ガートナージャパン(以下、Gartner)は、SaaSセキュリティへの取り組みにはアイデンティティ保護とデータ・セキュリティの見直しが重要であるとの見解を発表した。
同アナリストでディレクターの矢野薫氏は、「セキュリティが理由でSaaSの活用が進まないと、単にSaaSのメリットを享受できないだけでなく、企業全体のデジタル化の推進自体が減速することになります。これは企業にとっては大きな問題です。自社の競争力強化のためにデジタル化を加速させたいという場合はなおさらです。SaaS利用というクラウド活用のファースト・ステップで立ち止まっていたり、後れを取ったりしている場合ではありません」と述べている。
SaaSアプリケーションに対するアクセスを制御し、機密データを保護することは、現在のセキュリティ脅威の下でビジネスの安全性を確保するために欠かせないという。また、昨今の厳格なプライバシー規制がもたらす課題は増しており、企業が継続的にビジネス成果を実現していくためにも、進化し続ける要件にタイムリーに対処する必要があるとしている。
SaaSセキュリティの課題
課題1:ルールがない
これまでのセキュリティは、オフィスやデータセンターなどの閉域網が中心だった。この場合、アイデンティティとデータの保護に対するルールを細かく設定しなくても、境界型のセキュリティ対策を強化することでセキュリティ全体のリスクを下げられたという。しかし、SaaSの活用により業務アプリケーションがこれまでの閉域網からクラウドへ移行したことで境界がなくなり、IT/セキュリティ・リーダーは、アイデンティティやデータの保護をSaaSごとに実装する必要に迫られている。
課題2:設定とレベルがばらばらである
SaaSの場合は、それぞれのアプリケーションにおいて個別に認証、アクセス管理、データ保護を行う必要があり、実際にはセキュリティの分散化が進むことになるという。数多くのSaaSを利用するようになればなるほど運用は煩雑になり、また、SaaSによって実装できるセキュリティ機能に差があるため、セキュリティのレベルを一定に保つことが難しくなるとしている。
課題3:SaaSの評価と採用に手間が掛かる
SaaS採用の際にはチェックリストなどを用いて個別にセキュリティ機能を評価するが、最近はユーザー部門からのリクエストが多いこともあり、IT部門だけでは対応できなくなってきているという。そのため、IT部門に代わってユーザー部門にチェックを担当してもらうケースが出ているが、ITやセキュリティの専門用語が並ぶチェックリストに戸惑うユーザーも多くいるとしている。SaaSは「すぐに使える」ことがメリットであるにもかかわらず、このようなセキュリティ評価に時間を要することでSaaSの採用に時間がかかり、SaaSのメリットを生かせないといった状況が見られるようになってきましたという。
SaaSセキュリティに関する上記3つの課題を踏まえた、矢野氏のコメント
SaaSセキュリティには様々な対策がありますが、例外なく取り組む必要があるのがアイデンティティとデータの保護です。この際に重要なことは、これまでのように『本人であればアプリケーションの利用を許可する』といった粒度のルールを適用するのではなく、『このユーザーは本当にそのアクセスが必要なのか』をアクセスのたびにチェックする点にあります。このためには、ユーザーの役割からそのアクセスの意味を読み取る必要が出てきます。SaaSの導入までに時間的余裕がある企業の場合は、セキュリティの原則に従い、ルールの策定を『棚卸し』から実施すべきです。一方、すぐにでもSaaSを使いたいというような場合には、棚卸しに代わる方法でルールを策定していくといった工夫が必要です。たとえば、SaaS上でまずは認証やアクセス制御を強化し、さらにユーザーの範囲を限定しつつ、実際にユーザーが何をどのように利用するのかについての情報収集を実地で行いながらルールを作り、それを精緻化していく、というような動的なルール策定アプローチを選択することができます。
クラウド上にSaaSのアイデンティティとデータ・セキュリティの標準化基盤を作っておくことで、セキュリティの運用を分散させずに一元化できる上に、すべてのSaaSに対して同じセキュリティ機能の適用が可能になります。新たに採用するSaaSについては、このセキュリティ標準化基盤へ接続できることを条件にすれば、これまでセキュリティ評価に費やされていた膨大な時間の短縮にもつながります。デジタル化推進における盤石なセキュリティの第一歩として、IT部門やセキュリティ・リーダーは、すぐにでもこれらのSaaSセキュリティへの取り組みを開始すべきです。
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