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データサイエンティスト サミット開催、三人のデータサイエンティストがビッグデータ分析の現実を語る


 2013年12月4日、都内で「データサイエンティスト サミット」が開催された。このセミナーイベントへの事前登録者数は1,000名を超え、データサイエンティストという存在への高い関心度がうかがえる。キーノートセッションは、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタントの鈴木良介氏をモデレーターに、大阪ガス 情報通信部 ビジネスアナリシスセンター所長の河本 薫氏、リクルートテクノロジーズ ビッグデータグループ シニアデータサイエンティストの西郷 彰氏、帝国データバンク 産業調査部産業調査第1課 課長補佐の北村慎也氏という、実際にデータサイエンティストとして活躍している3名をパネリストに迎えディスカッションが行われた。  

昔からある普通の会社で「データ分析」という仕事を評価してもらう難しさ

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左から、モデレーターの野村総合研究所 鈴木 良介氏、
パネリストの大阪ガス 河本 薫氏、リクルートテクノロジーズ西郷 彰氏、帝国データバンク 北村 慎也氏

 モデレーターの鈴木氏からはまず、データサイエンティストと世間で言われているような「知識の深い人材、スーパーな人材が本当にいるのでしょうか、実際に育成ができるのでしょうか」と疑問が投げかけられた。その疑問を解決するためにも、今回のパネラーのように実際にすでにデータサイエンティストとして活躍している人たちの話を訊くのがいい。そのために、一堂に集まってもらい話をするのが、今回のイベントの場だと説明があった。

 大阪ガスの河本氏は、1年中データ分析だけを行っている。とはいえ、最初からその業務が順調だったわけではない。ガス会社という社会インフラサービスを提供する会社で、データ分析の価値を理解、評価してもらい、それを活用してもらうまでには苦労があった。「昔からある会社、普通の会社でデータ分析をする上で、どんな苦労をしてきたかを今日はお話しします」と河本氏。

 大阪ガスのビジネスアナリシスセンターは、グループ会社も含め、社内のあらゆる組織に対しデータ分析のソリューションを提供している。組織は独立採算制で、センターのメンバーが働いた分は各営業部門にチャージされる。センターで働いているメンバーは、「それなりに統計解析はできますが、みなさんが思っているほどではないと思います」と河本氏。統計解析、データ分析の専門家というよりは、各メンバーがさまざまな分野の専門知識を持ち、その専門分野はビジネスドメインに近い分野だ。つまりは、データ分析をもとに社内の各分野に対しコンサルティングができる人材の集まりとなっている。

 これまでに行ったことの1つに、ガス漏れ事故などに対応する緊急車両をどう配置したらいいかを最適化した例がある。

 「緊急車両の配置は、従来は勘と経験でやっていました。それを、他社の持っていた交通渋滞のビッグデータを取り込んで分析し、シミュレーションを行って最適化しました」(河本氏)

 とはいえ、こういった分析の仕事が、すんなりと現場に受け入れられたわけではない。「15年間を振り返ってみると、昔はなんてばかなことをしていたのだろうと思います」と河本氏。そういった経験からマインドチェンジを行った。

 苦労して分析した結果を現場に持って行くと「そんな結果は分かっとった」「その結果は何の役に立つんだ?」「役に立つとしても、ほんのささいなことやな」と言われるのが常だった。どんなに良い分析結果が出ても、それが本当にビジネスに役立たなければ受け入れてくれない。15年分析の仕事をやってきて、そのことが骨身にしみて分かったと河本氏は言う。

 分析問題に対し「計算屋」じゃだめで、分析者にならなければならない。ところが分析者であっても、大阪ガスのような「普通の会社」ではだめだ。なぜなら、分析問題は落ちておらず、落ちているのはビジネスの問題だから。ビジネス問題から分析問題を見出せなければ、データ分析は行えない。これが、最初のマインドチェンジだったと北村氏は言う。

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大阪ガス 河本 薫氏

 また、以前は経験、勘、度胸の頭文字である「KKD」をばかにしていたと河本氏。とはいえ、現場とともに仕事をしてきて分かったのは、「データ分析 or KKD」ではなく「データ分析 and KKD」であることもマインドチェンジの1つだった。

 分析の成果を現場に理解してもらい活用してもらう際の苦労の例として紹介したのが、過去10年分400万件のデータを分析して実現した「修理携行部品予測システム」の事例だ。このシステムは、導入後には当日の修理完了率が大幅改善し、顧客満足度の向上にもつながったというデータ分析の成功事例。過去の膨大な修理情報、機械の不具合情報、顧客の給湯器などの利用情報を分析し、故障時の診断結果で修理の可能性の高い故障部品を、優先順にベスト5まで提供している。

 このシステムの実現では、「じつは、データ分析にはそれほど苦労しませんでした。分析で大変だった部分は、ある意味、想定範囲内でした」と河本氏。苦労したのは、分析した結果を実際にメンテナンス作業をしている人たちに報告した直後から始まった。誰一人としてこのシステムを使ってくれなかったのだ。そこで工夫し、なんとか既存の修理手配システムの空いてるスペースに、可能性の高い部品のベスト5を表示することにした。

 この分析の仕組みを作るには6ヶ月ほどかかったが、仕組みが現場に定着するまでにはじつに2年の歳月が必要だった。こういった経験から、良い分析結果を出すだけでなく「現場に攻め込んでいく必要あると考えました。それをサッカーになぞらえ、フォワード型分析者と言っています」と河本氏。このフォワード型の分析者が3つ目のマインドチェンジだ。データ分析だけがデータサイエンティストの仕事ではなく、問題を現場から発見するところから、それに対しデータ分析で解決策を見つけ出し、その解決策を現場に定着させるところまで、攻めの姿勢でやるのだ。

 河本氏は「とくに、見つける力が重要です。問題発見力、そのための着眼点を持たなければなりません」と言う。そして、ビジネス現場の問題を解くには、仮説力もいる。「これは数学力ではありません。仮説力はコミュニケーションと洞察力です。そのためには、ビジネスマインドを持った分析者が必要です」とのこと。これに分析結果を現場に使わせる実行力があって初めて、分析の価値が生まれる。

 「現場は仕事を変えたがりません。これは当たり前の抵抗です。そこを変えていく必要もあります」(河本氏)

 15年やってきて、この現場の抵抗感も最近では変化してきたと河本氏。「現場にこういった課題があるのだけれど、データ分析で解決できないかと、我々に相談してきてくれるようになったのです。こういうアプローチが増えてくると、さらに日本企業の現場力が上がっていくのではないでしょうか」と。問題の発見から、現場への実行力も含めてやるのが「普通の会社の、データサイエンティストの仕事」だと河本氏は言うのだった。

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リクルートは事業側担当者ともコラボレーションしてチーム体制でデータ分析を活用する

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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