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テクノロジー活用の主戦場は広大なフィジカル空間へ――リアル店舗の目配り、気配り、金配りを実装する

2015/03/04 12:35

 いま、テクノロジーの活用がさまざまな商売の様子をがらっと変えようとしています。ITやデータ分析といったテクノロジーの活用はインターネット空間からはじまりましたが、インターネット経済圏は規模で言えばGDPの1割に過ぎません。テクノロジー活用の主戦場は残りの9割にあたる広大なフィジカル空間での商売に移りつつあるのです。さまざまな業界でIoTやM2Mに関心が高まっていることや、Internet of Enverythingという言葉に注目が集まっているのもフィジカル空間への関心の高まりといえるでしょう。今回は、テクノロジーの活用が店頭での様子をどのように変えていくのか概観していきます。

「目配り」「気配り」「金配り」のためのテクノロジー活用

 テクノロジーの活用によってすべての買い物客は、まるでVIPであるかのようにもてなされるようになるでしょう。「顧客をVIPであるかのように理解し、よりよい施策を講ずるための技術」が身近なものになってきているためです。

 そもそも、VIP、すなわち王侯貴族や、世界有数のアーティスト、スポーツ選手、時の権力者といった人たちはどのような接遇を受けているのでしょうか。

 接遇のプロである広告代理店は、世界的なアーティストが来日した時には、その奥様の買い物に社員を同行させ、買物をする様子を事細かに観察するように指示しました。そして、帰り際に買わなかった商品をまとめてプレゼントしたそうです(1)

 また、人付き合いの天才と言われた大物政治家は「目配り」「気配り」「金配り」に長けると評されました(2)。政敵も含めた、周りの人たちが何に困り、どうしたら喜ぶのか、便宜を計ってもらったときにそれが負担にならないように思わせるためにはどのようにしたら良いか、ということを考えぬいて振る舞いました。

 「目配り」「気配り」「金配り」という観点でみれば、広告代理店による夫人への対応と、政治家のふるまいは、同じ構造です。大物政治家のフレームワークを用いて、広告代理店の施策を分解すると、「買い控えた商品に『目配り』をし、本当は欲しかったであろうと『気配り』をする。そして、プレゼントという名の『金配り』をした」と整理できます。 このような話は、一般庶民には関係のないことに見えるかもしれません。しかし、我々もすでにこのような接遇を受けています。ECサイトを思い出してみてください。

 ECサイト事業者は、我々がどのような商品に興味を持ったのかを知るべく閲覧履歴を集め、そのデータにもとづいて関心を持たれそうな商品をおすすめしています。「閲覧履歴の収集」は「目配り」であるし、「データにもとづくおすすめ」は「気配り」です。金を配ってしまっては商売になりませんが、関心をもちそうな商品のクーポンを配信することはままあります。これは「金配り」の一種と呼べましょう。

  ECサイトをはじめとしたサイバー空間において、このような取り組みが行うことができる最大の理由は「コストの低さ」です。顧客一人ひとりに、それぞれ店員をはりつけていたのでは不経済ですが、サイバー空間では顧客のふるまいは自動的に記録されます。すなわち、「目配り」のコストがゼロに近いのです。

 「気配り」すなわち商品推奨のしくみも、ひとたび構築されれば、おすすめすることに店員の時間給が発生することはありません。また、数多くの店員に業務プロセスの変更を徹底する手間も必要ありません。

 アマゾンや楽天に代表されるECサイトがこのような取り組みを行っていることは広く知られています。「なにをいまさら」と感じる人もあるでしょう。では、なぜ改めて「目配り」「気配り」「金配り」のためのテクノロジー活用に注目する必要があるのでしょうか。

 その理由は、このような施策が、ECサイトに代表されるサイバー空間だけでなく、店舗などの物理空間でも実行されるようになってきているためです。物理空間において「目配り」「気配り」をするためのセンサやデバイスのコストパフォーマンスが高まりつつあることが、このような施策の推進を後押ししています。

 一例をあげれば、テクノロジーの活用によって、店頭における顧客理解を高度化する取り組みが出てきています。人の動きを理解するモーションキャプチャの利用などによって、購買に至る前の商品に対する関心を察することが容易となったためです。 店舗内での導線分析、顧客の表情分析をリアルタイムで行うkimetricは、365日24時間、人間よりもはるかに安いコストで、休まずに顧客の関心を補足し続けます。このような取り組みを行うことによって、客層に関するより詳細な理解やプロモーション施策の効用評価を行うことが可能となるのです(3)

 これまではPOSデータ、つまり「レジを通過することによって把握可能となる販売時点(a Point of Sales)データ」を中心とした分析でしたが、それに加えて、POBデータ(Points of Buying)の取得が容易な環境になってきたと言えるでしょう(4)

 POBデータがあれば、POSデータだけは判断不能であった「興味は持たれたのだけれども、購買に至らなかった商品」と「まったく興味を払われることもない商品」の区別ができるようになります。限られた販売促進用の費用を費やすのであれば、前者に費やしたほうがより購買行動に結びつくという判断が可能となります。

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著者プロフィール

  • 鈴木 良介(スズキ リョウスケ)

    株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント 2004年、株式会社野村総合研究所入社。以来、情報・通信業界に係る市場調査、コンサルティング、政策立案支援に従事。近年では、クラウドおよびビッグデータの効率的かつ安全な活用を検討している。近著に『 ビッグデータビジ...

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