されている。善浪氏は、イベント期間中に顧客とのハッカソンを実施し、1日で100個のエージェントが生まれたエピソードを紹介し、「こういった勢いでアプリケーションにどんどんエージェントが乗ってくる」と述べた。
オラクルは、エンタープライズAIの実現には統合性、信頼性、安全性、スケーラビリティが不可欠だと強調する。同社のFusion ApplicationsはOracle Cloud Infrastructure(OCI)上で稼働し、データモデルを中心に設計されているため、ERP、SCM、HCMといった業務領域をまたいでAIとやり取りできる点を競争優位性として位置づけている。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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