ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)は、日本のデジタル・イノベーションに関する展望を発表した。
2024年までに、自社のDX戦略が実際に何を意味するものかを明示していない企業の80%以上は、競合企業にシェアと成長機会を奪われる
COVID-19の広がりから、多くの企業においてテレワークへの対応や顧客行動の変化を背景にDXを進めようとする機運が高まっているという。国はデジタル庁の発足に向けて取り組んでおり、デジタル化社会を実現すべくネットワークの整備・維持・拡充、データ流通環境の整備、行政や公共事業におけるサービスの向上などを重点的に進める方向性を示している。
企業はテレワークを拡大せざるを得ない状況に置かれ、ペーパーレスやハンコレスなど電子化の取り組みが加速。一方、社会全体がデジタル化に向かう中で、企業におけるDXの意味合いが、新規ビジネス開発をはじめとするデジタル・イノベーションから、ペーパーレスやハンコレスといった電子化やSaaS活用のような喫緊のニーズを満たすための取り組みに偏るケースが増えているという。
アナリストでバイスプレジデントの鈴木雅喜氏は「世間で言われている『デジタル・トランスフォーメーション』は、ペーパーレスをはじめとする紙やプロセスの電子化、またはレガシー・マイグレーションを指す場合と、デジタル・イノベーションを指す場合、あるいはその両方を指す場合があります。それぞれの取り組み方や成功率は異なり、必要となる人材やスキルも大きく変わります。これら2つを明確に分けて考え、それぞれに取り組んでいくべきです。また、現在は電子化の取り組みが広がっていますが、デジタル・イノベーションに向けた取り組みを弱めるべきではありません。3~5年後には、DXの側面で成功した企業と成功しなかった企業の差は今よりも大きくなるでしょう。ITリーダーは、自社のDX戦略を確認し、短期的な取り組みだけでなく中長期的な取り組みの方針を明確にすべきです」と述べている。
2024年までの間、ペーパーレスに関わる個々の既存テクノロジの展開に1年以上かける企業の8割以上は、時代遅れの企業になる
2020年、COVID-19の影響により、日本企業ではこれまで散発的な取り組みでしかなかったペーパーレスとプロセスの電子化のトレンドが一気に加速した。ペーパーレスに関わる技術は必ずしも新しいものではないが、企業に存在する「従来のやり方を変えない組織文化や人の考え方」がその普及の足かせとなってきたとしている。
ペーパーレス、ハンコレスに関連するSaaSの使用開始に当たっては、導入に3ヵ月もかけず活用を「小さく始める」ケースがある一方、提案依頼書(RFP)を作り、何年もかけて一度にSaaSへ大規模移行しようとするケースもあるという。既に電子化を完了させている企業は、電子化されたプロセスからデータを集めて活用し、自動化を促進して生産性とスピードを継続的に改善していくとしている。経営陣は、企業活動の状況をリアルタイムに近いタイミングで確認し、より素早く判断を下せるようになってくるという。
その一方で、日本企業の昔ながらの進め方、既存の紙でのやりとり、対面式の人のつながりをあくまで堅持し、一見完成度が高いように思えるビジネス成果を生み出す流儀を変えない企業は、生産性とスピードの面で大きく立ち遅れていくとしている。
鈴木氏は、「テクノロジ活用が進んでいる企業と、目前の対応を重視するあまり結果的に後れを取った企業の差が顧客や取引先から見ても明らかになれば、企業のブランド・イメージの毀損につながります。また、顧客満足度や企業への期待感の低下をもたらします。テクノロジの導入だけでなく、社内の慣行や組織文化、人の考え方を変えていくことが重要ですが、その解決には時間がかかるため、企業はこれらにスピード感をもって取り組む必要があります。一方、先行している企業であっても、テクノロジを導入したからといって問題が解決したわけではないと考え、顧客や従業員の満足度を高めていく施策を取ることが肝要です」とコメントしている。
また同社は電子化の取り組みについて、「2024年までの間、簡易なワークフローの全社展開に際し、IT部門の適正な管轄の下でビジネス部門に運用を任せられない企業の8割以上は、展開の取り組みに失敗する」という予測も発表している。
鈴木氏は、次のように補足している。「COVID-19により、日本のDXは新たな局面を迎えています。COVID-19以前の状況にただ戻せばよいといった考え方は少数派となり、かつての常識がもはや通用しないことに多くの人が気づいています。こうした中、DXに向けた取り組みとして、目の前のペーパーレスやハンコレスはもちろん、将来のビジネス改革や新事業開発といった面でも変化を求め、舵を切るのにまたとない機会が訪れています」。
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