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富士通 柴崎辰彦の「一番わかりやすいDX講義」

ANA野村氏に聞く:現場から感謝される情報システム部門へ

第15回【DX実践研究編】ANAのデジタル変革に向けた挑戦

 富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組んで来た著者の実践に基づくDX連載の第15回。著者は、富士通 デジタルビジネス推進室エグゼクティブディレクターの柴崎辰彦氏。シリーズの第3部となる「実践研究編」では、実際にデジタル変革に取り組む企業の取り組みをプロジェクトリーダーのインタビューを通してご紹介する。実践研究編2つ目の事例は、全日本空輸株式会社(以後ANA)デジタル変革室イノベーション推進部部長の野村泰一氏にお話をお伺いした。

「ありがとう」と現場から感謝される情報システム部門

ANAデジタル変革室イノベーション推進部部長の野村泰一氏
ANAデジタル変革室イノベーション推進部部長の野村泰一氏

 従来の情報システム部門は、大企業ともなると何億円もの大きなシステムを納期通り・予算通り・仕様通りに納めてもやって当たり前と思われていたと思います。仮に現場部門から「ご苦労様」と言われたとしても、もしトラブルなど発生したら「何やっているんだ!」と叱られ、経営からはことの顛末の報告を求められるのが当たり前の雰囲気ではなかったでしょうか?

 ANAデジタル変革室イノベーション推進部部の野村さんのチームは、現場部門と一緒に考える様々な活動を通して、提供したシステムやサービスを利用した現場の利用者から「ありがとう」と感謝される関係づくりに成功しているといいます。

 なぜそのような関係が築けたのでしょうか? 一言でいうと実際に使う現場の人と一緒になって、議論しながらあるべき仕組みをデザインして提供してきた結果、「ありがとうございます!」と感謝してもらえるようになったのです。そして野村さんの部下たちは、「ありがとう」と現場の利用者の方々に言ってもらえると、「次もがんばろう!」というモチベーションに繋がって来たといいます。

 このような関係を築くまでには様々な取り組みを試行錯誤してきたようです。野村さんのチームは、イノベーションハニカムと呼ばれる独自のフレームワークを用いてデジタルテクノロジーナレッジの蓄積に励んできました。また、現場で解決できる業務を分類し、IT用語は使わずに現場部門では「こんな困りごとはありませんか?」と困りごとでアプローチし、ソリューションを提供していったといいます。ポイントは、先端テクノロジーへの深い理解や現場の利用者と一緒に考えることに加えて、たとえば「データ集計・出力」、「データ突合・判定」、「システム間連携」、「入力・登録」、「情報のモニタリング」など、現場の方にもわかりやすい言葉で解決策を提示することで信頼関係を築いてきたことも要因です。これは、ある意味企業での情報システム部門と現場部門の本来のあり方を示しているのではないでしょうか。

異色の経歴のデジタル変革リーダー

 野村さんは、1987年にANAに入社し、当初は情報システムとは全く異なる営業の現場である横浜支店に配属になる。大学時代にマーケティングを専攻していた野村さんは支店の様々なデータを元に仮説を立てて施策を打つという、言ってみれば当時でいうと「DOA(Data Oriented Architecture:データ中心アプローチ)」を実践していたといいます。

 「やった事がない業務でもデータを追いかけることで仕組みを理解できる体験をしていました。文系の自分が物事を理解するのは、プログラムコードではなくデータの流れだったのです」(野村氏)

 やがて、その視点をITで使って活かす時が来ます。1990年にいわゆるIT部門に相当する情報システム本部に異動となります。当時としては、営業部門から情報システム本部への異動は、極めて珍しく、この異動は、本人の希望でもローテーションでもなく、突然全く異なる文化の中に放り込まれるという試練を迎えます。

 「異動前に横浜支店の支店長に異動先は何をやるところですか? と聞きましたが、満足な回答もなく、予約端末や発券機を作る工場のラインのようなところかと勘違いしていました」(野村氏)

 異動先で特別な教育が用意されていた訳ではなく、社外の様々なセミナーや勉強会に足を運ぶとともにITに関する書籍で自ら猛勉強した結果、あくまでマーケターの視点で情報システム業務を理解し、その後、様々な施策を打ち出すことになります。

 まず、1995年には営業本部を対象に予約〜発券のビジネスモデルを担当されます。インターネット予約に加え、コンビニでの航空券発券など利用者の利便性を追求したサービスをカットオーバー。2005年には、空港を担当するオペレーション統括本部に異動するとチェックインモデルを担当し、「スキップサービス」を世に送り出します。「スキップサービス」とは、ANA国内線における搭乗スタイルで予約・購入・座席指定をお済ませいただいたお客様が、空港で搭乗手続きをせずに直接保安検査場に進むことが可能になるサービスです。

図1 営業本部やオペレーション統括本部時代に進めた取り組み[クリックして拡大]

 「当時、空港に自動チェックイン機を大々的に導入したのですが、単に人手の作業を機械に置き換えただけの仕組みだったので、あまり利用されませんでした。利用者にとっての利便性があまり考慮されていなかったからで、使われなくて当然だと思っていました。会社としては『これを使えば搭乗手続きが楽になる』という考え方でしたが、これはいわゆるプロダクトアウト型の発想だったと思います」(野村氏)

 野村さんが、スキップサービスを検討した際には、何よりも「お客さまにどんな価値を提供できるか」という人中心の発想に留意したといいます。これは、今でいうデザイン思考の発想そのものとも言えます。

 「もともと飛行機の利用者は、時間を節約するために飛行機に乗るわけです。従ってチェックイン手続きを省くことで10〜15分でも搭乗手続き時間が短縮できれば、確実にお客さまにメリットを感じていただけると考えました。しかもこの仕組みは、お客さまにとってのメリットだけでなく、自社にとってもさまざまなメリットが期待できました。スキップサービスのシステムを導入すれば、『お客さまが何時何分に保安検査場を通過したか』というデータが取れるようになるので空港オペレーションの担当者はリアルタイムにお客さまの動向が把握できるようになります。またスキップサービスの利用者が増えれば、その分だけチェックイン手続きを空港で行うお客様が減るので、自動チェックイン機の台数も減らせてその分のコストを節約できるようにもなります」(野村氏)

 野村さんは、自身のこれまでの仕事のスタンスを以下のように語ります。

 「多くの人が現状の業務をベースに何かを変えると言う発想をしがちですが、私の場合はそういったクセがあまりありませんでした。もちろん現状の業務やその課題を理解はしますが、その課題を解決する仕組みを取り入れつつ本来あるべき姿を目指しました。でなければスキップサービスやインターネット予約などの新たなサービスは生まれてこなかったと思います」(野村氏)

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ANAを退社し、LCC新会社の立ち上げメンバーに

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この記事の著者

柴崎 辰彦(シバサキタツヒコ)

香川大学客員教授 富士通株式会社にてネットワーク、マーケティング、システムエンジニア、コンサル等、様々な部門にて“社線変更”を経験。富士通で初めてのデジタル部門の創設やサービス開発に取り組む。CRMビジネスの経験を踏まえ、サービスサイエンスの研究と検証を実践中。コミュニケーション創発サイト「あしたの...

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