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週刊DBオンライン 谷川耕一

イェッター氏が語る、「IBM POWER8のここがすごい!」


 IBMがx86サーバービジネスをLenovoに売却というニュース(関連記事)は、IT業界に大きな衝撃を与えた。あのIBMがPCに続きx86サーバーも手放す。現状のハードウェアビジネスの難しさを、改めて認識させられることになった。とはいえ、50周年を迎えるメインフレーム「zEnterprise」と、POWERプロセッサを搭載する「Power Systems」については、IBMは引き続き注力する。自社で付加価値を提供しやすいハードウェアには、より一層力を入れていくと言うことだろう。

最新x86サーバーよりもビッグデータ分析で50倍高速

 さて、先週はそんなIBMの新たな姿勢を示す発表があった。それは同社の最新版RISCプロセッサ「POWER8」と、それを搭載するサーバーマシン「Power S8シリーズ」の提供開始だ。POWER8は1ソケットに2つのチップを搭載、チップあたりは6コア構成となっている。前世代の「POWER 7+ Systems」からクロック周波数は上がっていないが、ソケットあたりのスレッド数が3倍、L1、L2キャッシュも倍となった。さらにL4キャッシュと呼ぶメモリバッファも新たに実装し、230GB/sのメモリバンド幅も実現している。

 このPOWER8を搭載する新Power Systemsは、IBMの社内テストで最新x86サーバーと比べビッグデータで利用される分析において50倍の処理速度を発揮している。

最新版RISCプロセッサ「POWER8」

 「このサーバーは、クラウドでの利用に向いています。パフォーマンスのレベルは、スケールアウト型で65%まで保証します。これは、IBMテクノロジーの強さの証明です」と語るのは、会見に登壇した日本IBM 代表取締役社長執行役員のマーティン・イェッター氏。イェッター社長は滅多に記者会見に登場しない。彼自らが発表したことからも、今回のPower Systemsが同社にとって重要な製品であることがうかがえる。

 POWER8の高性能化は、たしかに製品として大きな進化であり最大のセールスポイントだろう。しかしそれ以上にIBMは面白い取り組みを始めたなと思わされたのが、この新しいサーバーを「世界で最初のオープンサーバー・プラットフォーム」だと表現したこと。x86サーバーは、どのベンダーが作っても基本的には同じアーキテクチャになる。細かい点では違いも出るが同世代のインテル製CPUを採用していれば、スペック表、あるいは比較の○×表では差はつけにくい。

会見に登場したマーティン・イェッター氏
会見に登場したマーティン・イェッター氏

 そういう中で自社製品の優位性を発揮するには、コモディティ化したサーバー上にベンダー独自機能や独自の仕組みを付け加えることだ。それらはベンダー独自の世界なのでオープンというわけにはいかない。ある意味中身はブラックボックス化し、それこそが他社に対する優位性になる。

 一方、POWERベースの場合は同じアーキテクチャのサーバーを他社は作らない。つまり、POWER8ベースであることこそが、IBMの優位性となる。しかしながら、サーバーハードウェアビジネスでは、いまやアーキテクチャの違いで発揮される高性能だけではなかなか市場競争で優位に立てない。そのためx86サーバーと同様、独自仕様のサーバーの上にさらにブラックボックス的な独自の仕組みを付加するのがこれまでの戦略だった。

 対して今回は、従来なら公開しないIBM独自のアーキテクチャ部分をオープン化し、3rdパーティーに開示することにしたのだ。さらにPOWERベースのハードウェア上で3rdパーティーがさまざまな開発ができるよう「OpenPOWER Foundation」というコミュニティも、2013年にすでに立ち上げている。これらによりIBMだけでなく3rdパーティーベンダーが、最新POWERベースサーバーに付加価値を容易に提供できるようにしたのだ。

 その1つが、CAPI (Coherent Accelerator Processor Interface)という仕組みの活用だ。CAPIを使うと、PCIe経由で接続する機器とプロセッサ間の通信を高速化できる。従来であればこれを最大限に活用できるのはIBMだけだったろう。それがコミュニティでの取り組みにより、3rdパーティーのフラッシュメモリストレージなどもこのCAPIを使って高速化できるのだ。今後OpenPOWER Foundationに参加している企業が、Power Systems上で動くさまざまな付加価値製品をどう展開してくれるかがIBMのサーバービジネスの成否を左右することとなりそうだ。

オープンにしてエコシステムを回すというチャレンジ

 この他にもLinuxカーネルに標準で搭載されているLinuxカーネル仮想化基盤「KVM」もPower Systems上で動くようにした。その結果として、KVM上のubuntuのサポートもする。さらに、x86ベースのLinuxソフトウェアの移植性を高めるために、Little Endianにも対応した。これらLinuxへの積極的な対応姿勢も、Power Systemsのオープンサーバー化を表すものだろう。

 ここ最近IBMは、クラウドでのOpenStackへの対応、BlueMixのようなPaaSの上でのISVなどを取り込むエコシステムの構築(関連記事)。さらには、今回のようなPower Systemsのオープンプラットフォーム化というように、「オープン」をキーワードにした戦略が目立つ。これらは、IBMのサーバービジネスやクラウドビジネスの変化というよりも、IBMという企業そのものが「オープン」というキーワードの許に変化していることの表れかもしれない。

 オープンにしてエコシステムを回す。クラウドが普及しオープンソースソフトウェアが地位を確立している現状では、これは必然の動きなのだろう。IBMでは、JavaやLinuxの開発コミュニティへの貢献はこれまでも積極的に行ってきた。しかし、自らが率先してコミュニティを作り、そこにさまざまなプレイヤーを取り込みオープンなエコシステムを回す経験はあまりないだろう。これもまたIBMにとっては、大きなチャレンジなのかもしれない。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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