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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

正式契約を渋り続けたユーザと我慢できなかったベンダ

 先日、翔泳社さんの主催で、RFP(提案依頼書)の書き方についての研修を打たせていただきました。RFPを書く立場のITユーザの方、受け取る側であるベンダの方にお集まりの中、楽しくも有意義な時間を過ごすことができました。お集まりの皆様、改めまして御礼申し上げます。

 ITの導入は、このRFP (場合によっては、RFI(情報提供依頼)) から始まって、ベンダからの提案→交渉→契約→プロジェクト開始と進むのが正論ではありますが、私の経験上、このように正しい段階を踏まないプロジェクトもかなりあり、特に、正式な契約を結ばないままにプロジェクトがスタートするケースは多々あります。

 交渉の結果、プロジェクトの範囲や成果物、スケジュール、それに金額についてほぼ合意できたのでプロジェクトをスタートさせたが、契約には著作権等の諸権利や厳密な金額等、まだ未決事項が多く契約はできない。しかし、このままでは、本稼働が遅れてしまうからと、契約を待たずに作業着手してしまうといったことは、以前より減った感がありますが今でも時々聞きます。

 それでも、プロジェクトの実施中に、当初の合意事項通りに契約ができてしまえば、一応、プロジェクトは完遂できますが、時にはスタートしたプロジェクトが契約交渉不調のために途中で頓挫してしまい、そこまでの費用の支払い等を巡ってユーザとベンダが争うケースも少なくありません。今回は、そんな事件を取り上げてみたいと思います。以下の判例をご覧ください。

契約前に作業着手して失敗したIT導入プロジェクトの例

 東京地裁平成24年4月16日判決より

 ある健康関連事業を行う財団法人(以下 ユーザ) がITベンダに健康診断関連システムの開発を依頼した。ユーザはベンダ選定にあたり、新システムの概要を記したRFPを提示し、ベンダが、これに対して提案書を提示したが、RFPの内容も、提案書、見積書も、その内容は、いずれも詳細まで詰められたものではなく、システムへのニーズも、それに対する金額も正式に決定してはいなかった。

 ユーザは、この状態のまま、平成19年4月、ベンダに対して「当事業団新健診システム構築事業者と決定致しました」と通知し、プロジェクトがスタートした。両者は、金額の定まらないまま仕様打ち合わせを重ねたが、この間、ベンダからは正式見積もりが提示された。しかし、ユーザは、これに回答をしないまま、6月末を迎えた。

 少し補足をさせていただくと、ベンダが提案時に提示した概算見積もりは、初期費用が約1億6千万円でしたが、ユーザとしては、やはり、大きな減額を望んでいたようで、これが原因で契約を結ぼうとしなかったようです。ただ、この時期まで、そのことはベンダに言わず、社内調整等に励んでいたようです。

 一方のベンダは、ユーザから何も言ってこないということは、基本的に当初見積もりを踏襲した金額で契約を結べるものと考えていたようです。そんなことも頭に入れながら、続きを読んでみてください。

 東京地裁平成24年4月16日判決より(つづき)

 しかし、この時期になってもユーザはベンダとの契約を結ぼうとせず、ベンダは、正式発注がこれ以上遅れるようなら、プロジェクトを中止する旨を申し入れた。ユーザは、7月4日にベンダに減額を要求するとともに、発注はするので、作業は継続して欲しい旨を申し入れた。ベンダは、作業は継続するが、費用は下げられないと答え、両者はさらに交渉を継続した。

 しかし、9月になっても交渉は成立せず、結局、ベンダからユーザに契約を結ばない旨を申し入れてプロジェクトは頓挫した。

 その後、ベンダはユーザに対して、そこまでに行った作業の費用、約9千万円を損害賠償として請求したが、ユーザは、これに応じずに訴訟となった。

次のページ
ベンダのプロジェクト管理義務違反かユーザの信義則違反か。

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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