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週刊DBオンライン 谷川耕一

機械学習を語れるのは誰だ?―2015年のITはどこに向かう

 2015年がスタートした。ということで、今年のITトレンドをいろいろと予測してみたい。まずは、今更感もあるけれどクラウドというキーワードから。年末にIBMがSoftLayerのデータセンターを東京でもオープン、マイクロソフトも日本データセンターを東京、大阪に開設しておりOffice365も日本のデータセンターで動き始めた。ますますクラウドというITプラットフォームの選択肢が、ごくごく当たり前になっている。

クラウドはIaaSからPaaS、SaaSへ

 そんなクラウドも2015年は変化と淘汰の年になるのではと。変化の部分としては、話題の主流がIaaSだったのが、徐々にPaaS、SaaSへと。もちろんIaaSがなくなるわけではない。当初クラウドのメリットは価格の安さにフォーカスされていたが、昨年くらいから耳にするのは価格よりもスピード、アジリティというキーワードだ。で、このアジリティを追求するとなると、IaaSよりもさらに迅速に展開できるPaaSに注目が集まることになる。

 とはいえ、じつは大本命と言えるようなPaaSがまだないというのが私の見解。Salesforceのforce.comは確かにPaaSとしては先行している。けれど、利用するにはSalesforceの世界にまずは入らなければならず、その敷居は少し高い。とはいえ、ISVなどを巻き込んだエコシステムなども活性化しており、1歩前を行くPaaSの存在なのは間違いない。

 この後を追うのがIBM Bluemix。まだ生まれたてで実績が少なく認知度の面でもこれからだろう。しかしIBMが本気を出してくるので、ちょっと怖い存在だ。Javaや各種データベースなど、既存のエンジニアスキルをそのままこのPaaS環境に持ってこられる点は優位だ。とはいえ、IBMという大規模でエンタープライズのイメージが強すぎるが故に、個人レベルでアプローチしたり小さなISVなどが関わったりという敷居は若干高そう。さらに、メリットであるはずの既存技術がそのまま使えるというのが、逆にBluemixやSoftLayerを今すぐに勉強すべきとのエンジニア・モチベーションに結びつかないのかなともとも思うところ。

 そして、じわじわと存在感を表しつつあるのがサイボウズのkintoneだろう。確実にユーザーは増えており、無視できない存在になりつつある。PaaSとしての機能の幅や完成度はまだまだこれからの部分もあるけれど、ユーザーニーズを加味しながら成長を続ければ国内では大きな存在になる可能性も高い。海外展開などのグローバル化のところが弱味であり、そのあたりにどう対応するのかが今年以降の成否の鍵となるか。

 この他にも出遅れている感のあるOracle、今後IaaSからPaaS的なサービスに大きくシフトしてきそうなAmazon Web Servicesなど、今年はPaaSプレイヤーの話題がかなり増えることは間違いないだろう。

新しいキーワードの機械学習、これは実践している企業だけが利用できる

 ビッグデータ、アナリティクスもまた、ここ最近は当たり前のITキーワード。当たり前すぎてビッグデータがキーワードではもうイベントなどの集客が厳しくなりつつある。そんなビッグデータ、アナリティクスの世界で、新たな光明となりそうなキーワードが機械学習だ。機械学習や考えるコンピュータの世界は、2015年に確実に拡大するITマーケットだろう。

 機械学習で先行しているのは、IBMやマイクロソフトだ。IBMは機械学習だけでなくWatsonに代表されるようなコグニティブ・コンピューティングの領域をあらゆるITサービスの付加価値に位置づけている。たんにオペレーションを効率化するのではなく、機械学習などで蓄積された膨大なデータを活用し新たな価値を生んでこそ、これからのITだということ。

 マイクロソフトも機械学習的な領域には古くから取り組んでいる。HotmailのSPAMメール対策など、これまでは裏の仕組みとしてきたものを今後は表のサービスとして展開してくることになる。この他にもNECなどの国産ベンダーも、じつは古くから機械学習の世界にはかなり真剣に取り組んでいる。すでに目立たないところでは、さまざまな実績もある。こういった国産ベンダーの地道な機械学習の成果も、今年は新たなITの価値として注目を集めそうだ。

 ところで、機械学習、マシーンラーニングは確かに2015年のITキーワードとなるのだが、ここ最近流行ったクラウドやビッグデータとはちょっと趣が異なるものだ。どういうことかと言えば、クラウドやビッグデータはこれらに直接自社製品やサービスが関わっていなくても、「クラウド時代のXXX」「ビッグデータ時代のYYY」といったような表現でアピールに利用できるキーワードだった。ところが機械学習はそういうわけにいかない。実際に機械学習を実践し、なんらかの成果なりを提供しているベンダーだけが自社ソリューションのキーワードとして使えるものなのだ。「機械学習時代の」とか「機械学習的な」といったキーワードの使い方はおかしいということに。

 どこにどのような機械学習技術を使っているのか、それを明確に言えなければ使うべきでないのが機械学習というキーワードの特長だろう。そういう意味では、今年になって初めて機械学習に取り組みますというのでは、ちょっと遅い。逆に考えると、これまで機械学習に取り組んでいたベンチャー企業は、大手から買収されるチャンスかもしれない。

2015年、ITでニッポンは強くなれるか

 最後に2015年、ITでニッポンは強くなれるのかという話題に触れておきたい。直近ではマイナンバー制度のスタート、金融業界での需要増などでIT業界の内需的なマーケットは伸びる見込みがある。消費税が10%になれば軽減税率導入なんて話もあり、このあたりも新たなITの仕組みがなければどうしようもない話だろう。まあ、個人的には軽減税率を導入するくらいなら、その手間とコストのぶんを必要な人に給付金とかで分配したほうがいいとは思うところ。もちろん、東京五輪開催に向け土木建設だけでなくIT需要も高まる期待がある。

 とはいえ、ITの内需が高まっても今ひとつニッポンの企業は強くなれないのではと思うところだ。ダムや道路を作ればそこに雇用は生まれるが、世界に広く販売できるような革新は生まれない。ITも同様で内需が活性化しても、世界で戦い勝利できるような企業が生まれる気配はない。

 一方で日本のIT品質は高く顧客要求もかなり高いという話がある。なので、日本の顧客にITサービスの品質を評価されれば、海外ではそれが高い信用になるという話も聞こえてくる。そんな敷居の高そうな日本市場に、海外ITベンダーは重要な市場としてどんどん進出している。昨年、一昨年あたりからセキュリティやアナリティクス分野の外資系ベンチャーの日本進出はかなり増えている感がある。

 品質の高い日本仕様のITを海外に売る、あるいはその品質の高いITを使って元気になった日本企業がどんどん海外に進出しビジネスで成功を収める。そういったことのスタートの年に2015年はなる、いやなって欲しい。そのためには、自分たちの強味はどこにあるのか、改めて棚卸しする必要もあるかもしれない。当然ながら国の政策も、内需よりはこういった動きをサポートしてくれるものが強く望まれる。

 政治に期待し景気が良くなるのを待っていても、企業は出遅れてしまう。自分たちの武器は何か、ITベンダーもITを活用しようとしている企業も、内需拡大に期待するのではなく膨大な世界市場で戦える価値を今すぐ見出す必要がある。そしてどんどんニッポンを、ニッポンの良さを世界に売り出して欲しいところだ。その結果として日本企業が成長して始めて、ニッポンの真の景気回復になると思っている。是非とも2015年を、ITでニッポンが元気になる、そのスタートの年になって欲しい。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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